「吟じます!」という独特の掛け声と、最後を締めくくる「あると思います!」。このフレーズで一世を風靡したのが、お笑いコンビ「天津」の天津木村こと木村卓寛(きむら・たくひろ)です。詩吟と際どい下ネタを組み合わせた「エロ詩吟」で2008年にブレイクし、翌2009年には「あると思います」が新語・流行語大賞の候補に選ばれました。
しかし、ブームが落ち着いた後の木村卓寛は、単に過去の人気ネタを懐かしむだけの芸人ではありません。2021年に家族と岩手県へ移住し、2026年現在は岩手朝日テレビの番組MCや地域の魅力を発信するタレントとして活動しています。かつて全国区の人気を集めた芸風は、地方での仕事にどのようにつながっているのでしょうか。
【元ネタを解説】「吟じます」は天津木村のエロ詩吟から生まれた決めゼリフ

「吟じます」の元ネタは、お笑い芸人・天津木村が披露していたピン芸「エロ詩吟」です。
和装姿で登場した木村が「吟じます!」と宣言し、詩吟特有の節回しで男女の恋愛や日常に潜む少し際どい場面を表現。最後に「あると思います!」と自信たっぷりに締めくくるのが基本の構成でした。
「吟じます」の本来の意味とは?「吟じます」は、動詞「吟ずる」の丁寧な表現です。小学館のデジタル大辞泉では、「吟ずる」は詩歌に節をつけて歌うこと、また詩歌を作ることなどを意味します。
つまり、単に文章を読み上げるのではなく、独特の節や抑揚をつけて詩を表現する行為です。
詩吟は、漢詩や和歌などに節をつけて声で表現する日本の伝統芸道。公益財団法人日本吟剣詩舞振興会も、吟詠を詩吟とも呼ばれる芸道として紹介しています。
木村のネタは、この伝統的な表現方法をお笑いに取り入れた点が特徴でした。厳かな雰囲気で始まり、内容は意外性のある下ネタという落差が、笑いを生み出す仕組みになっていたのです。
「吟じます」と「あると思います」は何が違う?この2つは別々のネタではなく、同じエロ詩吟の中で使われるフレーズです。
- 吟じます!:これから詩吟を披露することを知らせる冒頭の掛け声。
- なんだか今日いけそうな気がする~:ネタの内容を盛り上げる定番のフレーズ。
- あると思います!:吟じ終わった後に付け加える締めの決めゼリフ。
特に「あると思います」は、何とも言えない自信と余韻を残す言い方が特徴です。内容のきわどさと、詩吟の格式ある節回しとのギャップが、言葉そのものの面白さを引き立てていました。
【エロ詩吟の誕生秘話】麒麟のラジオとオールザッツ漫才がブレイクのきっかけ
エロ詩吟は、最初から計算された大ヒット企画だったわけではありません。木村卓寛自身が、芸人としての方向性に悩んでいた時期に生まれた即興芸でした。
漫才を辞めようと考えていた時期に生まれた2015年の日刊ゲンダイのインタビューで、木村はエロ詩吟が生まれた経緯を明かしています。
1999年に同期の向清太朗とお笑いコンビ「天津」を結成した木村は、長く大阪を拠点に活動していました。しかし、思うような結果が出ず、30歳前後には漫才を辞めようと考えていたといいます。
そんなとき、きっかけになったのが先輩芸人・麒麟のラジオ番組でした。
番組内で特技を尋ねられた木村は、詩吟ができることを紹介します。実は、木村の家庭では祖父の代から詩吟教室を開いており、父親も師範。本人も詩吟の師範代の免許を持っていました。
そこで、詩吟の節回しに恋愛の際どいシチュエーションを乗せた即興ネタを披露したところ、予想以上の反応を得ます。これがエロ詩吟の原型となりました。
重要なのは、木村がもともと持っていた伝統芸能の技術を、芸人としての新しい表現に転換したことです。まったく新しい特技を身につけたのではなく、長年培ってきた技術の使い方を変えた結果でした。
2007年末の「オールザッツ漫才」で起きた出来事エロ詩吟が広く知られるようになった大きな転機は、2007年末にMBSで放送された関西ローカルのお笑い番組「オールザッツ漫才」です。
木村は深夜の生放送で、性的な内容を想像させるエロ詩吟を披露しました。ネタ自体は直接的な性的表現を避けていたものの、その直後に番組画面へお詫びのテロップが表示されます。
先ほどの天津のネタで不適切な表現があったことをお詫びします。
この出来事について、木村は日刊ゲンダイの取材で、番組側に事前相談をしていたわけではなかったと説明しています。
ところが、このお詫びテロップが思わぬ宣伝効果を生みました。「持ちネタで番組からお詫びのテロップが出た芸人がいる」という話が東京にも伝わり、テレビ東京の「やりすぎコージー」やフジテレビの「爆笑レッドカーペット」への出演につながっていったのです。
放送上のハプニングが、結果として全国区への足掛かりになったという、異例のブレイクストーリーでした。
2008年の書籍発売で人気がさらに拡大2008年9月には、書籍「天津 木村のエロ詩吟、吟じます。」を発売。発売記念イベントでは、木村自身が報道陣の前でネタを披露しました。
日刊ゲンダイの2015年の取材では、第2弾も含めて関連書籍が約15万部売れたと紹介されています。
テレビ出演だけでなく書籍化まで実現したことからも、当時のエロ詩吟が一時的なテレビの話題にとどまらない人気を獲得していたことが分かります。
【経歴・年表】天津木村のブレイクから岩手移住までを時系列で整理
天津木村の経歴を理解するには、ブレイク前の下積み時代、エロ詩吟による全国的な人気、ブーム後の苦境、そして岩手での再出発という4つの段階に分けると分かりやすくなります。
以下は、木村卓寛と関係者、番組、活動の主な関係を整理したものです。
| 時期 | 人物・出来事 | 内容・関係性 |
|---|---|---|
| 1999年2月 | 天津結成 | 木村卓寛と向清太朗がコンビを結成。 |
| ブレイク前 | 麒麟のラジオ番組 | 特技を尋ねられたことがエロ詩吟誕生のきっかけ。 |
| 2007年末 | オールザッツ漫才 | お詫びテロップが話題となり、東京での出演機会につながる。 |
| 2008年 | エロ詩吟でブレイク | テレビ出演や書籍発売を通じて全国的な知名度を獲得。 |
| 2009年 | 新語・流行語大賞 | 「あると思います」が候補語にノミネート。 |
| ブーム後 | 芸能活動の転換期 | テレビ出演が減少。仕事の幅を模索する時期を経験。 |
| 2021年3月 | 岩手県へ移住 | 岩手朝日テレビの新番組出演を機に、家族で移住。 |
| 2021年4月3日 | Go!Go!いわて | 岩手朝日テレビの番組MCとして活動開始。 |
| 2021年11月 | いわて牛応援団長 | JA全農いわてから任命され、地域の特産品をPR。 |
| 2026年 | 岩手を中心に活動 | テレビ・ラジオ・イベントなどで地域密着型の仕事を継続。 |
天津木村はピン芸人としての印象が強いものの、もともとは漫才コンビ「天津」のメンバーです。
相方の向清太朗とは1999年2月にコンビを結成。木村がエロ詩吟で注目を集める一方、向もアニメ関連の仕事など、それぞれ異なる分野で活動してきました。
2024年のラジオ関西のインタビューによると、2人は別々の地域で仕事をしながらもコンビ活動を継続。月1回のリモート配信「天津定例報告会」を実施し、毎年単独ライブも開催していました。
木村は岩手に移住してから、離れて活動する現在の距離感についても前向きに語っています。全国的なブームを経験したコンビが、それぞれの得意分野を生かしながら活動を続けている点も見逃せません。
【流行語大賞の真相】「あると思います」は2009年にノミネートされた
「あると思います」は、天津木村の代表的な決めゼリフとして広く知られるようになり、2009年の「ユーキャン新語・流行語大賞」の候補語にも選ばれました。
この点は、単なるネット上の評判ではありません。2010年のMANTANWEBの記事でも、前年に「あると思います」が候補語にノミネートされたことが紹介されています。また、JLogosの現代用語関連の解説にも、2009年の候補語として掲載されています。
ノミネートとトップテン入りは別ここで間違えやすいのが、ノミネートされたことと、賞を受賞したことを混同する点です。
2009年の候補語には「あると思います」のほか、オードリーの「トゥース」などもありました。しかし、年間大賞とトップテンには選ばれていません。
2009年の年間大賞は「政権交代」。トップテンには「こども店長」「事業仕分け」「草食男子」「脱官僚」「歴女」などが並びました。
つまり、「あると思います」は2009年の新語・流行語大賞候補にノミネートされたものの、受賞には至らなかったというのが正確な経緯です。
なぜ「あると思います」が広く浸透したのかこのフレーズが強かった理由は、短く、意味が直感的で、日常会話にも転用しやすかったことにあります。
通常の会話では、何かに可能性を感じたときに「あると思います」と答えます。木村のネタでは、その言葉を詩吟の締めとして大げさに言い切ることで、独特の笑いが生まれていました。
加えて、「吟じます」という冒頭の宣言とセットで記憶されやすく、ネタの内容を知らない人でもフレーズだけで芸人を思い出せるという強みがありました。
一連のネタが短い決めゼリフとして切り取られ、テレビや日常会話で繰り返されたことが、人気の拡大につながったと考えられます。
【2026年最新】天津木村の現在は?岩手移住後の活動と暮らし
エロ詩吟のブームが落ち着いた後、木村卓寛は芸能活動の転換期を迎えました。2026年現在の活動拠点は岩手県盛岡市。かつての全国区の人気芸人から、東北の魅力を伝える地域密着型のタレントへと仕事の軸を移しています。
2021年、岩手朝日テレビの番組出演を機に移住大きな転機となったのは、岩手朝日テレビからのオファーでした。
2021年3月12日付の岩手朝日テレビのプレスリリースでは、木村を「いわて応援芸人」として迎え、同年4月から始まる新番組「Go!Go!いわて」のMCに起用することが発表されました。
当初、木村は毎週岩手に通う働き方も考えていたそうです。しかし、当時運転手として仕事をしていたヒロミに相談したところ、現地の人々と同じ空気を吸い、同じ景色を見て暮らすことの大切さを助言されました。
2026年10月6日公開のCHANTO WEBのインタビューでは、ヒロミの言葉が移住を決断する大きな後押しになったと振り返っています。
また、最初は単身赴任を考えていたものの、妻の提案もあり、最終的には家族全員で岩手へ移住することになりました。
Go!Go!いわてのMCとして地域の魅力を発信2021年4月3日にスタートした「Go!Go!いわて」は、岩手朝日テレビの土曜朝の情報バラエティ番組です。
2026年11月時点でも、番組公式ページには天津木村がMCとして掲載されています。岩手県内の話題や観光、食、地域の人々を取り上げる番組で、木村は「いわて応援芸人」として県内各地を訪れています。
2026年10月のCHANTO WEBの取材では、岩手県内で同番組を含むレギュラー番組を3本担当し、青森県でもレギュラー番組を持っていると紹介されました。
また、テレビだけでなく、エフエム岩手のラジオ番組「天津木村の、今夜ええコトあると思います!」などにも出演。イベントや地域の情報発信にも活動の幅を広げています。
岩手県のアンバサダーや応援団長としても活躍木村の活動はテレビ出演だけにとどまりません。
- いわて暮らしアンバサダー:岩手県の暮らしの魅力を発信する役割。
- いわて牛応援団長:JA全農いわてが2021年11月26日に任命。岩手県産ブランド牛の魅力を県内外に紹介する活動。
- いわて純情米応援団長:岩手県産米の魅力を伝える活動。
岩手県の公式ページにも、天津木村こと木村卓寛が「いわて暮らしアンバサダー」として掲載されています。
JA全農いわての2021年12月15日付の発表では、いわて牛応援団長への就任が正式に公表されました。地域の食や暮らしを紹介する仕事が、継続的な活動の柱になっています。
2026年も「吟じます」は健在!楽天のセレモニアルピッチにも登場2026年9月2日には、盛岡市のきたぎんボールパークで開催された東北楽天ゴールデンイーグルス対オリックス・バファローズ戦のセレモニアルピッチに登場しました。
パ・リーグ公式の報道によると、木村は楽天の勝利を願って一句を吟じた後、マウンドから投球。記事の見出しにも「楽天イーグルスの勝利、あると思います!」という言葉が使われています。
かつてのエロ詩吟の決めゼリフが、現在は地元スポーツを盛り上げる応援の表現としても使われているのです。
これは、過去の持ちネタを単に再現しているだけではありません。土地やイベントに合わせて言葉を作り、地域の人々と一緒に楽しむという、新しい活用方法が定着していることを示しています。
【昔と今を比較】エロ詩吟時代と2026年の芸風はどう変わった?
天津木村の昔と現在を比べると、最も大きな変化は、笑いを届ける対象と仕事の目的にあります。
昔はインパクト重視のエロ詩吟2008年前後の木村は、詩吟と下ネタという意外な組み合わせを武器に、テレビの短い出演時間でも強い印象を残す芸人でした。
「吟じます」という宣言から始まり、独特の節回し、際どい内容、最後の「あると思います」という構成は、短時間で笑いを生み出すための完成されたスタイルでした。
一方で、ネタの特徴が強かったことは、芸人としてのイメージがエロ詩吟に集中しやすいという側面も持っていました。ブームが落ち着くと、同じ芸風だけでテレビ出演を維持することは難しくなります。
ブーム後は仕事の幅を広げる時期に2015年の日刊スポーツの報道では、木村はブレイク後にテレビ出演が減少し、収入が大幅に落ち込んだ時期について語っています。
2026年4月の東洋経済オンラインのインタビューでも、月収が大きく減少した時期を経て、岩手移住によって新しい仕事の基盤を築いた経緯が取り上げられました。
その過程で、木村はヒロミの運転手を務めるなど、芸人以外の仕事も経験しています。全国的な人気を一度獲得したからといって、その後の仕事が自動的に保証されるわけではありません。
むしろ、ブームが終わった後にどのような働き方を選ぶかが、キャリアを左右することになりました。
現在は地域密着型のMC・リポーターへ2026年の木村は、地域情報番組のMCやリポーターとして、岩手の人々や観光地、食文化を紹介する仕事が中心です。
昔のようにエロ詩吟の意外性だけで笑わせるのではなく、現地の人との会話や地域の魅力を引き出すことが、現在の芸風の大きな特徴です。
ただし、詩吟そのものを捨てたわけではありません。2026年の楽天戦でのセレモニアルピッチのように、必要な場面では詩吟と決めゼリフを組み合わせています。
言い換えれば、芸の核は残しながら、披露する場所と役割を変えたということです。
プロの結論:天津木村の強みは「芸の再利用」にある木村のキャリアから読み取れるのは、一つの持ちネタを持ち続けることと、そのネタだけに依存することは違うという点です。
エロ詩吟で培った声の使い方、間の取り方、言葉の印象づけ、観客の反応を読む力は、地域番組のMCやイベントの司会にも応用できます。
加えて、詩吟という独自の技術があるため、地域の特産品やスポーツイベントを紹介する際にも、ほかのタレントとは異なる表現ができます。
全国区の人気を追い続けるのではなく、特定の地域で必要とされる存在になる。木村の岩手での活動は、芸人のキャリア形成における一つの選択肢を示しています。
【よくある質問】「吟じます」と天津木村に関するFAQ
Q1:「吟じます」は誰の決めゼリフですか?
A1:お笑いコンビ「天津」の天津木村こと木村卓寛の代表的な決めゼリフです。エロ詩吟の冒頭で使われていました。
Q2:「吟じます」の元ネタは何ですか?
A2:詩吟と下ネタを融合させた「エロ詩吟」です。麒麟のラジオ番組で特技を尋ねられた際に、木村が即興で披露したことが誕生のきっかけとされています。
Q3:「あると思います」は流行語大賞を受賞しましたか?
A3:2009年の新語・流行語大賞候補にノミネートされましたが、年間大賞やトップテンには選ばれていません。
Q4:天津木村は詩吟の師範ですか?
A4:本人は詩吟の師範代の免許を持っています。父親は師範で、祖父の代から詩吟教室を開いていた家庭環境で育ちました。
Q5:天津木村は現在も岩手県に住んでいますか?
A5:はい。2021年に岩手県へ移住し、2026年現在も岩手を拠点に活動しています。岩手朝日テレビの「Go!Go!いわて」でMCを務めるほか、ラジオやイベントなどにも出演しています。
Q6:天津木村は現在もエロ詩吟を披露していますか?
A6:現在の主な仕事は地域番組のMCや情報発信ですが、詩吟の技術や「あると思います」というフレーズは現在も活用しています。2026年9月の楽天戦では、勝利を願う一句を披露しました。
「吟じます」は、天津木村こと木村卓寛が生み出したエロ詩吟の代表的な掛け声です。麒麟のラジオ番組での即興ネタを出発点に、2007年末の「オールザッツ漫才」での出来事を経て、2008年に全国的な人気を獲得しました。
そして、2009年には「あると思います」が新語・流行語大賞にノミネートされるなど、当時のお笑い界を象徴するフレーズの一つになりました。
その後はブームの終息や仕事の減少を経験しましたが、2021年の岩手移住を機に新たなキャリアを築きます。2026年現在は、テレビ・ラジオ・イベントを通じて岩手や東北の魅力を発信するタレントとして活動を続けています。
昔のエロ詩吟と現在の地域密着型の仕事は、一見するとまったく違う芸風に見える可能性があります。しかし、その根底には、詩吟の技術を生かした言葉の表現力と、観客や視聴者を楽しませようとする姿勢があります。
「吟じます」は懐かしい一発ギャグとして終わったわけではありません。2026年の岩手でも、地域を盛り上げる言葉として新しい形で生き続けています。天津木村のこれからの活動にも、かつての決めゼリフと同じように「あると思います!」と期待したくなります。
【編集部注目の判断ポイント】天津木村の現在を知る際は、過去のエロ詩吟だけでなく、岩手朝日テレビの番組出演、岩手県の公式アンバサダー情報、2026年の地域イベントでの活動を合わせて見ると、ブレイク後のキャリアの変化がよく分かります。