助詞の「を」の読み方について、現代の標準的な日本語での答えは明確です。「を」は「お」と同じ音で発音します。
例えば、次のような文章を声に出して読んでみてください。
- 本を読む:ほんおよむ
- 水を飲む:みずおのむ
- 映画を見る:えいがおみる
- これをください:これおください
いずれも「を」の部分に「w」の音を加える必要はありません。「ほんうぉよむ」「みずうぉのむ」と発音するのではなく、「ほんおよむ」「みずおのむ」と読むのが共通語の基本です。
NHK放送文化研究所のQ&Aで紹介されている発音の説明でも、助詞の「を」は[オ]とされています。放送やナレーションなど、標準的な日本語の発音が求められる場面では、この読み方を基準にするとよいでしょう。
ただし、ここで注意したいのが「標準的な読み方」と「地域で実際に使われている読み方」は必ずしも一致しないという点です。「うぉ」と発音する人がいるからといって、その人の日本語が間違っているとは限りません。
「お」と「を」の音は本当に同じ?音声学的に見ると、標準的な日本語では両方とも同じ母音に属します。
「お」の音は、唇を軽く丸めて発音する日本語の母音です。「を」も同じ音として発音するため、両者を聞き分けるための音声上の区別はありません。
例えば、「お菓子」と「お菓子を買う」の「お」と「を」は、文字としての役割こそ異なりますが、標準的な発音では同じ音です。
つまり、文字を見れば違いが分かるものの、音声だけでは「お」と「を」を区別できないという関係にあります。
【表記の秘密】なぜ「お」と「を」を書き分ける?文化庁の現代仮名遣いを解説

発音が同じなら、なぜ「お」と「を」の2種類の文字を使い続けているのでしょうか。
その理由は、日本語の表記には発音だけでなく、文法上の役割や長年の表記慣習も反映されているからです。
文化庁が公開している「現代仮名遣い」は、1986年(昭和61年)7月1日に内閣告示された現代日本語の表記基準です。現代語の音韻に従って書くことを原則としながら、慣習を尊重した例外も設けています。
その代表例が助詞の「を」です。
助詞の「を」は発音ではなく文法上の役割で使う文化庁の「現代仮名遣い」第2の1では、助詞の「を」は「を」と書くことが定められています。
例えば、次のような使い方です。
- 本を読む
- 道を歩く
- 友達を誘う
- 音楽を聴く
- 水を飲む
これらの「を」は、動作の対象などを示す助詞です。発音が「お」であっても、文章では「を」と表記します。
一方、通常の単語では「お」を使います。
- お母さん
- お金
- お菓子
- おとな(大人)
- おんな(女)
ここで大切なのは、「お」と「を」の使い分けは、発音の違いではなく、単語の表記と文法的な役割によって決まるということです。
なぜ助詞の「を」だけが残ったのかかつては「を」が助詞以外の単語にも広く使われていました。しかし、現代の表記では、歴史的仮名遣いにおける「を」の多くが「お」に置き換えられています。
例えば、次のような変化です。
- をんな → おんな
- をとこ → おとこ
- かをり → かおり
- をかしい → おかしい
一方、助詞の「を」は、文章の構造を分かりやすくする表記慣習として残りました。
同じような例として、助詞の「は」と「へ」があります。
- 「は」:助詞として使う場合は「わ」と発音する
- 「へ」:助詞として使う場合は「え」と発音する
- 「を」:助詞として使う場合は「お」と発音する
これらは、発音と文字が必ずしも一致しない日本語の特徴をよく表しています。
文化庁の「現代仮名遣い」は、こうした慣習を含めて現代の文章表記を整理したものです。なお、表記の基準を示すものであり、地域ごとの特殊な発音まで一律に規定するものではありません。
【音韻史】「を」は昔「うぉ」だった?奈良時代から江戸時代までの変化
「を」を「うぉ」と読む人がいる背景には、日本語の歴史が深く関係しています。
実は、古い日本語では「お」と「を」は異なる音を表していました。現在では同じ音になっていますが、かつては別々の発音として扱われていたのです。
奈良時代以前は「お」と「を」の発音が違った古代日本語では、ア行の「お」とワ行の「を」は別の音を表していたと考えられています。
- 「お」:母音の[o]
- 「を」:半母音[w]と母音[o]を組み合わせた[wo]
現在の感覚に置き換えれば、「お」と「うぉ」に近い違いです。
この時代には、文字の違いが実際の発音の違いにも対応していました。そのため、当時の人にとって「お」と「を」を区別することには音声上の意味があったのです。
平安時代に「お」と「を」の音が接近仮名が成立した平安時代には、すでに「お」と「を」の表記が混同される例が現れています。
同じ単語が「お」で書かれたり「を」で書かれたりするなど、両者の発音上の区別が失われていく過程が見られます。
愛媛大学の佐藤栄作名誉教授は、2024年のまいどなニュースの取材で、両者が同じ音になった段階では[wo]だったという見方が有力であると説明しています。
つまり、現代とは逆に、かつては「お」の側が「を」に近い発音へ合流していたと考えられるのです。
江戸時代後半に「お」の発音へ変化その後、発音は再び変化します。
江戸時代の後半には、[wo]から[o]への変化が進み、現在のように「お」と「を」が同じ発音になる状態が定着していきました。
愛媛大学の佐藤名誉教授が取材で説明した音韻史の流れを整理すると、次のようになります。
奈良時代以前
「お」は[o]、「を」は[wo]という異なる音だった。
平安時代
両者の表記や発音が混同され、同じ音へ合流していった。
中世から近世
「お」と「を」が同じ音として扱われる状態が続いた。
江戸時代後半
[wo]から[o]への変化が進んだ。
現代
標準的な日本語では、両方とも[o]と発音する。
なお、音韻変化は全国で同時に起こるわけではありません。地域によって変化の進み方に差が生じることがあり、これが現代にも残る発音の違いを考える手掛かりになります。
【地域差・方言】「を」を「うぉ」と発音するのは愛媛・佐賀だけ?
「を」を「うぉ」と発音する人は、特定の地域だけに限られません。
愛媛県や佐賀県などでは、学校教育や家庭で「を」を「ウォ」と読む習慣が見られます。ほかにも、長崎県、静岡県、愛知県、長野県などで同様の発音をする人がいることが報告されています。
一方、東京や香川などでは「お」と同じ音として認識する人もいます。地域差は単純に東日本と西日本で分けられるものではありません。
愛媛県民の「を=ウォ」はなぜ有名になった?2025年12月19日、あいテレビのニュースサイト「TBS NEWS DIG」は、愛媛県民が「を」を「WO」と発音する習慣を取り上げました。
記事では、松山市内で愛媛出身者に読み方を尋ねたところ、取材に応じた人たちが「WO」と回答。小学生やその保護者にも同様の認識が見られました。
対照的に、東京出身者や広島・大分出身の学生からは「O」という回答が紹介されています。
この違いについて、同記事は、学校教育の現場などで「お」と「を」を区別するために「ウォ」と発音する習慣が根付いている可能性を取り上げています。
また、2024年10月17日のまいどなニュースでは、佐賀県で暮らす北海道出身者が、子どもから「を」を「うぉ」と教わったことに驚いたエピソードが紹介されました。
この取材でも佐藤栄作名誉教授が、地域による音韻変化の時期の違いと、学校での教え方の影響という2つの可能性を説明しています。
地域によって発音が違う理由を比較「を」の発音をめぐる違いは、単純な方言の問題だけではありません。歴史的な音の変化、学校での学習、家庭での習慣が複合的に関係しています。
※地域の特徴は報道や専門家への取材で紹介された傾向であり、各都道府県の全住民が同じ発音をするという意味ではありません。
「を」の呼び名にも地域差がある興味深いのは、「を」をどう発音するかだけでなく、文字そのものをどう呼ぶかにも地域差があることです。
佐藤名誉教授の説明によると、「を」を「お」と区別する必要がある地域では、文字を識別するための呼び名が使われる場合があります。
例えば、次のような呼び方です。
- くっつきの「お」
- 下の「お」
- 重たい「お」
- かぎの「お」
これらは、文法上の助詞として使われる「を」を、通常の「お」と区別して覚えるための呼称です。
反対に、「を」を「うぉ」と発音すれば、音声上でも「お」と区別できます。そのため、文字の呼び名を特別に工夫する必要がない場合もあります。
ここから見えてくるのは、発音の違いが単なる地域のアクセントだけではなく、文字をどう学習してきたかにも関係しているということです。
【ローマ字の謎】「を」はWOと書くのに、なぜ「お」と読む?
「を」を「うぉ」と発音する人がいる大きな理由の一つとして、ローマ字表記やパソコンの入力方法が挙げられます。
「を」をローマ字で表すと「wo」と書かれることがあり、学校の五十音表でも「わ・を・ん」という並びで覚えます。そのため、「wo」と書くのだから「ウォ」と発音するはずだと考える人がいるのです。
しかし、ローマ字のつづりと実際の発音は必ずしも一致しません。
2025年12月22日にローマ字の国の基準が改定2026年に「を」のローマ字表記を考えるうえで、見逃せない変更があります。
文化庁によると、2025年12月22日、約70年間使われてきた従来の「ローマ字のつづり方」が廃止され、新しい内閣告示第4号が施行されました。
新しい基準では、現代の日本語をローマ字で書き表す際の基本的なつづり方が整理されています。
注目すべきなのは、ワ行の「ヲ」に対応するつづりが「o」となっていることです。加えて、文章中の助詞「を」は「o」と書くことが示されています。
つまり、2026年現在の新しい公的なローマ字表記では、助詞の「を」は「o」と表すのが基本です。
従来の「wo」という表記も、過去の方式や五十音の規則性を示す表記として理解できますが、現在の標準的な発音をそのまま示すものではありません。
「を」のローマ字表記はどう変わった?| 項目 | 従来の表記 | 2026年の新しい基準 |
|---|---|---|
| 助詞「を」 | wo(訓令式) | o |
| 仮名「ヲ」 | wo(日本式) | o |
| 発音 | 地域差あり | 共通語では[o] |
| キーボード入力 | wo | 入力操作としてのwoは利用可能 |
特に重要なのは、ローマ字の正式な表記と、パソコンやスマートフォンで文字を入力するための操作は別物だという点です。
例えば、キーボードで「wo」と入力すると「を」に変換できます。しかし、これは「を」という文字を入力するための仕組みであって、実際に「うぉ」と発音する根拠にはなりません。
佐藤名誉教授も、まいどなニュースの取材で、ローマ字入力の「wo」が発音についての認識に影響する可能性を指摘しています。一方、本人は「wo」と入力していても、発音は[o]のままだと説明しています。
文字入力のルールと音声のルールを分けて考えることが、誤解を解くポイントです。
「を」の発音をIPAで表すと?発音をより専門的に表す場合は、国際音声記号(IPA)が役立ちます。
- 標準的な「を」:/o/(音声としては[o]や[o̞]など)
- 「うぉ」に近い発音:[wo]
- 「お」:/o/
IPAでは、[w]は唇を丸めながら発音する接近音を表し、[o]は母音を表します。
したがって、[wo]と[o]は音声上の構造が異なります。[wo]には[w]という音が含まれていますが、標準的な「を」の発音には、その音がありません。
ただし、[o]と[o̞]のような細かな表記の違いは、実際の発音をどの程度詳しく記述するかによって変わります。日本語の母音の実現には個人差や音声環境による違いもあります。
発音記号で整理すると、「を」と「お」の標準的な発音が同じであり、「うぉ」との違いは[w]の有無にあることが分かります。
【プロの結論】「お」と「うぉ」はどちらを使うべき?場面別の判断基準
ここまでの歴史、文化庁の表記基準、地域差を踏まえると、「を」の発音は場面に応じて考える必要があります。
一律に「うぉは間違い」と切り捨てるのではなく、標準的な日本語の発音を求められているのか、地域の言語習慣を大切にする場面なのかを区別することが大切です。
場面別のおすすめの発音| 使用場面 | おすすめの発音 | 理由 |
|---|---|---|
| 学校の国語 | お | 共通語の発音を基準にする |
| ニュース・アナウンス | お | 標準的な発音に合わせる |
| ナレーション・朗読 | お | 自然な共通語の音声表現 |
| 日常会話 | 地域の習慣に応じる | 地域差・個人差がある |
| 方言・地域文化の表現 | 地域の発音 | その土地の言語習慣を尊重する |
| 歴史的な日本語の再現 | 時代設定に応じる | 当時の音韻体系を考慮する |
1. 助詞の「を」は「お」と同じ音にする
まずは標準的な発音を身につけることが基本です。「本を読む」なら「ほんおよむ」と、余分な[w]を入れずに発音します。
2. 文字の名前と実際の発音を混同しない
五十音表で「わをん」と覚えたり、キーボードで「wo」と入力したりしても、それが現代の標準的な発音を意味するわけではありません。
3. 地域の発音を否定しない
「を」を「うぉ」と読む人には、家庭や学校で身につけた言語習慣がある場合があります。発音の歴史や地域差を知れば、単純な正誤だけでは説明できないことが分かります。
特に、声優やアナウンサー、ナレーターを目指す人は、共通語の発音を基準として身につけたうえで、役柄や地域性に応じて発音を使い分けられると表現の幅が広がります。
一方、地域の言葉を記録したり、方言を題材にした作品を制作したりする場合は、地域固有の発音を残すことにも意味があります。
【よくある質問】をの発音に関する疑問(FAQ)
Q1:「を」の発音は「お」と「うぉ」のどちらが正しいですか?
A1:現代の標準的な日本語では「お」と同じ[o]が基本です。ただし、地域や教育習慣によって[wo]に近い発音をする人もいます。
Q2:「を」を「うぉ」と発音するのは間違いですか?
A2:標準的な共通語の発音とは異なりますが、地域の発音習慣や学習経験に基づく場合があります。すべてを単純な誤りとして扱うことはできません。
Q3:「を」を「お」と読むのはいつからですか?
A3:古代には「お」と「を」は異なる音でした。平安時代には両者の発音が合流し、その後、江戸時代後半に[o]へ変化して現代の発音につながったと考えられています。
Q4:NHKでは「を」をどう発音していますか?
A4:NHK放送文化研究所のQ&Aで紹介されている発音説明では、助詞の「を」は[オ]です。標準的な放送での読み方を参考にするなら「お」と同じ発音が基本です。
Q5:「を」のローマ字表記はWOですか、Oですか?
A5:従来の日本式・訓令式では「wo」と表されていましたが、2025年12月22日の新しい内閣告示では「o」が基本です。助詞の「を」も「o」と表記します。
Q6:パソコンで「wo」と入力するのは間違いですか?
A6:間違いではありません。ローマ字入力は文字を入力するための操作であり、実際の発音とは別です。「wo」と入力して「を」を表示しても、発音は「お」と同じで構いません。
Q7:「を」の発音をIPAで表すとどうなりますか?
A7:標準的な発音は音韻表記で /o/ と表せます。「うぉ」に近い発音は [wo] です。後者には半母音[w]が含まれます。
Q8:「お」と「を」は文章でどう使い分けますか?
A8:通常の単語では「お」を使い、助詞の場合は「を」を使います。「お母さん」「お金」「お菓子」は「お」、「本を読む」「水を飲む」は「を」です。
「を」の発音をめぐる疑問には、日本語の長い歴史と地域ごとの言語習慣が関係しています。
現代の標準的な日本語では、助詞の「を」は「お」と同じ[o]で発音します。一方、「うぉ」と読む地域や家庭が存在するのも事実であり、その背景には歴史的な音韻変化や学校教育の影響があります。
また、「を」と「お」を書き分ける理由は、発音が異なるからではありません。文化庁の「現代仮名遣い」が示すように、助詞としての表記慣習が現在まで受け継がれているためです。
加えて、2025年12月22日のローマ字表記の改定によって、2026年は「wo」と「o」の違いを改めて理解するうえでも節目となっています。
最後に、覚えておきたい要点は次の3つです。
- 発音:標準的には「お」と同じ[o]。
- 表記:助詞として使う場合は「を」と書く。
- ローマ字:2026年の新しい公的基準では「o」が基本。キーボード入力の「wo」とは区別する。
たった1文字の「を」にも、日本語の歴史や地域文化、教育の影響が詰まっています。「お」と「うぉ」の違いを知ることは、日本語の音と文字がどのように変化し、受け継がれてきたのかを理解するきっかけにもなるでしょう。