IQOSと紙巻きたばこの違いを理解するには、「排出される有害物質の量」「人体に取り込まれる量」「実際の病気の発症リスク」という3つを分けて考える必要があります。
IQOSはたばこ葉を燃焼させないため、一酸化炭素や一部の燃焼由来物質が少なくなる傾向があります。しかし、加熱によって生じる化学物質や、たばこ葉そのものに由来する有害成分は残ります。
| 比較項目 | IQOS・加熱式たばこ | 紙巻きたばこ | 健康面での評価 |
|---|---|---|---|
| たばこの加熱方法 | たばこ葉を電気的に加熱 | たばこ葉を燃焼 | 発生する化学物質の構成が異なる |
| 一酸化炭素 | 一般に少ない | 多く発生する | IQOSでは燃焼由来の曝露が低減する傾向 |
| ニコチン | 含有・吸入される | 含有・吸入される | 依存性や循環器への影響が残る |
| 発がん性関連物質 | NNK、NNNなどが検出される | 多様な発がん性物質が含まれる | IQOSでも有害成分への曝露は避けられない |
| その他の有害化学物質 | 一部は低減するが、物質によっては同程度または多い場合がある | 燃焼由来の有害物質が多い | 物質ごとの比較が必要 |
| がん発症リスク | 長期的な直接評価が不足 | 複数のがんとの因果関係が確立 | IQOSのリスク低減率は確定していない |
| 受動喫煙 | 周囲への有害物質の放出がある | 副流煙や呼出煙による曝露がある | どちらも周囲の人への曝露を生じさせる |
IQOSについて語られる際によく登場するのが、有害化学物質の発生量を大幅に削減できるという説明です。
しかし、厚生労働科学研究の2025年度報告では、たばこ産業が示す90%以上の削減という主張は、研究用標準紙巻きたばことの排出量比較に基づいていると整理されています。
実際の喫煙者を対象にした尿中曝露バイオマーカーでは、低減幅は約半減にとどまるという結果でした。
ここには重要な違いがあります。実験装置を使って測定した排出量と、人間が実際に吸入し、体内に取り込んだ物質の量は必ずしも一致しません。
加えて、特定の有害物質が半分になったとしても、がんの発症確率まで半分になるとは限りません。化学物質ごとに毒性や作用する部位、人体への蓄積、曝露量と健康影響の関係が異なるためです。
IQOSと紙巻きたばこ、どちらが危険なのか紙巻きたばこは、肺がんをはじめとする複数のがんとの因果関係が確立している製品です。一方、IQOSは長期的ながん発症データが不足しており、両者のリスクを同じ尺度で比較することができません。
一部の有害物質への曝露が減ることは、科学的に意味のある情報です。しかし、それだけでIQOSが健康面で安全、あるいはがんリスクが十分に低いと判断することはできません。
また、紙巻きたばことIQOSを併用する場合は、紙巻きたばこの有害物質への曝露も継続します。IQOSを追加しただけで健康リスクが下がると考えるのは適切ではありません。
【WHO・FDAの見解】IQOSは安全と認められているのか?

IQOSの健康影響を考える際、国際機関の見解も重要です。特に注目されるのが、世界保健機関(WHO)と米国食品医薬品局(FDA)の立場です。
両者は異なる制度や評価方法を採用していますが、共通して理解すべきなのは、有害物質への曝露が減ることと、病気になるリスクが減ることを同一視していない点です。
WHOは加熱式たばこを無害とは認めていないWHOは、加熱式たばこを含むすべてのたばこ製品について、健康への悪影響を問題視しています。
WHOが2026年6月26日に更新したたばことニコチンに関するファクトシートでは、加熱式たばこはニコチンや有害化学物質を含むエアロゾルを発生させる製品として説明されています。また、たばこ製品の使用には安全な曝露水準が存在しないという立場を示しています。
WHOが2025年11月12日に公表したたばこ規制とハームリダクションに関する見解でも、加熱式たばこを含む新しいニコチン製品について、企業が掲げるリスク低減の主張をそのまま公衆衛生上の利益とみなすことに警鐘を鳴らしています。
つまり、WHOの見解は、加熱式たばこなら健康への影響を心配しなくてよいという考え方を支持するものではありません。
FDAは2026年4月にIQOSの曝露低減表示を更新一方、FDAはIQOSについて、一定の条件を満たした製品に限り、曝露低減に関する表示を認めています。
2026年4月17日、FDAはIQOS 2.4、IQOS 3.0のシステムおよび指定された3種類のHeatSticksについて、曝露低減に関する表示の許可を更新しました。
認められた主張の中心は、IQOSがたばこを燃焼させずに加熱することによって、有害・有害性の可能性がある化学物質の発生を大幅に減らすこと、そして紙巻きたばこからIQOSに完全に切り替えた場合、人体がそれらの化学物質に曝露する量が大幅に減少するというものです。
ただし、ここで見落としてはいけないのが、FDAが認めたのは特定製品についての曝露低減表示だという点です。
FDAはIQOSを安全な製品と認定したわけではなく、IQOSを使えばがんになる確率が下がるという一般的なリスク低減表示も認めていません。
また、今回の許可対象は米国で申請された特定の旧世代システムと専用たばこスティックです。日本で販売されているすべてのIQOS製品や、すべての加熱式たばこに同じ許可が適用されるわけではありません。
FDAは許可更新に際して、販売後の使用実態や利用者の理解についても調査を求めています。これは、曝露低減を示す科学的根拠があっても、実際の利用者がどのように製品を使うかによって公衆衛生上の評価が変わり得るためです。
WHOとFDAの見解を整理すると両機関の立場を混同しないために、判断の違いを整理します。
- WHO:加熱式たばこを含むたばこ製品の健康被害を重視し、安全な曝露水準はないとする。
- FDA:指定されたIQOS製品について、紙巻きたばこから完全に切り替えた場合の有害物質への曝露低減表示を認める。
- 共通する注意点:曝露量が減ることは、安全性が保証されることや、がんリスクの低下が直接証明されることを意味しない。
【受動喫煙と長期リスク】IQOSを吸わない家族にも影響はある?
IQOSの発がん性を考える際、本人の健康だけでなく、周囲の人が吸い込むエアロゾルの影響も見逃せません。
紙巻きたばこと比べて煙や臭いが少ないことから、家族や職場の人に迷惑をかけにくいと考える人もいます。しかし、目に見える煙が少ないことと、有害物質への曝露がないことは別問題です。
IQOSの受動喫煙でも有害物質は検出される2026年の厚生労働科学研究では、加熱式たばこの受動喫煙についても重要な知見が示されました。
非喫煙者である使用者の家族について、曝露を示すバイオマーカーの上昇が確認されています。また、副流煙中のNNK量自体は少ないものの、家族の近くで使用する状況では、紙巻きたばこの受動喫煙と同程度の曝露が生じる可能性が指摘されました。
2026年7月16日の厚生労働省・第8回受動喫煙対策専門委員会でも、加熱式たばこの主流煙と副流煙の双方から有害物質や発がん性が指摘される成分が検出されていることが説明されています。
加えて、受動喫煙に曝露した人の生体試料からニコチンなどの代謝物が確認され、発がん物質の体内取り込み量が紙巻きたばこの受動喫煙と同程度になる場合があるという知見も共有されました。
したがって、家族や子どもがいる場所でIQOSを使用することを、無害な行為として扱うことはできません。
長期的ながんリスクがまだ確定していない理由IQOSを含む加熱式たばこの長期的ながんリスクが確定していない背景には、研究上の難しさがあります。
主な理由は次の4つです。
1.使用期間が比較的短い
日本で加熱式たばこの販売が始まったのは2013年です。紙巻きたばこに関する長期研究と比較すると、使用者を数十年単位で追跡したデータが不足しています。がんは発症までに長い時間がかかる場合があるため、短期間の調査だけではリスクを正確に評価できません。
2.紙巻きたばことの併用がある
IQOSの使用者の中には、紙巻きたばこも吸い続ける人がいます。こうした併用者を対象にした研究では、どちらの製品が健康影響に寄与したのかを分けて評価することが難しくなります。
3.製品や使用方法によって曝露量が変わる
加熱温度、たばこスティックの種類、使用回数、吸入方法などによって、人体に取り込まれる化学物質の量や種類は変わります。加熱式たばこ全体の研究結果を、そのまま特定のIQOS製品の数値として扱うことはできません。
4.研究資金によって結果に違いがある
厚生労働科学研究では、たばこ産業から資金提供を受けた研究と、独立した資金による研究の間で、動物実験や細胞実験の結論に違いがみられることも指摘されています。
このような背景から、2026年時点では、IQOSを長期使用した場合のがん発症率や、紙巻きたばこと比較した具体的なリスク低減率を確定できる段階にはありません。
厚生労働省も、加熱式たばこの健康影響について引き続き研究を進め、国内外の科学的知見を収集する方針を示しています。
【プロの結論】IQOSを使い続けても大丈夫?判断すべき5つのポイント
IQOSに関する情報を読み解く際は、「紙巻きたばこより有害物質が少ない」という説明だけで判断しないことが大切です。
健康面での判断基準を5つに整理します。
① IQOSは無害な製品ではない
加熱式たばこにはニコチンや発がん性が指摘される化学物質が含まれています。燃焼を伴わないことは、健康被害がないことを意味しません。
② 有害物質の低減とがんリスクの低減を混同しない
一部の化学物質の曝露が減ったとしても、肺がんやその他のがんの発症率が同じ割合で減少するとは限りません。
③ 紙巻きたばことの併用は避けるべき
紙巻きたばことIQOSを併用すると、紙巻きたばこ由来の有害物質への曝露が残ります。IQOSを追加しただけで健康上のメリットが得られるとは考えられません。
④ 周囲の人への曝露にも配慮する
IQOSのエアロゾルにも有害物質が含まれます。家族、子ども、妊婦、非喫煙者の近くで使用しないことが基本です。
⑤ 健康を守るなら禁煙を目指す
IQOSへの切り替えを禁煙と同じものとして扱うことはできません。ニコチン依存から離れるためには、禁煙外来や医療機関の支援を利用する方法があります。加熱式たばこ使用者も健康保険による禁煙治療の対象です。
特に、これまでたばこを吸ったことがない人がIQOSを始めることには、健康上のメリットはありません。
【IQOSの発がん性】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:IQOSを吸うと肺がんになりますか?
A1:IQOSの使用による肺がん発症率を直接評価できる長期疫学研究は不足しています。ただし、NNKやベンゾ[a]ピレンなど、肺がんとの関連が指摘される物質への曝露が懸念されています。がんにならないと保証する根拠はありません。
Q2:IQOSは紙巻きたばこより発がん性が低いですか?
A2:一部の有害化学物質の排出量や人体への曝露量は紙巻きたばこより低い傾向があります。しかし、発がんリスクそのものがどの程度低くなるかは確定していません。
Q3:IQOSには発がん性物質が含まれていますか?
A3:含まれています。厚生労働科学研究では、加熱式たばこからNNK、NNN、ベンゾ[a]ピレンなど、発がん性が懸念される物質が確認されています。ただし、含有量は製品や測定条件によって異なります。
Q4:IQOSの煙を家族が吸っても問題ありませんか?
A4:安全とはいえません。加熱式たばこの周囲への排出物には有害物質が含まれ、非喫煙者の体内にニコチンなどの代謝物が確認された研究もあります。屋内や家族の近くでの使用は避けるべきです。
Q5:FDAがIQOSを認めているなら安全なのでは?
A5:FDAが2026年4月に更新したのは、指定製品に対する有害物質への曝露低減表示です。安全性の保証や、がんリスクの低減を証明する認定ではありません。
Q6:IQOSを長年使い続けた場合の影響は分かっていますか?
A6:長期的ながん発症リスクはまだ確定していません。製品の普及からの期間や疫学データの不足などが理由です。今後も長期的な追跡研究が必要です。
2026年11月時点で、IQOSに発がん性があるのかという疑問に対する科学的な答えは、発がん性が懸念される物質への曝露は確認されているものの、実際のがん発症リスクの程度はまだ確定していない、というものです。
厚生労働省の研究班は、加熱式たばこの一部の有害物質が紙巻きたばこより少ないことを認める一方、ニコチン依存や循環器系への影響、発がん性関連物質への曝露、受動喫煙の問題を指摘しています。
WHOは加熱式たばこを含むたばこ製品の健康被害を警告し、FDAは指定されたIQOS製品について、紙巻きたばこから完全に切り替えた場合の曝露低減表示を認めています。ただし、どちらの見解もIQOSを無害な製品として認定するものではありません。
今後の焦点は、使用者を長期間追跡する疫学研究の蓄積と、製品ごとの有害物質の曝露量をより正確に把握することです。2026年7月の厚生労働省専門委員会でも、継続的な研究と知見の収集が必要とされています。
「紙巻きたばこより煙が少ないから安心」「FDAが認めたからがんにならない」という理解は、科学的な評価とは異なります。健康リスクを避けたいのであれば、IQOSへの切り替えを最終目標にするのではなく、たばこ製品そのものを使用しない状態を目指すことが最も確実な判断です。
主な根拠資料(記事外)
- 厚生労働科学研究成果データベース「加熱式たばこの化学的特性と健康リスクに関する科学的エビデンス構築に係る研究」
- 厚生労働省「第8回受動喫煙対策専門委員会」2026年7月16日
- FDA「FDA Renews Authorization for Five IQOS Products」2026年4月17日
- WHO「Tobacco and nicotine」2026年6月26日、2025年11月12日付ポジションペーパー