インフルエンザで特に注意したい合併症の一つが肺炎だ。インフルエンザそのものによる肺炎もあれば、肺炎球菌などの細菌が二次感染して起こる細菌性肺炎もある。
細菌性肺炎を併発した場合、インフルエンザウイルスに対する治療だけでは不十分になる可能性があり、原因菌に応じた抗菌薬による治療が必要になる。
インフルエンザ肺炎の主なリスクと注意点厚生労働省の2026年度Q&Aでは、インフルエンザによって重症化する可能性がある人として、特に高齢者や免疫機能が低下している人などを挙げている。また、乳幼児ではまれに急性脳症を起こすこともある。
肺炎などの合併症に注意したい人は次のとおりだ。
- 高齢者:感染後に細菌性肺炎などを併発するリスクに注意が必要。
- 慢性疾患のある人:基礎疾患の状態によって重症化リスクが高まる。
- 免疫機能が低下している人:細菌感染を併発しやすく、重症化にも注意が必要。
- 乳幼児・小児:肺炎などの合併症に加え、まれな急性脳症や異常行動にも注意する。
インフルエンザの療養中、次のような症状が見られた場合は、単なる回復途中の症状と決めつけず、医療機関に相談したい。
- 高熱が続いている。
- 息苦しさや呼吸困難がある。
- 胸の痛みが続いている。
- いったん改善した発熱や咳が再び悪化する。
- 咳や痰が増え、全身状態が悪くなっている。
- 水分が取れず、脱水が疑われる。
- 意識状態がおかしい、呼びかけへの反応が鈍い。
特に強い呼吸困難、意識障害、唇が紫色になるなどの症状がある場合は、救急対応が必要になる。受診を先延ばしにしてはいけない。
なお、痰の色や発熱の長さだけで細菌感染を確定することはできない。医師は症状や診察所見に加え、必要に応じて血液検査、胸部X線検査、喀痰検査などを組み合わせて判断する。
厚生労働省の2026年度Q&Aも、高熱が続く場合、呼吸が苦しい場合、意識状態に異常がある場合には早めの受診を呼びかけている。
【薬の違いを比較】タミフル・リレンザ・イナビル・ゾフルーザは抗生物質ではない

インフルエンザの治療でよく名前が挙がるタミフル、リレンザ、イナビル、ゾフルーザは、いずれも抗生物質ではない。
これらはインフルエンザウイルスの増殖を抑えることを目的とした抗インフルエンザウイルス薬だ。抗菌薬とは治療対象が異なる。
抗インフルエンザ薬と抗菌薬の違い薬の分類を整理すると、次のようになる。
- 抗インフルエンザ薬:インフルエンザウイルスを対象にする。
- 抗菌薬:肺炎球菌などの細菌を対象にする。
- 抗真菌薬:カビなどの真菌を対象にする。
- 抗寄生虫薬:寄生虫による感染症を対象にする。
つまり、インフルエンザの治療では、ウイルスに対する薬と、細菌感染に対する薬を混同しないことが大切だ。
代表的な抗インフルエンザ薬の特徴2026年9月30日版・厚生労働省Q&Aに掲載された主な治療薬
一般名:オセルタミビル
カプセルなどの内服薬。インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼという酵素の働きを阻害する。
一般名:ザナミビル
吸入して使用する薬。ノイラミニダーゼ阻害薬に分類される。
一般名:ラニナミビル
吸入タイプの抗インフルエンザ薬。使用方法や適応は年齢、病状などによって異なる。
一般名:バロキサビル マルボキシル
ウイルスの増殖に必要なキャップ依存性エンドヌクレアーゼという酵素を阻害する。
一般名:ペラミビル
点滴静注で使用するノイラミニダーゼ阻害薬。内服や吸入が難しい場合など、患者の状態に応じて検討される。
なお、厚生労働省の資料にはアマンタジンも掲載されている。A型インフルエンザにのみ有効だが、ほとんどのインフルエンザウイルスが耐性を獲得しているため、使用機会は少なくなっている。
薬の選択は、年齢、基礎疾患、症状、発症からの時間、吸入や内服が可能かどうかなどを考慮して医師が判断する。
【発症後48時間が目安】インフルエンザ治療薬はいつ飲むべき?
抗インフルエンザ薬について、もう一つ知っておきたいのが発症後48時間という時間の目安だ。
厚生労働省の2026年度Q&Aによると、抗インフルエンザウイルス薬を発症から48時間以内に使用すると、発熱期間は通常1~2日短縮され、鼻やのどから排出されるウイルス量も減少する。
48時間を過ぎると薬は効かないのか発症後48時間を過ぎてから使用を開始した場合、十分な効果は期待できないと厚生労働省は説明している。
ただし、これは「48時間を過ぎたら医療機関を受診する意味がない」ということではない。重症化リスクの高い人や症状が悪化している人では、時間が経過していても診察や治療方針の検討が必要になる。
また、48時間は抗インフルエンザ薬についての目安であり、抗生物質を飲み始めるタイミングを意味するものではない。細菌感染が疑われる場合は、その診断と重症度に応じて抗菌薬の必要性が判断される。
抗インフルエンザ薬は全員が飲む必要がある?答えはNOだ。
厚生労働省は、インフルエンザに感染したすべての人に抗インフルエンザ薬が必須というわけではないと説明している。
インフルエンザは、多くの場合、4~5日間の発熱などを経て自然に軽快する。高齢者、免疫不全者、小児など、重症化リスクが高いと考えられる人では抗インフルエンザ薬による重症化予防効果が期待される一方、それ以外の人では重症化予防効果が限定的とされている。
そのため、薬を使うかどうかは発症からの時間や症状、患者の状態などを踏まえて決定する。
知っておきたいポイント
48時間以内という数字は、抗インフルエンザ薬の効果を得るための重要な目安。抗生物質の使用期限でも、48時間を過ぎたら受診不要という意味でもない。
出典:厚生労働省「令和8年度冬季 急性呼吸器感染症(ARI)総合対策に関するQ&A」Q16。
【2026年11月の重要課題】抗生物質の飲みすぎと薬剤耐性AMRのリスク
抗生物質を必要のない場面で使用しないことには、もう一つ大きな理由がある。それが薬剤耐性、AMR(Antimicrobial Resistance)だ。
抗菌薬を不必要に使ったり、不適切な量や期間で使用したりすると、薬剤が効きにくい細菌が生き残り、増殖する可能性がある。その結果、将来、本当に細菌感染症にかかったときに、これまで有効だった薬が効かなくなるおそれがある。
薬剤耐性は人間の体が薬に慣れることではない薬剤耐性についてよくある誤解が、「抗生物質を飲みすぎると自分の体が薬に慣れて効かなくなる」というものだ。
厳密には、薬剤耐性とは細菌などの微生物が薬に対して抵抗性を持つようになる現象を指す。人間の体そのものが抗生物質に慣れてしまうという意味ではない。
抗菌薬が必要でない病気にまで使用されると、薬に弱い細菌が減り、耐性を持つ細菌が選択されて残りやすくなる。こうした積み重ねが、社会全体の感染症治療を難しくする原因になる。
2026年の厚生労働省によるAMR対策厚生労働省は、毎年11月を薬剤耐性(AMR)対策推進月間としている。2026年も同月に啓発活動が行われている。
また、2026年1月16日には「抗微生物薬適正使用の手引き 第四版」の医科・外来編、医科・入院編、薬剤耐性菌感染症の抗菌薬適正使用編などが公表された。加えて、2026年10月には第四版のダイジェスト版も掲載されている。
厚生労働省が示すAMR対策の基本は、必要な場合に、適切な薬を適切な量と期間で使用することだ。
同省の説明では、対策を講じなかった場合、2050年には世界のAMR関連死亡者数が年間1,000万人に達するとの推計も紹介されている。これは将来予測であり、2026年時点の実際の死亡者数ではない。
インフルエンザで抗生物質を自己判断で飲んではいけない理由家に残っていた抗生物質を、インフルエンザの症状が出たからといって自己判断で服用するのは避けたい。
主な理由は次の4つだ。
- インフルエンザウイルスには直接効果がない。
- 原因菌に合わない抗菌薬では、細菌感染があっても適切な治療にならない。
- 下痢や発疹などの副作用や、薬によるアレルギー反応が起こる可能性がある。
- 不必要な使用が薬剤耐性の拡大につながる可能性がある。
また、処方された抗菌薬を自己判断で中断したり、反対に長く飲み続けたりすることも避けるべきだ。処方された用法・用量・期間を守り、変更が必要だと感じたら医師や薬剤師に相談することが基本となる。
残った薬を次の感染症に使い回したり、家族に渡したりすることも適切ではない。
【インフル抗生物質】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:インフルエンザに抗生物質を飲めば早く治りますか?
A1:いいえ。抗生物質は細菌に作用する薬であり、インフルエンザウイルスそのものには効きません。細菌感染を併発した場合には、その治療のために抗菌薬が処方されることがあります。
Q2:インフルエンザなのに抗生物質を処方されたのはなぜですか?
A2:肺炎球菌などによる細菌感染や、気管支炎、肺炎などの合併症が疑われている可能性があります。処方された理由や対象となる感染症について、医師や薬剤師に確認してください。
Q3:タミフルと抗生物質は同じ薬ですか?
A3:違います。タミフルはインフルエンザウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬です。抗生物質は細菌を対象にする薬です。
Q4:インフルエンザの薬は発症後48時間を過ぎたら飲んでも意味がありませんか?
A4:48時間を過ぎると十分な効果は期待できないとされていますが、受診する意味がなくなるわけではありません。重症化リスクや症状を踏まえて医師が判断します。
Q5:インフルエンザのとき、抗生物質は必ず飲む必要がありますか?
A5:いいえ。細菌感染が認められないインフルエンザ単独の感染では、通常、抗菌薬は必要ありません。細菌感染の有無によって必要性が変わります。
Q6:熱が下がった後に再び発熱したら、抗生物質が必要ですか?
A6:再発熱だけで抗生物質が必要とは判断できません。ただし、回復しかけてから再び高熱が出る、咳が悪化する、息苦しい、胸が痛むなどの場合は、肺炎などの合併症も考えられるため、早めに医療機関を受診してください。
Q7:抗生物質を飲まないと肺炎になりますか?
A7:そのようなことはありません。インフルエンザ単独の感染に予防目的で抗生物質を飲んでも、細菌性肺炎を確実に防げるわけではありません。細菌感染が確認された場合や疑われる場合に、医師の判断で適切な抗菌薬を使用します。
インフルエンザに抗生物質が効くのかという疑問に対する答えは、ウイルスそのものには効かないが、細菌感染を合併した場合には必要になることがあるというものだ。
2026年9月30日版の厚生労働省Q&Aでも、この使い分けは明確に説明されている。タミフル、リレンザ、イナビル、ゾフルーザなどはインフルエンザウイルスを対象とする薬であり、抗菌薬は肺炎球菌などの細菌を対象とする。
特に注意したいのは、インフルエンザの経過中に細菌性肺炎などを併発するケースだ。高齢者や慢性疾患のある人、免疫機能が低下している人は、合併症のリスクを意識し、体調の悪化を見逃さないようにしたい。
また、抗菌薬を必要のない場面で使用することは、薬剤耐性AMRという社会全体の課題にもつながる。余った抗生物質の使い回しや自己判断による服用は避け、医師の診断に基づいて治療を受けることが大切だ。
迷ったときに確認したい判断基準は、次の3つに集約できる。
- インフルエンザウイルスが原因:抗インフルエンザ薬や対症療法を検討する。
- 細菌感染を併発:原因菌や病状に応じて抗菌薬を検討する。
- 呼吸困難や意識障害などがある:薬の自己判断よりも、速やかな医療機関での診察を優先する。
薬は多く飲めばよいというものではない。必要な薬を、必要なタイミングで、正しく使うことが、本人の回復と将来の感染症治療を守ることにつながる。
主な参考資料:
- 厚生労働省「令和8年度冬季 急性呼吸器感染症(ARI)総合対策に関するQ&A」(2026年9月30日版)
- 厚生労働省「インフルエンザ(総合ページ)」
- 厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策」
- 厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き 第四版」
- 日本呼吸器学会「急性気管支炎」
- 食品安全委員会「薬剤耐性菌に関する用語集」