国民栄誉賞を受賞したスポーツ選手には、王貞治、高橋尚子、吉田沙保里、羽生結弦、国枝慎吾など、日本のスポーツ史に名を刻んだ選手たちが名を連ねる。1977年に王貞治の756本塁打を記念する形で始まったこの賞は、2026年8月の高木美帆への授与によって、スポーツ界では通算14例となった。個人だけでなく、2011年のなでしこジャパンも受賞している。
2026年11月現在、内閣府の公式受賞者一覧では、国民栄誉賞の受賞は合計29例。内訳は個人28人、団体1団体だ。この記事では、歴代スポーツ受賞者14例を競技別・年代別に整理し、創設の背景、受賞理由、選考基準、授与の仕組み、そして最新の高木美帆の受賞までを詳しく解説する。
【まず一覧で確認】国民栄誉賞を受賞したスポーツ選手は誰?

スポーツ界から国民栄誉賞を受賞した人物・団体は、1977年の王貞治から2026年の高木美帆まで14例に及ぶ。
対象となる競技は、プロ野球、柔道、陸上競技、レスリング、相撲、フィギュアスケート、車いすテニス、スピードスケート、サッカーなど幅広い。
特に注目したいのは、受賞理由が必ずしもオリンピックの金メダルだけではないことだ。
プロ野球の世界記録、長年にわたる競技への貢献、世界大会での連覇、パラスポーツの発展、チームとしての歴史的な優勝など、それぞれ異なる功績が評価されている。
また、国民栄誉賞はスポーツ選手だけを対象にした賞ではない。文化・芸術・芸能などの分野でも授与されており、羽生善治や井山裕太のような将棋・囲碁の棋士も受賞者に含まれる。
そのため、スポーツ選手の歴代一覧を調べる場合は、国民栄誉賞の全受賞者とスポーツ界の受賞者を区別する必要がある。
【1977年創設の背景】王貞治の756本塁打が国民栄誉賞の始まり
国民栄誉賞が創設されたのは1977年(昭和52年)8月30日。当時の内閣総理大臣は福田赳夫だった。
制度誕生のきっかけとなったのが、プロ野球選手・王貞治の前人未到の記録である。
王貞治が達成した756本塁打の歴史的価値1977年9月3日、王貞治はプロ野球の本塁打世界新記録となる通算756本塁打を達成した。
この偉業をたたえるため、福田赳夫内閣は国民栄誉賞を創設し、同年9月5日に王へ第1号を授与した。
記録達成からわずか2日後の表彰であり、当時の王が日本の野球界だけでなく、国民的な存在として受け止められていたことを示す出来事だった。
創設の背景には、従来の顕彰制度だけでは対応しにくい、国民に広く親しまれる分野の偉業を柔軟に評価する必要性があった。
内閣府の栄典制度に関する資料でも、国民栄誉賞は国民に身近な分野での前人未到の業績を、機動的・弾力的に顕彰する制度として説明されている。
国民栄誉賞が掲げる本来の目的内閣府が公開する国民栄誉賞表彰規程には、制度の目的が次のように定められている。
「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったもの」
ここで重要なのは、単に競技成績が優秀であることだけを目的としていない点だ。
競技の歴史を変える記録や、国民に大きな感動を与えた出来事、社会に希望をもたらした活動なども評価の対象となる。
この理念が、現在まで続く国民栄誉賞の基本的な考え方になっている。
【歴代スポーツ受賞者14例】受賞年・競技・功績を一覧比較
2026年8月4日の高木美帆への授与までを含めた、スポーツ界の歴代受賞者は次のとおりだ。
| 受賞年 | 受賞者 | 競技 | 主な受賞理由 |
|---|---|---|---|
| 1977年 | 王貞治 | プロ野球 | 通算756本塁打の世界新記録 |
| 1984年 | 山下泰裕 | 柔道 | 前人未到の記録達成と競技への精進 |
| 1987年 | 衣笠祥雄 | プロ野球 | 連続試合出場の世界新記録 |
| 1989年 | 千代の富士(秋元貢) | 大相撲 | 相撲界への著しい貢献 |
| 2000年 | 高橋尚子 | 陸上・マラソン | シドニー五輪女子マラソン金メダル |
| 2011年 | なでしこジャパン | サッカー | FIFA女子ワールドカップ初優勝 |
| 2012年 | 吉田沙保里 | レスリング | 五輪・世界選手権を通じた13大会連続世界一 |
| 2013年 | 大鵬幸喜 | 大相撲 | 幕内優勝32回などの歴史的功績 |
| 2013年 | 長嶋茂雄 | プロ野球 | 野球史に残る功績と国民的スターとしての貢献 |
| 2013年 | 松井秀喜 | プロ野球 | 世界的な功績と野球界への貢献 |
| 2016年 | 伊調馨 | レスリング | 女子個人種目で五輪4連覇 |
| 2018年 | 羽生結弦 | フィギュアスケート | 男子シングルで66年ぶりの五輪連覇 |
| 2023年 | 国枝慎吾 | 車いすテニス | 四大大会通算50勝と生涯ゴールデンスラム |
| 2026年 | 高木美帆 | スピードスケート | 五輪通算10個のメダルとW杯通算38勝 |
※スポーツ界の受賞14例には、なでしこジャパンの団体受賞を含む。個人13人、団体1団体。全分野では個人28人、団体1団体の計29例となる。
年代別に見る受賞者の特徴1970~1980年代は、王貞治、山下泰裕、衣笠祥雄、千代の富士といった、競技の歴史に残る記録や実績を持つ選手が中心だった。
2000年代には高橋尚子が登場し、日本女子陸上競技の歴史を変えるオリンピックの快挙が評価された。
2010年代には、なでしこジャパン、吉田沙保里、伊調馨、羽生結弦など、世界大会での優勝や長期にわたる圧倒的な競技実績を持つ選手が続いた。
2020年代は国枝慎吾と高木美帆が受賞。パラスポーツの発展への貢献や、複数のオリンピックにまたがる長期的な実績など、評価される功績の幅が広がっている。
【功績を解説】高橋尚子・吉田沙保里・国枝慎吾の受賞理由
歴代受賞者の中でも、高橋尚子、吉田沙保里、国枝慎吾は、それぞれ異なる形で競技の歴史を塗り替えた選手だ。
高橋尚子:シドニー五輪の女子マラソン金メダル高橋尚子は2000年10月30日、国民栄誉賞を受賞した。
直接の受賞理由は、2000年シドニーオリンピック女子マラソンでの優勝である。
高橋は2時間23分14秒でゴールし、日本女子陸上競技史上初となるオリンピック金メダルを獲得した。
当時の日本陸上界にとって、女子マラソンの金メダルは歴史的な快挙だった。
レースでは終盤のロングスパートでライバルを振り切り、最後まで自分の走りを貫いた。
この優勝は日本の陸上競技に大きな影響を与え、女性アスリートが世界の頂点を目指す象徴的な出来事となった。
その後も2001年のベルリンマラソンで当時の世界記録を樹立するなど、マラソン界で実績を残している。
吉田沙保里:世界大会13連覇という前人未到の記録吉田沙保里は2012年11月7日に国民栄誉賞を受賞した。
評価されたのは、オリンピックと世界選手権を通じた13大会連続の世界一という、レスリング競技史上前人未到の記録だ。
吉田は2004年アテネ、2008年北京、2012年ロンドンの各オリンピックで女子レスリングの金メダルを獲得。五輪3連覇を成し遂げた。
加えて、世界選手権でも長年にわたり優勝を重ね、世界の女子レスリングを代表する存在となった。
2012年の受賞決定時には、世界大会13連覇という実績が大きく評価された。
なお、2016年リオデジャネイロ五輪では銀メダルを獲得している。受賞はその前の2012年であり、リオ大会の結果が受賞理由だったわけではない。
国枝慎吾:パラスポーツの歴史を変えた生涯ゴールデンスラム国枝慎吾は2023年3月17日、国民栄誉賞を授与された。
車いすテニスの第一人者として長く活躍し、四大大会で史上最多の通算50勝を記録。加えて、東京パラリンピックの金メダルを含む生涯ゴールデンスラムを達成した。
生涯ゴールデンスラムとは、競技生活を通じて四大大会すべてとパラリンピックで優勝する偉業を指す。
国枝の功績は、個人の勝利数だけにとどまらない。
車いすテニスの競技レベルを世界的に押し上げ、パラスポーツの社会的認知度を広げたことも評価された。
国民栄誉賞の受賞は、パラスポーツ選手として初めてだった。
これは、国民栄誉賞の評価対象が従来のオリンピック競技やプロスポーツに限られず、スポーツの発展そのものへの貢献にも及ぶことを示す事例だ。
羽生結弦・伊調馨・なでしこジャパンも歴史的な受賞者羽生結弦は2018年7月2日、フィギュアスケート男子シングルで66年ぶりとなるオリンピック連覇などが評価され、国民栄誉賞を受賞した。
伊調馨は2016年、女子個人種目でオリンピック4連覇という世界的な偉業によって受賞している。
また、2011年のなでしこジャパンは、国民栄誉賞で初めて団体として表彰されたケースだ。
FIFA女子ワールドカップドイツ大会で初優勝を果たし、東日本大震災後の日本社会に勇気と希望を与えたことが評価された。
これらの事例からも、受賞理由は競技の種類や大会の規模だけでなく、社会に与えた影響まで含めて判断されていることが分かる。
【選考基準と授与の仕組み】国民栄誉賞はどうやって決まる?
国民栄誉賞について、よくある誤解の一つが「オリンピックで金メダルを取れば受賞できる」というものだ。
実際には、金メダルや世界記録の達成だけで自動的に受賞が決まる制度ではない。
国民栄誉賞の選考基準に数値的な基準はある?内閣府が公開する国民栄誉賞表彰規程では、次の3点が基本となっている。
- 広く国民に敬愛されること。
- 社会に明るい希望を与えること。
- 顕著な業績があること。
一方で、オリンピックの金メダル何個以上、世界選手権何連覇以上といった競技別の統一基準は定められていない。
競技の種類によって記録の性質や国際的な競争環境が異なるため、単純な数字だけで比較することが難しいからだ。
王貞治の世界記録、高橋尚子の五輪金メダル、吉田沙保里の連覇、国枝慎吾のパラスポーツへの貢献など、受賞者ごとに評価の要点は異なっている。
実際の授与までの流れ国民栄誉賞は、内閣総理大臣が表彰者となる制度だ。
内閣府の表彰規程実施要領には、候補者について民間有識者の意見を聞くことが定められている。
基本的な仕組みは次のとおり。
1. 顕著な功績を残した人物・団体について、政府内で表彰の検討が行われる。
2. 候補者について民間有識者の意見を聞く。
3. 内閣総理大臣が表彰の適否を判断する。
4. 授与が決まると、表彰式などを通じて表彰する。
授与の時期は随時とされており、特定の大会終了後や年度末に限定されているわけではない。
受賞者に贈られるものは?正式な表彰方法は、表彰状と盾の授与である。
また、記念品または金一封を添えることができる。
実際の表彰では、受賞者の希望や功績にちなんだ記念品が贈られることもある。
国民栄誉賞は、一般的な競技団体の年間表彰やスポーツ大会の優勝賞金とは異なる。内閣総理大臣による顕彰制度であり、スポーツ分野に限らず、文化・芸術など幅広い功績を対象としている。
【2026年最新】高木美帆が国民栄誉賞を受賞した理由と10個の五輪メダル
2026年のスポーツ界で大きなニュースとなったのが、スピードスケートの高木美帆への国民栄誉賞授与だ。
政府は2026年7月28日、授与を正式に決定した。表彰式は8月4日、総理大臣官邸で高市早苗首相によって行われた。
五輪4大会で金2・銀4・銅4の合計10個高木美帆は2010年バンクーバー大会から2026年ミラノ・コルティナ大会まで、4大会のオリンピックに出場した。
そのメダル獲得実績は次のとおり。
| オリンピック | 主な実績 |
|---|---|
| 2010年バンクーバー | 15歳で初出場 |
| 2018年平昌 | 団体追い抜き金メダルなど3個 |
| 2022年北京 | 1000メートル金メダルなど4個 |
| 2026年ミラノ・コルティナ | 銅メダル3個 |
通算成績は金メダル2個、銀メダル4個、銅メダル4個。合計10個で、日本女子選手のオリンピック最多記録となった。
加えて、スピードスケートのワールドカップでは日本選手最多となる通算38勝を記録している。
受賞理由は長年にわたる競技界への貢献2026年7月28日の官房長官記者会見では、高木について、長年にわたりスピードスケート界の第一人者として世界の第一線で活躍してきたことが説明された。
評価されたのは、単一大会の結果だけではない。
15歳で初出場したバンクーバー五輪から、平昌、北京、ミラノ・コルティナまで、長期にわたって世界のトップレベルを維持したことが大きな意味を持つ。
五輪でのメダル獲得に加え、ワールドカップでの38勝も含めた総合的な競技実績が、受賞理由となった。
8月4日に高市首相から表彰状と盾を授与2026年8月4日、総理大臣官邸で表彰式が実施された。
高市早苗首相から高木に表彰状と盾が授与され、記念品として包丁10本セットも贈られた。
文部科学省の公式発表によると、松本文部科学大臣やスポーツ庁長官も表彰式に出席している。
高木の受賞によって、国民栄誉賞は創設以来29例目となった。
スポーツ界では14例目であり、スピードスケート選手としては初の受賞となる。
2023年の国枝慎吾に続き、2020年代に入ってからスポーツ界で新たな受賞者が誕生したことも注目される。
【プロの結論】国民栄誉賞の歴史から分かる3つの評価ポイント
国民栄誉賞の歴代受賞者を振り返ると、単純な競技成績のランキングでは説明できない特徴がある。
1. 記録の大きさだけでなく歴史的な意味が評価される王貞治の756本塁打や衣笠祥雄の連続試合出場記録は、競技史に残る記録として評価された。
一方、国枝慎吾の場合は、四大大会の勝利数だけでなく、パラスポーツの認知度を広げた功績も重視されている。
つまり、数字の大きさと、その実績が競技や社会に与えた影響の両方が評価の対象となる。
2. 個人だけでなく団体も受賞できるなでしこジャパンの受賞は、個人の競技成績だけではなく、チーム全体の歴史的な成果も評価されることを示した。
2011年の女子ワールドカップ優勝は、東日本大震災後の日本に希望をもたらした出来事として記憶されている。
国民栄誉賞は個人の栄誉に限定されない点も特徴だ。
3. 長期的な競技への貢献も重要な視点高木美帆や国枝慎吾の受賞からは、長期にわたる活躍と競技の発展への貢献が評価されていることが読み取れる。
一度の大会で結果を出すだけでなく、長い競技人生を通じて世界の第一線で活躍し続けたことにも大きな意味がある。
国民栄誉賞を理解する際には、受賞者のメダル数や記録だけでなく、受賞理由に記された社会的な功績にも注目したい。
【国民栄誉賞を受賞したスポーツ選手】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:国民栄誉賞を受賞したスポーツ選手は全部で何人?
A1:2026年11月現在、スポーツ界では14例。内訳は個人13人と団体1団体(なでしこジャパン)だ。全分野では個人28人、団体1団体の合計29例となっている。
Q2:国民栄誉賞を最初に受賞したスポーツ選手は誰?
A2:1977年9月5日に受賞したプロ野球選手の王貞治だ。9月3日に通算756本塁打の世界新記録を達成したことが直接の契機となった。
Q3:高橋尚子が国民栄誉賞を受賞した理由は?
A3:2000年シドニーオリンピック女子マラソンで優勝し、日本女子陸上競技で初めてオリンピック金メダルを獲得したためだ。受賞日は2000年10月30日。
Q4:吉田沙保里と伊調馨の受賞理由は何が違う?
A4:吉田沙保里はオリンピックと世界選手権を通じた13大会連続世界一が評価された。一方、伊調馨はオリンピック女子個人種目で史上初の4連覇を達成したことが評価された。
Q5:2026年の最新受賞者は誰?
A5:スピードスケートの高木美帆だ。2026年7月28日に授与が決定し、8月4日に表彰式が行われた。五輪通算10個のメダルとワールドカップ通算38勝などが評価された。
Q6:オリンピックで金メダルを獲得すれば国民栄誉賞をもらえる?
A6:金メダル獲得だけで自動的に受賞する制度ではない。内閣総理大臣が表彰規程の目的に照らして判断し、候補者について民間有識者の意見を聞く仕組みになっている。競技成績に加え、社会に与えた希望や感動、競技界への貢献なども評価される。
国民栄誉賞は1977年、王貞治の756本塁打という歴史的な記録をきっかけに創設された。
その後、高橋尚子、吉田沙保里、伊調馨、羽生結弦、国枝慎吾など、さまざまな競技で前人未到の実績を残した選手たちが受賞してきた。
2026年には高木美帆への授与が実現し、スポーツ界の受賞は14例となった。
今回の歴代一覧で押さえておきたいのは、国民栄誉賞が単なるメダル獲得者への表彰ではないという点だ。
記録を塗り替えた選手、競技の普及に貢献した選手、社会に希望を届けたチームなど、それぞれ異なる形の功績が認められている。
今後も日本のスポーツ界から、競技の枠を超えて国民に夢や感動を与える選手が登場することが期待される。歴代受賞者の功績を振り返ることは、日本のスポーツ史そのものを理解する手がかりにもなる。
編集上の重要な数字の整理:2026年8月更新の内閣府公式一覧に基づき、全分野は個人28人・団体1団体、スポーツ界は14例(個人13人・団体1団体)としています。