デフサッカーとは、聴覚に障がいのある選手がプレーするサッカー競技です。基本的には通常のサッカーと同じ11人制で、前後半45分ずつ、合計90分間にわたって試合を行います。ただし、競技中は補聴器や音声増幅機器を外すことが義務付けられており、審判は笛だけでなくフラッグも使って選手に合図を伝えます。
選手同士はアイコンタクトや手話、身ぶりなどを駆使して連携します。聴覚から得られる情報が限られる環境だからこそ、周囲を確認する力や仲間との視覚的なコミュニケーションが試合の鍵を握ります。2025年11月の東京2025デフリンピックでは、男女の日本代表がともに銀メダルを獲得し、デフサッカーの歴史に新たな実績を刻みました。
【基本解説】デフサッカーとは?「音のないサッカー」と呼ばれる理由

デフサッカーは、聴覚に障がいのある選手が参加するサッカー競技です。「デフ(Deaf)」は英語で「聞こえない人」「聞こえにくい人」を意味します。
日本では「ろう者サッカー」とも呼ばれ、競技中に補聴器を外すことが義務付けられているため、「音のないサッカー」という愛称でも知られています。
通常のサッカーと同じ11人制が基本デフサッカーの大きな特徴は、競技の基本構造が一般的なサッカーとほぼ同じであることです。
1チーム11人で構成され、ゴールキーパーを含む選手がフルサイズのピッチでプレーします。パス、ドリブル、シュート、オフサイド、ファウルなどの基本ルールも、原則として通常のサッカーに準じています。
つまり、聴覚障がいのある選手向けに競技そのものを大きく変更したスポーツではありません。情報を伝える方法を視覚中心に調整することで、通常のサッカーと同じ競技性を保っています。
デフサッカーを運営する日本ろう者サッカー協会(JDFA)日本国内で競技の普及や代表チームの活動を担っているのが、一般社団法人日本ろう者サッカー協会(JDFA)です。
JDFAは、Japan Deaf Football Associationの略称で、デフサッカーだけでなくデフフットサルの普及、選手育成、国内大会の運営、代表チームの強化などにも取り組んでいます。
また、日本障がい者サッカー連盟(JIFF)の競技紹介でも、デフサッカーとデフフットサルは聴覚障がい者を対象とする競技として紹介されています。
デフサッカーは単に聞こえない状態でサッカーをするという意味ではありません。競技環境や情報伝達の仕組みを整え、選手が能力を発揮できるように設計されたスポーツです。
【ルール解説】デフサッカーの人数・試合時間と通常のサッカーとの違い
デフサッカーの試合を理解するうえで、まず押さえておきたいのが人数と試合時間です。
日本障がい者サッカー連盟(JIFF)や東京2025デフリンピックの公式競技紹介によると、デフサッカーは1チーム11人で行い、前後半45分ずつの合計90分が基本となっています。
デフサッカーの基本ルール一覧- 競技人数:1チーム11人
- 試合時間:前半45分・後半45分
- 合計時間:90分
- ハーフタイム:15分
- ピッチ:通常のサッカーと同じフルサイズのコート
- 基本ルール:国際サッカーの競技規則を基本的に適用
- 主な特徴:補聴器を外し、審判がフラッグを使用する
試合の進行や得点の仕組みは一般的なサッカーと同じです。視覚的な合図を増やすことが、競技上の大きな違いとなります。
デフサッカーと通常のサッカーの違いを比較両者の違いを整理すると、競技そのものよりも、選手や審判が情報を伝達する方法に特徴があることが分かります。
| 比較項目 | デフサッカー | 通常のサッカー | デフフットサル |
|---|---|---|---|
| 競技人数 | 11人制 | 11人制 | 5人制 |
| 試合時間 | 45分×2 | 45分×2 | 25分ランニングタイム、または20分プレーイングタイム |
| 競技形式 | 屋外サッカー | 屋外サッカー | フットサル |
| 補聴器 | 競技中は外す | 使用可能な場合がある | 競技中は外す |
| 審判の合図 | 笛とフラッグ | 主に笛 | 笛とフラッグ |
| 選手間の連携 | 手話・アイコンタクト・身ぶり | 声・アイコンタクトなど | 手話・アイコンタクト・身ぶり |
| 基本競技規則 | サッカーの競技規則 | サッカーの競技規則 | フットサルの競技規則 |
※デフフットサルの時間はJIFFの競技紹介に記載された方式です。大会によって採用する競技規則や運用が異なる場合があります。
比較すると、デフサッカーは一般的なサッカーの競技構造を維持しながら、音声に頼らない情報伝達を採用していることが分かります。
ファウルやオフサイドのルールも基本的に共通デフサッカーでは、ファウルやオフサイドについても基本的に通常のサッカーと同じ規則が適用されます。
選手が聴覚障がいを持っているからといって、ファウルの判定基準や得点のルールが別物になるわけではありません。
一方、試合中の笛の音が聞こえない選手にも判定を伝える必要があるため、審判の合図には視覚的な工夫が加えられています。
【最大の特徴】デフサッカーで補聴器を外す理由と審判のフラッグ・手話の役割
デフサッカーについて検索する人が特に疑問に感じるのが、「なぜ補聴器を外さなければならないのか」という点です。
このルールは、競技の公平性を確保するために設けられています。加えて、補聴器を外した環境で試合を成立させるため、審判のフラッグや選手同士の視覚的な連携が欠かせません。
補聴器を外す理由は競技の公平性デフサッカーでは、競技中に補聴器や音声増幅装置を使用することが禁止されています。人工内耳についても、音を受け取るための体外部品は使用できません。
国際ろう者スポーツ委員会(ICSD)の聴力検査規則では、聴覚を増幅する機器を使用することで競技上の有利不利が生じる可能性があることを理由に、対象となる競技区域での使用を禁止しています。
このため、選手は試合だけでなく、規則で定められたウォーミングアップ中にも機器を外す必要があります。
ここで注意したいのは、デフサッカーの競技規則と一般のサッカーの規則は同じではないということです。聴覚障がいのある選手が一般のサッカーチームでプレーする場合には、補聴器や人工内耳の使用が認められるケースもあります。
つまり、補聴器を外すという決まりは、すべてのサッカーに共通するものではなく、デフ競技における公平性を守るためのルールです。
審判は笛だけでなくフラッグも使用する通常のサッカーでは、主審が笛を吹くことで試合の開始や停止、ファウルなどを選手に知らせます。
しかし、笛の音が聞こえない選手にとって、音だけの合図では判定を認識できません。
そこでデフサッカーでは、審判が笛とフラッグを併用します。主審も通常のサッカーとは異なり、フラッグを持って試合をコントロールします。
東京2025デフリンピックの公式競技紹介によると、国際大会では通常の審判団に加えて、両ゴール裏にもフラッグを持った補助員が配置されます。
JIFFの競技紹介では、国際試合において合計5人のフラッグを持った審判員が、競技の停止などを複数の方向から伝える仕組みが説明されています。
こうした仕組みによって、選手が笛の音を聞き取れなくても、試合の進行を視覚的に把握できるようになっています。
手話とアイコンタクトが試合の流れを変えるデフサッカーでは、選手同士のコミュニケーションも大きな見どころです。
一般的なサッカーでは「後ろに敵がいる」「右へ展開して」など、声による指示が頻繁に行われます。一方、デフサッカーでは、手話や身ぶり、アイコンタクトなどを使って情報を伝えます。
特に重要なのが、味方の位置や相手選手の動きを視覚的に把握することです。
例えば、パスを受ける選手が味方の視線や身体の向きを確認すれば、次のプレーを予測しやすくなります。フリーキックやコーナーキックなどのセットプレーでも、あらかじめ決めた動きを視覚的な合図で共有できます。
このように、デフサッカーでは視野の確保や周囲への注意力が重要です。単純に音が聞こえない状態でプレーするのではなく、視覚情報を中心に試合を組み立てる能力が大切です。
【参加資格】デフサッカーの聴力基準は何dB?日本と国際大会の違い
デフサッカーに興味を持った人が気になるのが、選手になるための参加資格です。
聴覚障がいがあれば誰でも国際大会に出場できるわけではありません。デフスポーツには、競技の公平性を確保するための聴力基準が設けられています。
国際大会の基準は良聴耳の平均聴力レベル55dB以上国際ろう者スポーツ委員会(ICSD)が定める聴力基準では、聞こえのよい方の耳(良聴耳)において、平均聴力レベルが55dB以上であることが参加条件の一つとなっています。
具体的には、500Hz、1000Hz、2000Hzの3つの周波数における気導聴力の平均値を用いて判定します。
これはデフリンピックや世界ろう者選手権など、ICSDが認める国際大会に適用される基準です。
また、聴力検査の結果を提出する必要があり、国際大会ではICSDの規則に基づく確認や審査が行われます。
日本国内の聴力基準は国際基準と異なる日本国内の対象者について、JIFFのデフサッカー紹介では、身体障害者手帳の聴覚障害6級に相当する基準として、次の条件が紹介されています。
- 両耳の聴力レベルがそれぞれ70dB以上。
- 一側の耳の聴力レベルが90dB以上で、他側の耳が50dB以上。
一方、国際大会では前述の良聴耳55dB以上というICSD基準が適用されます。
このように、日本国内の対象者基準と国際大会の参加資格は同一ではありません。国内大会への参加や日本代表への選出を希望する場合は、JDFAが公表する最新の大会要項や登録条件を確認する必要があります。
なお、聴力の数値だけで代表選手になれるわけではありません。実際の代表活動では、競技力やチームへの適性、選考なども関係します。
【日本代表の実績】東京2025デフリンピックで男女ともに銀メダル獲得!
デフサッカーの日本代表にとって、大きな転換点となったのが2025年11月に開催された東京2025デフリンピックです。
第25回夏季デフリンピック競技大会は2025年11月15日から26日まで開催され、サッカー競技は福島県のJヴィレッジを会場として11月14日から25日にかけて実施されました。
男子・女子の日本代表は、ともに決勝へ進出。惜しくも優勝には届きませんでしたが、両チームが銀メダルを獲得しました。
これは、デフリンピックのサッカー競技において日本代表が男女ともに初めて獲得したメダルです。
男子日本代表は決勝でトルコと対戦男子日本代表は予選リーグでオーストラリアに8対0、メキシコに7対0と勝利し、イタリアとは0対0で引き分けました。
決勝トーナメントでは、準々決勝でイギリスを2対1、準決勝でアメリカを1対0で破り、決勝へ進出しました。
2025年11月25日の決勝ではトルコと対戦。日本は1対2で敗れましたが、歴史的な銀メダルを手にしました。
女子日本代表も初の銀メダルを獲得女子日本代表も決勝まで勝ち進みました。
予選リーグではアメリカに0対5で敗れたものの、イギリスに6対0、オーストラリアに3対1で勝利し、決勝進出を果たしました。
決勝では再びアメリカと対戦し、0対4で敗戦。それでも、女子チームにとって初めてのデフリンピック銀メダルとなりました。
東京2025デフリンピックの日本代表・主要結果- 2025年11月14日:男子日本代表がオーストラリアに8対0で勝利。
- 2025年11月16日:男子日本代表がメキシコに7対0で勝利。
- 2025年11月18日:男子日本代表がイタリアと0対0で引き分け、予選1位通過。
- 2025年11月20日:男子日本代表がイギリスに2対1で勝利。
- 2025年11月22日:男子日本代表がアメリカに1対0で勝利。
- 2025年11月25日:男子日本代表がトルコに1対2で敗れ、銀メダルを獲得。
- 2025年11月25日:女子日本代表がアメリカに0対4で敗れ、銀メダルを獲得。
これらの結果は、JDFAや日本選手団の公式競技結果、JIFFの大会レポートでも公表されています。
特に注目したいのは、男女ともに決勝まで進んだことです。日本のデフサッカーが、国際舞台でメダルを争える競技力を備えていることを示す大会となりました。
2026年の最新動向:国内リーグの新設と2027年W杯への準備2026年のデフサッカー界では、国内競技の強化と国際大会への準備が進んでいます。
最初に、JDFAは従来の日本選手権大会を改め、2026年度から男子の国内リーグ戦をJapan Deaf Premier League(ジャパン・デフ・プレミアリーグ)としてスタートさせました。
予選リーグは2026年5月30日・31日に実施され、決勝トーナメントは10月10日・11日に神戸市西区のフレスカ人工芝フィールドで開催される日程となりました。
国内リーグの新設は、単発の選手権大会にとどまらず、継続的な競技環境を整える動きとして注目されます。
また、JDFAが2026年6月に公表した男子日本代表候補合宿の報告では、2027年11月にオーストラリアで開催予定のデフサッカーワールドカップを目標に、新しい代表チームの活動を進めていることが紹介されています。
JIFFの公式スケジュールには、男子日本代表のワールドカップ・アジア予選が2026年10月19日から28日まで韓国で開催される予定として掲載されています。
東京2025で得た国際大会の経験を、次の世界大会へどうつなげるか。2026年は、日本代表の強化体制と国内リーグの両面が注目されるシーズンです。
【競技の違い】デフサッカーとデフフットサルは何が違う?
デフサッカーと混同されやすい競技に、デフフットサルがあります。
どちらも聴覚障がいのある選手が参加し、競技中に補聴器を外すことや、手話・アイコンタクトを使って連携する点は共通しています。
しかし、競技人数や試合時間、使用するコート、競技の展開には違いがあります。
デフサッカーは11人制、デフフットサルは5人制デフサッカーは11人制で、通常のサッカーと同じフルサイズのピッチを使用します。
対するデフフットサルは1チーム5人で行う競技です。フットサル特有のコートやボール、競技規則が適用されます。
人数が少ないため、デフフットサルでは選手同士の距離が近く、素早いパス交換や狭いスペースでの判断が大切です。
試合時間にも違いがあるデフサッカーは前後半45分ずつの合計90分が基本です。
一方、JIFFの紹介ではデフフットサルの試合時間として、25分のランニングタイム、または20分のプレーイングタイムが示されています。
フットサルは競技規則に応じて時計の進め方が異なるため、実際の試合では大会ごとのルール確認も必要です。
どちらも視覚的な情報伝達が重要両競技に共通するのが、音声に頼らない試合運営です。
審判は笛とフラッグを使用し、選手は手話やアイコンタクトを活用します。
したがって、デフサッカーとデフフットサルの違いは、聴覚障がいの有無ではなく、基本となる競技形式にあります。
広いピッチで11人が連携するサッカーと、限られた空間で素早い判断を繰り返すフットサル。それぞれに異なる魅力があります。
【よくある質問】デフサッカーとは?に関するFAQ
Q1:デフサッカーは耳が聞こえない人だけが参加できる競技ですか?
A1:デフサッカーは聴覚障がいのある選手を対象とする競技です。国際大会ではICSDが定める良聴耳55dB以上の聴力基準があり、参加資格の確認が行われます。国内大会と国際大会では基準が異なるため、参加を希望する場合はJDFAの最新の大会要項を確認してください。
Q2:デフサッカーではなぜ補聴器を外すのですか?
A2:競技の公平性を確保するためです。音を増幅する機器の使用によって競技上の有利不利が生じないよう、国際規則で補聴器や音声増幅装置、人工内耳の体外部品などの使用が禁止されています。
Q3:デフサッカーの試合は何人で何分行いますか?
A3:1チーム11人で、前半45分、後半45分の合計90分が基本です。ハーフタイムは15分で、通常のサッカーと同じ競技形式です。
Q4:デフサッカーの審判は笛を使わないのですか?
A4:笛も使用します。ただし、選手に音が聞こえないため、フラッグも併用して判定や試合の停止を知らせます。国際大会ではゴール裏にもフラッグを持った補助員が配置されます。
Q5:デフサッカーとデフフットサルの違いは何ですか?
A5:デフサッカーは11人制で前後半45分ずつ、デフフットサルは5人制です。競技人数やコート、試合時間が異なりますが、補聴器を外すことや視覚的なコミュニケーションを重視する点は共通しています。
Q6:東京2025デフリンピックで日本代表はメダルを獲得しましたか?
A6:獲得しました。男子日本代表はトルコに1対2、女子日本代表はアメリカに0対4で敗れましたが、男女ともに銀メダルを獲得しました。デフリンピックのサッカー競技では日本初のメダル獲得です。
デフサッカーとは、聴覚に障がいのある選手が補聴器を外して行う11人制サッカーです。試合時間や基本ルールは通常のサッカーとほぼ同じですが、審判のフラッグ、手話、アイコンタクトなど、視覚を中心とした情報伝達が競技の特徴となっています。
補聴器を外す理由は、音声増幅による競技上の有利不利を避け、公平な条件で試合を行うためです。国際大会では良聴耳55dB以上という聴力基準も定められています。
そして、東京2025デフリンピックで男子・女子の日本代表がともに銀メダルを獲得したことは、日本のデフサッカーにとって大きな成果でした。
2026年にはJapan Deaf Premier Leagueが始動し、男子日本代表も2027年のオーストラリアでのワールドカップを見据えた強化を進めています。
デフサッカーを見るときは、ボールを持っている選手だけでなく、周囲の味方との視線のやり取りや、審判が掲げるフラッグにも注目してみてください。声に頼らずとも成立する連携と、選手一人ひとりの判断力が、この競技ならではの面白さを生み出しています。
競技の仕組みを知ることは、聴覚障がいへの理解を深めるだけでなく、スポーツにおけるコミュニケーションや公平性について考えるきっかけにもなります。2027年の世界大会に向けた日本代表の挑戦と、国内競技のさらなる発展にも注目が集まります。
主な根拠資料: 日本ろう者サッカー協会(JDFA)、日本障がい者サッカー連盟(JIFF)、国際ろう者スポーツ委員会(ICSD)、東京2025デフリンピック公式競技紹介、日本選手団の競技結果。