早生まれと遅生まれでは、将来の年収に差が生まれるのでしょうか。実は、日本の労働市場を分析した研究では、30〜34歳の男性について、1〜3月生まれの人は4〜6月生まれの人より年間所得が約4%低いという結果が報告されています。生まれた月が違うだけで、子どものころの学力や運動能力だけでなく、成人後の所得にも差が表れるという点は見過ごせません。
2026年6月には、東京大学大学院経済学研究科教授の山口慎太郎氏が『「早生まれ」は損なのか―生まれ月格差の経済学』を刊行し、生まれ月による格差の仕組みを改めて取り上げました。ただし、話題となっている約4%という数字は2026年に実施された新しい年収調査ではなく、川口大司氏による2011年の学術研究に基づくものです。研究対象や比較条件を整理しながら、教育環境、学歴、プロ野球選手の年俸、2026年時点の最新情報まで詳しく見ていきます。
【結論】早生まれと遅生まれでは年収に約4%の差がある?30代男性の研究結果

最初に、最も気になる年収の差から確認しましょう。
日本の経済学者・川口大司氏が発表した研究では、同じ学年に所属する人を出生月別に比較した結果、1〜3月生まれの男性は4〜6月生まれの男性より、30〜34歳時点の年間所得が約3.9%低いことが示されました。
この研究は、2011年6月に学術誌『Journal of the Japanese and International Economies』に掲載された「Actual Age at School Entry, Educational Outcomes, and Earnings」です。日本の学力データと労働力調査を用いて、出生月と教育達成、労働市場での成果の関係を検証しています。
注目すべきなのは、子どものころの体格差がなくなる成人後にも、所得面で違いが確認されたことです。単純な身体的成長の問題ではなく、教育や進路選択を通じて影響が長期化する可能性を示しています。
1〜3月生まれと4〜6月生まれの所得比較研究で用いられた出生月の区分は、以下のとおりです。
1〜3月生まれ約3.9%低い
4〜6月生まれの男性との所得比較
4〜6月生まれ基準グループ
同じ学年内で相対的に年長となる出生月のグループ
出典:川口大司氏「Actual Age at School Entry, Educational Outcomes, and Earnings」(2011年)。
約4%という数字は、年収そのものが全員一律に4%減るという意味ではありません。出生月グループ間の平均的な所得差を統計的に推計したものです。
30代前半の男性平均年収に置き換えるといくら?金額の規模をイメージするため、2026年9月29日に公表された国税庁の令和7年分民間給与実態統計調査も確認しておきましょう。
同調査を年齢・男女別に集計した数値では、30〜34歳男性の平均給与は約528.7万円です。これは出生月を区別しない一般的な給与統計であり、早生まれと遅生まれの比較結果ではありません。
この528.7万円に4%を単純に当てはめると、約21.1万円に相当します。つまり、金額の大きさとしては年間20万円前後の差をイメージできます。ただし、これは異なる調査の数値を使った参考計算であり、2026年の早生まれ男性の実測年収差ではありません。
【研究を徹底検証】年収4%差はどのような調査から判明したのか
年収4%という数字を正しく理解するには、誰を対象に、いつ、どのような方法で比較したのかを知る必要があります。
川口大司氏の2011年研究が出発点研究を発表した川口大司氏は、労働経済学を専門とする経済学者です。東京大学大学院経済学研究科教授を務め、教育や人的資本形成、労働市場の実証分析などに取り組んできました。
同研究では、2002年の就業構造基本調査を利用し、学歴、就業状況、前年の年間所得などを分析しています。
分析対象となった労働市場データは、30〜59歳の男女を中心とした大規模なものです。そのうち出生月による季節的な社会経済背景の違いを抑えるため、1968年4月から1972年3月までに生まれた世代を所得分析の対象にしています。
この世代は調査時点でおおむね30〜34歳に該当します。所得の比較では、1〜3月生まれと4〜6月生まれを分け、同じ学年内での出生時期の違いを検証しました。
約4%差の研究で押さえるべき比較条件研究の主要な条件を整理すると、次のようになります。
研究者
川口大司
論文掲載
2011年6月
主な調査データ
2002年就業構造基本調査
所得の比較対象
30〜34歳の男性
出生月の比較
1〜3月と4〜6月
推計された所得差
約3.9%
特に注意したいのは、調査対象が2026年の30代男性ではないという点です。2026年に出版された書籍や報道でこの数字が紹介されていても、所得の基礎データは2001年前後の状況を反映しています。
また、女性については、男性と同じような出生月別の所得差は明確に確認されていません。女性の就業状況や労働参加には異なる要因が関係するため、男性の結果をそのまま女性に当てはめることはできません。
【生まれ月格差の理由】相対年齢効果が学歴と所得に影響する仕組み
なぜ、数か月の誕生日の違いが大人になってからの収入にまで影響するのでしょうか。その鍵となるのが、教育経済学や発達心理学で研究されている相対年齢効果(Relative Age Effect)です。
同じ学年でも最大で約1年の成長差がある日本の小学校では、4月1日に学年が始まり、翌年3月31日に終わります。年齢計算の仕組みによって、同じ学年は原則として4月2日生まれから翌年4月1日生まれまでで構成されます。
つまり、4月2日生まれの子どもと翌年3月生まれの子どもでは、実際の年齢にほぼ1年の違いがあります。
小学校入学時の6歳前後では、この差は小さくありません。体格、運動能力、言語能力、集中力など、さまざまな発達段階に違いが表れやすいからです。
同じ学年に所属する子ども同士を比べたとき、相対的に年齢が高い子どもが有利になりやすい現象を相対年齢効果と呼びます。
小さな成功体験が学力や自信の差を広げる幼少期の年齢差は、単純な身体能力の差だけでは終わりません。
例えば、学年内で年長の子どもは、授業内容を早く理解したり、運動で良い結果を出したりする機会が多くなります。先生や周囲から褒められる経験も積み重なりやすくなります。
その結果、自分は勉強が得意だ、運動ができるという自己認識が育ち、さらに努力する意欲につながる可能性があります。
反対に、年齢が低い子どもは、同じ課題でも難しく感じたり、運動で選ばれる機会が少なくなったりすることがあります。本人の能力とは別の理由で、成功体験を積む機会に差が生じるわけです。
こうした経験が繰り返されることで、最初は小さかった差が、学習意欲や自己効力感の違いとして残る可能性があります。
山口慎太郎氏らの研究が明らかにした教育環境の違いこの問題をさらに掘り下げたのが、山口慎太郎氏、伊藤寛武氏、中室牧子氏による研究です。
研究では、埼玉県学力・学習状況調査の4年分のデータを利用しました。さいたま市を除く埼玉県内の約1,000の公立小中学校に通う、小学4年生から中学3年生までの子どもたち、延べ100万人超を対象に分析しています。
調査結果からは、相対的に年齢の低い子どもについて、次のような傾向が確認されました。
興味深いのは、早生まれの子どもたちが学力差を埋めようと勉強に時間を使う一方で、スポーツや芸術などの活動に使える時間や機会が減っている点です。
つまり、学力を追いつかせるための努力が、別の能力を伸ばす機会の減少につながっている可能性があります。
この研究は2020年のRIETIディスカッション・ペーパーとして公表され、2023年には学術誌『Labour Economics』に掲載されました。山口氏らの教育研究と川口氏の所得研究は別の研究ですが、両者を合わせることで、生まれ月による影響がどのように長期化するのかが見えてきます。
高校入試と大学進学が格差を固定化する幼少期の差がさらに重要になるのは、中学校や高校で進路選択が行われるためです。
山口氏が2026年の取材で紹介した埼玉県内の自治体の分析では、4月生まれと翌年3月生まれの子どもが進学した高校の偏差値に、平均して約4.5ポイントの差が確認されています。
高校の進学先が異なれば、授業の進度、学習環境、周囲の生徒との関係、大学進学への期待などにも違いが生じる可能性があります。
その後の大学進学や就職活動にも影響が波及すれば、最初の小さな年齢差が成人後の所得格差につながる経路が成立します。
特に日本では新卒一括採用が長く定着しており、最初に入社する企業や所属する組織が、その後のキャリア形成に影響する場合があります。教育段階で生じた差が、就職や昇進の機会を通じて所得に反映される可能性があるのです。
【研究・関係者を比較】川口大司・山口慎太郎と生まれ月格差の実態
早生まれの年収問題を理解するには、複数の研究を混同せず、それぞれが何を明らかにしたのかを整理することが大切です。
特に、年収を直接分析した研究、子どもの能力を調べた研究、プロスポーツの出生月を分析した研究は、それぞれ異なる役割を持っています。
このように、約4%の所得差を示した中心的な研究者は川口大司氏です。一方、山口慎太郎氏らは子どもの発達や能力形成を分析し、格差が生じる背景を説明する研究を進めています。
2026年6月8日には、中央公論新社から山口氏の『「早生まれ」は損なのか―生まれ月格差の経済学』が刊行されました。生まれ月による影響を教育制度や社会の選抜構造と結びつけて解説した書籍であり、2026年の関連情報を把握するうえで重要な資料です。
【プロ野球選手の年俸】早生まれはプロでも収入が低くなるのか
生まれ月による格差は、一般企業だけでなく、プロスポーツの世界でも研究されています。
プロ野球では、選手の身体能力や技術が重視されます。しかし、少年期の育成や選手選考においては、同じ学年の中で相対的に年長の選手が有利になる可能性があります。
プロ野球選手には4〜6月生まれが多い2017年に『Sports Medicine - Open』に掲載された中田大輝氏の研究では、1911〜1980年生まれの日本人プロ野球選手4,218人を分析しました。
出生月を4つのグループに分けたところ、4〜6月生まれの選手は全体の34.0%を占めた一方、1〜3月生まれは19.7%でした。
加えて、プロ野球選手として19年以上活動した選手の割合は、1〜3月生まれのグループで相対的に少ないという結果も報告されています。
この研究は、プロ入り後のキャリアの長さにも相対年齢効果が関係する可能性を示しています。ただし、ポジションやドラフト順位など、ほかの要因も関係するため、生まれ月だけで選手寿命が決まるわけではありません。
プロ野球の年俸にも約2%の差を示す研究草稿さらに興味深いのが、東北大学の研究センターが2024年6月に公表した家舗弘志氏のディスカッション・ペーパーです。
「Discrimination against birth month in the hiring process? The case of Japanese professional baseball」と題された研究では、1994〜2019年に日本プロ野球へ入団した日本人選手2,210人のデータを分析しています。
選手の成績などを考慮して比較した結果、1〜3月生まれの選手は4〜6月生まれの選手より、年収が約2%低いという推計が示されました。
研究では、その背景としてドラフト時の評価と初期年俸に着目しています。相対的に年齢が低い選手はドラフト順位が低く評価され、初期年俸が約11%低くなる傾向があり、その差が後の年俸にも影響するという分析です。
ただし、この資料は正式な査読済み学術誌の論文ではなく、研究内容への意見や検討を目的に公開されたディスカッション・ペーパーです。推計上の所得差も統計的有意性に留意する必要があります。日本全体の会社員に同じ2%の差があると解釈することはできません。
スポーツの出生月格差は時代とともに変化している2020年に公表された日本人男性プロスポーツ選手7,805人を対象とした研究では、1993年、2001年、2010年、2018年のデータを用いて、野球、サッカー、バスケットボール、バレーボールの出生月分布を比較しました。
野球とサッカーでは相対年齢効果が確認されましたが、その強さは時代とともに弱まる傾向も見られています。
これは、出生月による格差が固定されたものではなく、競技環境や育成制度、社会的な条件によって変化する可能性を示しています。
【2026年最新】早生まれの生涯年収は本当に低い?4%差の正しい読み方
ここで区別しておきたいのが、30〜34歳時点の所得差と生涯年収の差です。
30代の4%差を生涯年収の4%差と考えてはいけない川口氏の研究で示されたのは、特定の年齢層における年間所得の違いです。20代から定年までの全所得を合計し、早生まれと遅生まれの生涯年収を比較した結果ではありません。
30代前半で所得に差があったとしても、その後の昇進、転職、独立、職種変更、雇用形態などによって差が縮小したり拡大したりする可能性があります。
実際、ノルウェーの男性を対象にした2017年の研究では、特定の年齢時点で見られる出生月による所得差が、長期的には相殺され、生涯所得には経済的に大きな差が残らないという結果が報告されています。
これは日本の研究とは対象国や世代が異なるため、そのまま日本に当てはめることはできません。しかし、ある年齢の所得差だけで生涯年収を断定できないことを示す重要な比較材料です。
2026年の新しい研究と、過去の研究結果を混同しない2026年は、早生まれによる所得格差が再び取り上げられる機会が増えた年です。山口慎太郎氏の新刊や関連インタビューが公表され、教育制度と所得のつながりに関心が集まりました。
一方、2026年11月時点で確認できる約4%という代表的な日本の所得差は、川口氏の2011年論文に基づいています。2026年に新たに全国の30〜34歳男性を出生月別に調査した結果ではありません。
国税庁が2026年9月に公表した令和7年分民間給与実態統計調査は、最新の年齢別給与を把握するうえで役立ちますが、出生月別の年収差を直接示す統計ではありません。
早生まれの子どもに必要なのは、能力を伸ばす機会の確保生まれ月格差を考える際に、もう一つ重要なのが教育環境です。
早生まれの子どもに対して、学習面だけを重点的に支援すれば十分というわけではありません。スポーツ、音楽、芸術、友人との交流など、非認知能力を育てる活動にも目を向ける必要があります。
また、入試や学校での評価において、生まれ月を考慮する方法も議論されています。一部の学校では、出生月のグループごとに合格枠を設けるなどの工夫が紹介されています。
ただし、入学時期を遅らせる制度を導入すれば、家庭の経済力によって利用機会に差が生まれる可能性もあります。制度を変えるだけでなく、教員や指導者が子どもの発達段階を理解し、年齢差による評価の偏りを小さくすることも大切です。
【早生まれ遅生まれの年収】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:早生まれの人は遅生まれの人より必ず年収が低くなるのでしょうか?
A1:必ず低くなるわけではありません。約4%という数字は、30〜34歳の男性を対象にした研究で確認されたグループ間の平均的な所得差です。個人の能力、学歴、職業、勤務先、経験などによって実際の年収は大きく異なります。
Q2:4月1日生まれは早生まれと遅生まれのどちらですか?
A2:4月1日生まれは早生まれに該当します。日本の学校制度では、4月2日生まれから翌年4月1日生まれまでが同じ学年です。そのため、4月1日生まれは3月生まれの子どもと同じ学年になります。なお、研究上の4〜6月という比較区分は月単位の集計であり、4月1日だけは学年上の位置づけが異なります。
Q3:早生まれの人は生涯年収でも4%損をするのですか?
A3:日本の約4%という研究結果だけでは、生涯年収の差までは判断できません。確認されているのは30〜34歳時点の年間所得の違いです。生涯所得については、転職、昇進、就業期間などを含めた長期的な追跡研究が必要です。
早生まれと遅生まれの年収格差については、川口大司氏の2011年研究で、30〜34歳男性の1〜3月生まれの所得が4〜6月生まれより約3.9%低いという結果が報告されています。
その背景には、幼少期の相対年齢効果、学力や非認知能力の発達、進学先の選抜、就職機会など、複数の要因が関係していると考えられます。
山口慎太郎氏らの研究は、早生まれの子どもが学習面で努力する一方、スポーツや習い事などの経験機会が少なくなる可能性を明らかにしました。加えて、プロ野球の研究でも出生月と選手選考、キャリア、年俸の関係が検討されています。
【プロの結論】生まれ月格差を正しく理解するための3つの視点生まれ月は本人が選べるものではありません。しかし、その後の教育環境や評価制度は社会の工夫によって変えられます。
早生まれと遅生まれの年収差を単なる統計上の数字として終わらせず、子ども一人ひとりの成長段階に合った教育や評価を考えること。それが、生まれ月による不公平を小さくし、将来の可能性を広げるための重要な視点です。