海外修学旅行の評価を考えるうえで重要なのは、参加した生徒や保護者がどのような変化を感じたかです。
港区は実施後、教員・生徒・保護者へのアンケートや効果検証を行い、プログラムの改善を続けています。
2025年度は保護者の約95%が肯定的に評価2025年度(令和7年度)の実施結果では、保護者アンケートで「とても充実していた」と回答した割合が約76%でした。
「充実していた」を合わせると、肯定的な回答は約95%に達しています。
生徒アンケートでも、英語を使って現地の人とコミュニケーションができたと感じた生徒は約88%でした。
また、英語やボディーランゲージを使って、自分の伝えたいことを相手に伝えられたとする生徒も約88%に上っています。
保護者からは、次のような教育的効果も報告されています。
- 苦手だった英語が現地で通じ、自信につながった。
- 海外での経験をきっかけに、留学制度のある高校に興味を持つようになった。
- 海外修学旅行を目標にすることで、学校生活への意欲が高まった。
これらは、旅行の満足度だけでなく、帰国後の学習や進路への関心にも影響が及んでいることを示す結果です。
2026年度は保護者の約98%が肯定的に評価加えて、2026年10月29日に提出された令和8年度の実施報告では、評価が引き続き高い水準となりました。
2026年度の主なアンケート結果
保護者の肯定的評価約98%

「とても充実していた」「充実していた」の合計
「とても充実していた」約77%
現地の人と英語で交流できた生徒約87%
英語や身振りで意思を伝えられた生徒約85%
出典:2026年10月29日開催の海外修学旅行調査特別委員会・令和8年度実施報告。各設問の回答割合です。
特に注目したいのは、英語の知識を増やしたというだけでなく、実際に相手に話しかけ、意思を伝える経験が評価されている点です。
ただし、これらは主としてアンケートや自己評価に基づく結果です。英語の学力そのものがどれほど伸びたか、数年後も効果が続くかについては、別の長期的な検証が必要です。
3年間で明らかになった課題と改善策一方、初年度からすべてが順調だったわけではありません。
港区の検証資料には、実際の運営で浮かび上がった問題も記録されています。
英語を使う機会が十分ではなかった
当初の街頭インタビューでは、現地の人から回答を得られず、生徒が苦労する場面がありました。
そこで、インタビュー中心の活動を見直し、チャイナタウン、アラブストリート、リトルインディアを巡るクイズラリー形式の班別学習に変更しました。
現地大学生との英語での自己紹介も必須とし、全員が会話に参加できるよう改善しています。
食事が生徒の好みに合わないことがあった
初年度は中華料理が続くことや、食べ慣れないメニューに対する不満がありました。
その後、生徒の意見を踏まえ、選択できる食事の機会を増やし、メニューも調整しています。
暑さや体調管理への対応が必要だった
シンガポールの高温多湿な気候は、日本から訪れる中学生にとって負担になります。
過去には軽度の熱中症で病院を受診した生徒もいました。
そのため、屋外での昼食場所を空調のある施設に変更したほか、水分補給の呼びかけや、現地到着時に飲料水を2本支給する対応などが追加されています。
こうした改善は、単に旅行を継続するためではなく、生徒が安心して学習に参加できる環境を整えるためのものです。
【2026年区民アンケートと2027年度以降の方針】海外修学旅行は継続へ
2026年は、港区の海外修学旅行にとって大きな節目となりました。
事業開始から3年目を迎えたことを受け、港区は区民アンケートを実施し、制度の継続や費用負担、旅行先について意見を集めました。
その結果を踏まえ、2026年10月29日の海外修学旅行調査特別委員会で、2027年度以降の実施方針が報告されています。
港区海外修学旅行区民アンケートの結果アンケートの実施期間は、2026年7月10日から7月31日までです。
対象は区内在住の区民で、電子申請サービス「LoGoフォーム」を使って回答を集めました。
回答数は2,969件です。
主な結果は次のとおりです。
- 海外修学旅行が国際人育成に効果的だと思うという肯定的回答は8割超。
- 海外修学旅行を継続した方がよいという回答は8割超。
- 行き先として現行のシンガポールを希望する回答は8割超。
- 保護者負担については、約9割が3万円以上の負担を許容。
また、アンケート回答者の約半数は40代で、9割を超える回答者が子どもは3人以下と回答しています。
こうした結果から、海外修学旅行には区民の間でも一定の支持があることが分かります。
ただし、アンケート結果をどう読むべきかここで気を付けたいのは、アンケートの回答結果と区民全体の意見は必ずしも同じではないことです。
今回の調査は、区内在住者を対象にしたオンライン回答方式です。無作為抽出による世論調査とは異なり、回答した人の関心や家庭状況が結果に影響する可能性があります。
また、「3万円以上の負担を許容する」という回答が約9割だったとしても、全員が現在の5万円という金額を支持しているわけではありません。
実際、港区に寄せられた意見には、次のような異なる考え方がありました。
| 意見の立場 | 主な論点 |
|---|---|
| 継続賛成 | 港区独自の国際教育として、全員に海外経験を提供してほしい |
| 費用への疑問 | 多額の税金を投入するだけの教育効果があるのか |
| 国内実施を支持 | 英語学習や国際理解は国内でも実現できるのではないか |
| 改善を求める意見 | 旅行の成果や税金の使い道をもっと区民に説明してほしい |
こうした意見は、海外修学旅行をめぐる議論が、単純な賛成・反対ではなく、教育効果と公費負担のバランスを問うものになっていることを示しています。
2026年10月29日、2027年度以降の継続方針を報告2026年10月29日午後3時30分から、港区議会の海外修学旅行調査特別委員会が開催されました。
この会議の報告事項には、次の2つが含まれていました。
1. 令和8年度の海外修学旅行の報告について
2. 令和9年度以降における港区立中学校修学旅行の実施の方向性について
提出された資料2では、2027年度以降も区立中学校3年生全員を対象とする海外修学旅行を実施し、行き先をシンガポールとする方針が示されました。
これは、区側が委員会に対して実施方針を正式に報告したものです。議会本会議で新たな条例を可決したという意味ではありません。
継続の理由として挙げられたのは、3年間の教育効果、安全管理の実績、区民アンケートの結果、運営ノウハウの蓄積などです。
2027年度以降の実施内容はどうなる?2026年10月29日の資料2に示された今後の基本方針は次のとおりです。
| 項目 | 2027年度以降の方針 |
|---|---|
| 対象 | 区立中学校3年生の全生徒 |
| 行き先 | シンガポール共和国 |
| 旅行期間 | 3泊5日 |
| 保護者負担 | 1人5万円 |
| 就学援助世帯 | 5万円の負担金を免除 |
| 学習内容 | 現地学生との交流、班別散策、体験学習 |
| 学習の改善 | 事前学習・事後学習・効果検証を充実 |
| 安全対策 | 実地踏査、健康管理、緊急時対応を継続 |
保護者負担金については、引き続き5万円とする方針です。
ただし、今後も永久に5万円で固定されるわけではありません。港区は、他の教育施策や国・東京都の状況、保護者の意見などを踏まえ、必要に応じて見直すとしています。
就学援助世帯についても、引き続き5万円の負担金を免除します。
今後は英語学習と現地体験をさらに充実継続方針では、現地での活動だけでなく、旅行前後の学習にも力を入れることが盛り込まれています。
具体的には、次の3段階で学びをつなげる構想です。
- 事前学習: 学校の授業や第2学年でのTokyo Global Gateway(TGG)などを通じ、英語でのコミュニケーションに慣れる。
- 現地学習: 現地学生との交流や班別散策を通して、英語を実際に使う。
- 事後学習: 帰国後に体験を振り返り、英語学習や異文化理解への関心を継続させる。
加えて、大学などの教育機関と連携した学習プログラムの全校展開も検討されています。
今後の予定として、港区は2026年11月に新しい実施方針を周知し、2027年4月から順次、海外修学旅行を実施するスケジュールを示しています。
【制度を支える関係者と役割】港区の海外修学旅行は誰が支えている?
この制度を理解するには、旅行そのものだけでなく、教育委員会、学校、家庭、現地の交流先がどのように関わっているかを見る必要があります。
次の表は、制度を構成する主要な主体と、その関係を整理したものです。
この関係を見ると、海外修学旅行は旅行会社に任せきりの事業ではなく、港区教育委員会と学校が教育内容や安全管理を担い、現地の交流先と連携する仕組みになっていることが分かります。
また、保護者の負担を一律に設定し、就学援助世帯には免除措置を設けることで、経済状況による参加機会の格差を抑えています。
今後の課題は、各主体の役割を維持しながら、事業費と教育成果を区民に分かりやすく説明することです。
【プロの結論】港区中学校修学旅行の現在と今後をどう評価すべきか
港区のシンガポール修学旅行は、2027年度以降も継続する方針が示され、制度として次の段階に進みました。
しかし、継続が決まったことと、制度の課題がすべて解決したことは同じではありません。
この事業を評価する際には、少なくとも3つの視点が必要です。
1. 34万円という金額だけでなく、何を学べたかを見る約34万6,880円という数字だけを見れば、一般的な国内修学旅行より高額です。
ただし、この費用には航空機、宿泊、食事、現地交通、学習プログラムが含まれています。
比較するのであれば、国内旅行との単純な料金差だけでなく、現地学生との交流や実践的な英語学習、多文化理解など、教育内容の違いも考慮する必要があります。
一方で、教育効果があるという説明だけで公費支出の妥当性が自動的に証明されるわけではありません。
今後は、事業費の年度別推移や生徒1人当たりの実際の費用、教育効果を同じ基準で比較できる情報公開が大切です。
2. 5万円の一律負担と公平性を両立できるか一律5万円という仕組みには、分かりやすさがあります。
所得に応じて負担額が変わる制度と比べても、学校側の徴収や説明が簡潔になります。
しかし、同じ5万円でも家庭ごとの経済的な重みは異なります。
就学援助世帯への免除は重要な配慮ですが、それ以外にも、パスポート取得費用や現地活動費などの実費が残ります。
今後、保護者負担を見直す際には、単に5万円を維持するかどうかだけでなく、家庭の経済状況に応じた追加支援の必要性も検討課題になります。
3. 海外体験を一度きりのイベントで終わらせない海外修学旅行の教育的価値は、3泊5日の旅行だけで決まるものではありません。
出発前に何を学び、現地で何を経験し、帰国後にどのような行動につなげたかが重要です。
港区が事前学習や事後学習を強化する方針を示したことは、この点で評価できます。
一方、アンケートで満足度が高かったことと、長期的な英語力や国際理解が身に付いたことは別の指標です。
今後は、旅行直後の感想だけでなく、帰国後の学習意欲や英語使用への自信がどの程度維持されるのかを継続的に検証することが大切です。
港区の取組が本当の意味で教育モデルになるかどうかは、ここにかかっています。
【港区中学校の修学旅行】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:港区立中学校の修学旅行は全員が海外に行くのですか?
A1:はい。区立中学校の3年生全員が対象で、特別支援学級の生徒も含まれます。2024年度からシンガポールへの海外修学旅行が実施されています。
Q2:シンガポール修学旅行の費用は1人いくらですか?
A2:2024年3月の港区資料では、契約額に基づく生徒1人当たりの平均費用は34万6,880円でした。ただし、これは当時の契約額であり、2026年度や2027年度の最新費用ではありません。
Q3:保護者が支払う金額は5万円だけですか?
A3:基本負担金は5万円ですが、パスポート代や現地活動費などが別途必要です。2026年の公式案内では、追加費用は約1万7,000円程度と見込まれています。
Q4:就学援助を受けている家庭は無料になりますか?
A4:就学援助世帯は5万円の保護者負担金が免除されます。ただし、パスポート代や現地活動費などの実費まで一律に免除されるという制度ではありません。
Q5:なぜ修学旅行先がシンガポールなのですか?
A5:英語が日常的に使われる多文化社会であること、日本との時差が1時間と小さいこと、直行便が利用できること、比較的良好な治安や都市インフラなどが理由です。
Q6:2027年度以降もシンガポール修学旅行は続きますか?
A6:はい。2026年10月29日の海外修学旅行調査特別委員会で、2027年度以降も継続する区側の実施方針が報告されました。保護者負担は5万円、就学援助世帯は免除とする方針です。
港区立中学校の海外修学旅行は、2024年度に始まった全生徒対象の国際理解教育です。
3泊5日でシンガポールを訪問し、現地学生との交流や英語でのコミュニケーション、多文化社会の体験を通じて、学校で学んだ知識を実践につなげています。
制度の重要ポイントを改めて整理すると、次のとおりです。
- 旅行先はシンガポールで、区立中学校3年生全員が対象。
- 2024年の契約額に基づく平均費用は1人34万6,880円。
- 保護者負担金は一律5万円で、別途実費が必要。
- 就学援助世帯は5万円の負担金が免除。
- 2026年の区民アンケートでは、継続支持が8割を超えた。
- 2026年10月29日に2027年度以降も継続する方針が報告された。
今後は、教育効果を高めることと、税金の使い道を透明にすることの両立が問われます。
海外修学旅行が単なる豪華な学校行事で終わるのか、それとも子どもたちの将来の選択肢を広げる教育モデルになるのか。
2027年度以降は、事前学習・現地体験・事後学習の連携と、継続的な効果検証がその答えを左右することになりそうです。