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【担当者は誰だった?】教会側の説明と塗装工による作業の実態

宮部 宗介 宮部 宗介 • 更新: • 公開: • 読了約 16 分
目次

この騒動で特に注目されたのが、天使像に色を塗った人物の専門性と、工事を発注した教会側の責任だ。

教会側は「天使像以外は計画どおり」と説明

2024年8月2日、オスマ=ソリア教区は騒動を受けて公式声明を発表した。

声明の趣旨は、教会内部の塗装を目的とした通常の保存作業を実施し、必要な許可も申請していたというものだった。一方、天使像の仕上がりについては、ほかの工事部分とは異なる問題があったと説明した。

「工事の結果は予定どおりだった。ただし、コーニスにある天使像の最終的な仕上げを除く」

2024年8月2日付・オスマ=ソリア教区声明の趣旨(日本語訳)

この説明から分かるのは、教会側が工事全体を全面的な失敗と認めたわけではないということだ。問題視されたのは、特に天使像の最終的な着色だった。

しかし、壁や柱も従来の白からサーモンピンク系に変わっており、文化財保護の専門家からは、教会全体の装飾をどう扱ったのかという疑問も出ていた。

担当者は文化財修復の専門家ではなかった

2024年8月3日、教区の文化財担当者ホセ・サラ氏(José Sala)が地元紙『Heraldo-Diario de Soria』の取材に応じた。

サラ氏は、今回の作業は厳密には修復ではなく、単なる塗り直しだったと説明。担当したのは、住宅などを塗装する一般的な塗装工だったと明かした。

「家や別荘を塗るような普通の塗装工が担当した」

ホセ・サラ氏の発言の日本語訳。2024年8月3日付『Heraldo-Diario de Soria』報道より

この発言は、騒動の核心を理解するうえで重要だ。

一般的な建築塗装と、歴史的な彫刻や装飾を対象とする文化財修復は、同じ作業ではない。建築塗装では見た目を整えることが主な目的になる一方、文化財修復では、既存の素材や塗膜、過去の修復履歴、歴史的価値を調査し、どこまで手を加えてよいかを判断する必要がある。

サラ氏の説明によって、今回の工事が専門的な保存修復作業として行われたものではなかったことが明確になった。

担当した会社や個人の名前は判明している?

2024年8月6日には、スペインのテレビ局Antena 3の番組『Y ahora Sonsoles』が、工事関係者をめぐる新たな映像を報道した。

番組が紹介したのは、工事が進んでいた時期に教会の入口付近に駐車していた、ソリアにある企業の車両の映像だった。番組は作業に関係した可能性を示す手がかりとして取り上げた。

ただし、これは担当者を確定する証拠ではない。企業名や個人名が正式に特定されたという報道とは区別する必要がある。

現地報道でも、実際の施工者の身元は明らかになっていないとされている。したがって、特定の会社や個人を今回の失敗の責任者として断定することはできない。

一方、工事の発注主体については、ディオセシス・デ・オスマ=ソリアのもと、サンタ・マリア・ラ・マヨール教区が工事を推進・契約したと報じられている。施工者の特定と、発注・管理上の責任は分けて考える必要がある。

【修復失敗の理由】文化財修復の専門家が厳しく批判した背景

スペイン修復失敗天使像

今回の騒動は、単に色の選び方が悪かったという問題ではない。文化財をどのような資格・知識・手順で扱うべきかという、スペインの文化遺産保護制度にも関係している。

1. 事前調査と修復計画が不十分だった

文化財修復では、作業を始める前に対象物の状態を調査する必要がある。

例えば、次のような項目が検討対象になる。

  • 現在の塗装がいつ、どのような材料で施されたものなのか。
  • 過去の塗装の下に、さらに古い仕上げが残っているか。
  • 彫刻や装飾の素材にどのような影響が生じるか。
  • 塗装を除去する場合、元の素材を傷つけずに処置できるか。
  • 色彩を変更する必要がある場合、その歴史的根拠は何か。

Soria Patrimonioは、今回の作業について事前調査や適切な介入計画が不足していたと批判した。

特に、教会内部の装飾を大幅に変更するのであれば、見栄えだけで判断するのではなく、建物全体の歴史的な価値を踏まえた判断が必要だったという主張だ。

2. 保存修復の専門家ではなく一般塗装業者が担当した

スペインの文化財修復・保存修復家協会にあたるACRE(Asociación Profesional de Conservadores-Restauradores de España)も、この問題を厳しく批判した。

同協会の会長フランシスコ・マヌエル・エスペホ氏(Francisco Manuel Espejo)は、文化財修復は専門資格と知識を持つ修復家が行うべきだと指摘した。

同氏は『The Guardian』の取材に対し、今回の作業を専門家による修復とは認められないという趣旨の見解を示している。

ACREが問題視したのは、仕上がりの美醜だけではない。地方自治体や州政府に専門家チームを配置し、作業を定期的に検査する仕組みが必要だという制度的な問題だった。

同協会は、複数分野の専門家によるチーム編成や、毎週の現場検査などを提案し、カスティーリャ・イ・レオン州の文化財担当部門に説明を求めた。

3. 建物の保護区分と行政手続きにも課題があった

もう一つの要点は、ミロン教会がスペインの重要文化財に相当するBIC(Bien de Interés Cultural)には指定されていなかったことだ。

しかし、BICに指定されていないからといって、保護されていない建物だったわけではない。

ミロン教会はソリア市の都市計画(PGOU)において、建物全体の特徴や装飾、仕上げを保存する「総合保護(Protección Integral)」の対象となっていた。

2024年8月2日のRTVE報道によると、教会側は工事に必要な手続きを行ったと説明しており、市側は2024年3月に工事・用途に関する責任宣言(Declaración Responsable)を提出していたことを確認している。

ここで重要なのは、通常の内部塗装に関する手続きと、歴史的装飾を対象とする専門的な修復計画の審査は同じではないという点だ。手続きが存在したことだけでは、作業内容や施工者の専門性まで適切だったとは証明できない。

ソリア市は工事について調査を開始し、州政府も技術者を現地に派遣して解決に協力した。

文化遺産保護団体と専門家の主張

今回の批判を整理すると、主な論点は次の3つに集約できる。

- Soria Patrimonio: 事前調査や専門的な修復計画を欠いた作業によって、教会の歴史的な外観が損なわれたと指摘。
- ACRE: 保存修復の専門家による作業、複数分野の専門家チーム、定期的な監督が必要だと主張。
- ソリア市・カスティーリャ・イ・レオン州: 建物の保護区分や行政手続きを踏まえ、現地調査と修復方法の調整を進めた。

なお、州政府の文化財担当者は、ミロン教会がBICではないことから、当初は行政が直接介入できる範囲に制約があると説明していた。専門家による修復の必要性と、行政がどこまで監督できるかという問題が重なった事例でもある。

【2026年最新】天使像は現在どうなった?修復計画に大きな進展

2026年7月30日・修復計画了承

今回の騒動で読者が最も知りたいのは、結局、天使像が元の白い姿に戻ったのかという点だろう。

2026年には、修復に向けた重要な進展があった。

2026年3月に塗装除去の試験を実施

2026年3月、教会内部の装飾について塗装除去の試験が行われた。

そこで検討されたのは、天使像の目・口・髪に施された塗装を取り除き、その下に残っている以前の白い仕上げを回復する方法だった。

対象は天使像だけではない。天使像を囲むロカイユ装飾、マスカロン(人面などをかたどった装飾)、コーニス、柱の付け柱部分にある柱頭なども含まれている。

つまり、2026年の修復計画は、話題になった赤い唇や黒い髪だけを直すものではなく、教会内部の装飾全体を対象にしたものへと広がっている。

2026年7月30日、州の文化財委員会が計画を了承

2026年7月30日、カスティーリャ・イ・レオン州ソリアの文化財委員会は、ミロン教会の装飾を部分修復する計画について、好意的な判断を示した。

計画を進めるにあたって、委員会は次の条件を示している。

  1. 後から塗られた塗料を可能な限り慎重に除去する。
  2. 色彩の補完は必要最小限にとどめる。
  3. 作業開始時には州の文化・観光・スポーツ担当部門へ通知する。
  4. 州の技術担当者が現場の作業を監督できるようにする。

これは、2024年の騒動で批判された「専門的な調査や監督が不十分だった」という問題に対し、技術的な管理を組み込んだ修復を目指す動きだ。

ただし、2026年7月30日の発表は修復計画への了承であり、修復工事の完了発表ではない。 2026年11月2日時点で、天使像がすでに白い姿へ戻ったと断定できる段階ではない。

元の白い姿に戻すことは、創建当初への復元と同じではない

ここには、文化財修復ならではの難しさがある。

2024年に教区のホセ・サラ氏が説明したところでは、騒動前の白い塗装は1980~90年代に施されたものだった。

つまり、現在目指しているのは、必ずしも18世紀の創建当初の色彩を復元することではない。直近の塗り直しより前に存在していた白い仕上げを、下層に残る状態から回復することが主な方向性となっている。

この違いは小さくない。歴史的建造物には、建設当初の仕上げだけでなく、その後の時代に加えられた改修や塗装も存在する。どの時代の状態を保存するのかは、調査結果や文化財としての価値を踏まえて判断しなければならない。

2026年の計画が単純な白塗り直しではなく、塗膜の除去試験や専門家による監督を伴っているのは、そのためだ。

なお、州の観光案内に掲載されているミロン教会の施設情報には、閉鎖中との表示が残っている。2026年の修復計画の了承と、一般見学の再開は別の問題であり、訪問を予定する場合は現地の教区や観光案内で最新の公開状況を確認する必要がある。

【スペインのエッケ・ホモ事件との違い】なぜ世界的な話題になった?

今回の天使像騒動は、2012年にスペインのボルハで起きた「エッケ・ホモ修復事件」と比較されることが多かった。

ボルハの事件は、教会にあったキリストの壁画を地元の女性が修復しようとした結果、元の肖像とは大きく異なる姿になった出来事だ。作品は世界的に知られるようになり、観光客が訪れるきっかけにもなった。

ミロン教会の天使像も、修復後の写真がSNSで拡散され、驚きの表情や独特の色使いが注目されたため、同じような呼び名で紹介された。

しかし、両者には明確な違いがある。

- ボルハ:個人が壁画を善意で修復しようとしたことが発端。
- ソリア:教会側が発注した内部塗装工事の一環として、装飾や天使像が塗り直されたことが発端。

ソリアの問題では、個人の善意による修復というよりも、発注者の管理責任、施工者の専門性、文化財保護の制度設計が中心的な論点になっている。

また、SNSで話題になったからといって、文化財としての価値が失われるわけではない。むしろ、今回のように写真が広く拡散されたことで、専門家ではない一般の人々にも保存修復の問題が知られるようになった側面がある。

【よくある質問】スペインの天使像修復失敗に関するFAQ

Q1:スペインの天使像はどこの教会にある?

A1:スペイン北部カスティーリャ・イ・レオン州ソリアにある、ヌエストラ・セニョーラ・デル・ミロン教会の内部にある天使像です。1725年に建てられたバロック様式の教会で、12世紀のロマネスク様式の建物に起源を持ちます。

Q2:天使像を修復した人は誰?

A2:施工者の個人名や会社名は、確定情報として公表されていません。教区の文化財担当者ホセ・サラ氏は、担当したのは住宅などを塗装する一般的な塗装工だったと説明しています。Antena 3も関係企業の可能性を示す映像を報じましたが、正式な身元特定とは異なります。

Q3:2026年現在、天使像は元の白い姿に戻った?

A3:2026年7月30日に部分修復計画が了承され、3月に行われた試験を踏まえて、後から塗られた色を除去し、下に残る白い仕上げを回復する方針が示されました。ただし、計画の了承と工事の完了は別です。白い姿への復元が完了したという確定情報はありません。

Q4:なぜ教会は一時閉鎖された?

A4:2024年8月2日、教区は天使像の仕上がりをめぐる問題が解決するまで教会を閉鎖すると発表しました。問題の解決と適切な修復を進めることが閉鎖の理由です。その後も一般公開の再開には時間を要しています。

Q5:白い天使像は18世紀のオリジナルだった?

A5:必ずしもそうではありません。教区関係者の説明では、騒動前の白い塗装は1980~90年代に施されたものです。2026年の修復計画も、直近の塗り直しより前に残っていた白い層を回復することを目指しています。

スペイン・ソリアのミロン教会で起きた天使像の修復失敗は、黒い眉や赤い唇という印象的な見た目だけが問題になった事件ではない。

その背景には、一般的な塗装工事と専門的な文化財修復の違い、施工者の専門性、発注者の管理責任、行政による監督体制という複数の課題が存在していた。

特に注目すべきなのは、教会側が工事全体を予定どおりと説明する一方で、天使像の仕上がりについては問題を認め、文化財の専門家からは作業の進め方そのものが批判された点だ。

そして2026年7月30日、ようやく修復計画に対する州の了承が得られた。今後は、塗装を慎重に除去し、下層に残る白い仕上げを回復する作業と、その工程を専門家が監督することが焦点になる。

今回の事件から得られる最も大切な教訓は、文化財の修復では、見た目をきれいにすることよりも、歴史的な価値を正しく理解し、将来に残すことが優先されるという点だ。

修復前後の写真だけを見て面白がるのではなく、誰が発注し、誰が施工し、どのような調査や管理のもとで作業が行われたのか。そこまで目を向けることで、ソリアの天使像騒動が単なる珍事件ではなく、文化遺産を守る仕組みを考える重要な事例であることが見えてくる。

2026年11月現在、この事件の最終的な評価を決めるのは、これから実施される修復の質と、その後の文化財保護体制の改善になる。

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宮部 宗介
トレンドリサーチャー 宮部 宗介
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アニメ・漫画の制作発表を担当。制作会社・出版社の公式告知と原作者コメントを確認してから記事化します。

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