「猟友会トラブル」が注目される背景には、クマの駆除をめぐるハンターと自治体の対立、出動要請に応じないという異例の事態、そして猟銃所持許可を取り消されたハンターの裁判があります。単なる人間関係の問題ではなく、住民の安全を守るために活動するハンターが、発砲に伴う法的責任や事故のリスクをどこまで負うべきなのかという、行政と地域社会の構造的な課題が浮かび上がっています。
2025年には北海道積丹町で猟友会が約1か月半にわたって出動を休止する問題が発生しました。その後、謝罪と対応マニュアルの策定によって活動が再開。加えて、2026年3月27日には砂川市のヒグマ駆除をめぐる裁判で最高裁がハンター側の逆転勝訴を言い渡しました。2026年4月には環境省が緊急銃猟ガイドラインを改訂しています。これらの動きを踏まえ、トラブルの真相、現場の実態、今後の課題を整理します。
【原因を解説】猟友会トラブルが起きる理由と本当の実態

猟友会トラブルの本質は、ハンターがクマを駆除したくないという単純な話ではありません。自治体から駆除を依頼される一方で、現場で発生する事故や法的責任については、ハンター個人が大きなリスクを抱える場合があることが問題の根底にあります。
理由1:駆除中の事故と猟銃所持許可への不安猟銃を使ったクマの駆除には、銃弾が人や建物に到達する危険性が伴います。特に住宅地や市街地では、周囲の住民、警察官、自治体職員、ほかのハンターなど、多くの人が現場に関係します。
万が一事故が起きれば、民事上の損害賠償や刑事上の責任だけでなく、銃刀法に基づく行政処分によって猟銃を所持できなくなる可能性もあります。
ハンターにとって猟銃は、長年の経験と訓練を通じて維持してきた活動の基盤です。所持許可を失えば、クマの駆除だけでなく、狩猟活動そのものを続けられなくなる場合があります。
自治体からの要請で住民を守るために出動したにもかかわらず、結果次第では自分の生活や活動基盤を失うかもしれない。この不安が、出動を慎重に判断する大きな理由になっています。
理由2:自治体と猟友会の責任分担が曖昧クマの出没が確認された場合、自治体は住民の安全を確保するため、地元の猟友会などに協力を求めることがあります。
しかし、実際の現場では、次のような問題が発生することがあります。
- 誰が駆除の実施を正式に判断するのか明確でない。
- 警察と自治体の連携が十分でない。
- 住民や土地所有者など第三者の立ち入りを制限できていない。
- 事故が発生した場合の責任や補償が整理されていない。
- 駆除後の処理や現場管理について担当者が明確でない。
ハンターは銃器の扱いや野生動物の習性について専門的な知識を持っていますが、現場全体の交通規制や住民避難、第三者への対応まで単独で担うことは本来の役割とは異なります。
行政が十分な安全管理を行わず、現場対応をハンターに依存すれば、信頼関係が崩れる原因になります。
理由3:報酬と負担のバランスが取れていない有害鳥獣駆除は、一般的な狩猟とは異なり、住民の生命や財産を守る公共性の高い活動です。
一方、出動には移動時間、装備の維持、射撃訓練、現場での待機、捕獲後の対応など、さまざまな負担が伴います。
報酬や出動費用は自治体の条例や委託契約などによって異なり、全国一律の金額ではありません。自治体によっては、出動に対する報酬と実際に必要となる経費のバランスが課題になります。
特に、危険性の高いクマの駆除では、金銭的な補償だけでなく、事故に対する保険、法的な責任の整理、自治体による安全管理が重要です。
つまり、猟友会トラブルは報酬だけで説明できる問題ではなく、負担と責任に見合った制度が整っているかどうかが問われています。
【積丹町の真相】猟友会が出動拒否した経緯と活動再開まで
2025年に発生した北海道積丹町の問題は、猟友会トラブルの実態を象徴する出来事です。議会副議長とハンターの現場での口論が発端となり、地元猟友会が活動を休止。自治体のクマ対策にも影響が及びました。
2025年9月27日:箱わなに捕獲されたクマをめぐって口論トラブルが発生したのは、2025年9月27日です。
北海道積丹町で、町議会副議長の海田一時氏が所有する土地に設置されていた箱わなに、体長約2メートル、体重284キロの雄のクマが捕獲されました。
現場には北海道猟友会のハンター9人と町職員3人が駆けつけました。
駆除作業を進めるにあたり、ハンター側は安全確保のため、近くにいた土地所有者の海田副議長に現場から離れるよう求めました。
ところが、この注意をめぐって口論が発生。北海道放送や北海道テレビなどの報道によると、副議長から「お前、俺のこと知らねえのか?」といった発言があったとされています。
ハンター側が問題視したのは、単なる言葉のやり取りではありません。クマの駆除という危険を伴う作業で、安全確保のための指示が受け入れられなかったことです。
現場に第三者がいる状態では、ハンターが安全を確保できないとして、地元猟友会は町に活動休止を申し入れました。
約1か月半にわたる出動拒否と町民への影響活動休止後、地元猟友会は積丹町からの出動要請に応じない状態となりました。
この間、クマへの対応は町職員や警察官による見回りなどで行われました。駆除を担っていた地元ハンターが出動できないことは、地域の安全対策にとって大きな問題です。
2025年11月7日には、副議長が町議会で町民に謝罪しました。
さらに11月11日には、猟友会の支部長に謝罪文書を手渡し、直接謝罪したと報じられています。
11月12日:ヒグマ捕獲対応マニュアルを策定謝罪を受けた翌日の11月12日、町長を含む町職員と猟友会が協議を実施しました。
その結果、クマの捕獲現場における安全確保やトラブル防止を目的とした「ヒグマ捕獲対応マニュアル」が作成されました。
主な改善点は、駆除現場に第三者を立ち入らせないことや、第三者が現場にいる場合には町職員が立ち入りを制限するよう指導することです。
つまり、これまでハンター個人の判断や注意に依存していた安全管理を、自治体側のルールとして整理した点に意味があります。
2025年11月13日、積丹町の猟友会は活動を再開しました。
北海道放送の2025年11月14日の報道でも、町と猟友会がマニュアルを作成し、出動を再開した経緯が伝えられています。
この事例から分かるのは、出動拒否の解決には一方的な説得ではなく、謝罪と具体的な安全管理ルールの整備が必要だったということです。
【関係者・時系列一覧】北海道猟友会と自治体の対立から2026年の制度改革まで
猟友会トラブルを理解するには、個別の事件だけでなく、猟友会、自治体、警察、北海道公安委員会、国の関係を整理する必要があります。
特に重要なのが、2024年から2026年にかけて続いた北海道猟友会の出動判断をめぐる動きと、砂川市の訴訟、緊急銃猟制度の開始です。
| 時期 | 関係主体 | 主な出来事 | 意味・影響 |
|---|---|---|---|
| 2018年8月 | 砂川市・池上治男氏 | 市の要請でヒグマを駆除 | 後の猟銃所持許可取消訴訟の発端 |
| 2019年 | 北海道公安委員会 | 池上氏の猟銃所持許可を取消し | 行政処分をめぐる争いに発展 |
| 2024年10月 | 札幌高等裁判所 | 一審判決を取り消し、ハンター側が敗訴 | 北海道内のハンターに不安が広がる |
| 2024年11月 | 北海道猟友会 | 自治体・警察との連携や安全確保を重視する方針を整理 | 出動判断の条件が焦点になる |
| 2025年1月 | 北海道猟友会 | 安全確保と行政・警察との連携を出動条件として通知する考えを示す | 各支部が出動を慎重に判断 |
| 2025年9月1日 | 国・自治体 | 緊急銃猟制度の運用開始 | 市街地でのクマ・イノシシへの対応を制度化 |
| 2025年9月27日 | 積丹町・地元猟友会 | 議会副議長とのトラブルが発生 | 猟友会が活動休止 |
| 2025年11月13日 | 積丹町・猟友会 | 謝罪と対応マニュアル策定を経て活動再開 | 安全管理のルール化が進む |
| 2026年3月27日 | 最高裁判所 | 砂川市の猟銃所持許可取消処分を違法と判断 | ハンター側の逆転勝訴が確定 |
| 2026年4月6日 | 環境省 | 緊急銃猟ガイドラインを改訂 | 実際の運用事例を反映 |
ここで注意したいのが、北海道猟友会の出動拒否方針に関する報道です。
2024年11月14日、北海道新聞は、北海道猟友会が自治体からのヒグマ駆除要請に原則応じない方向で調整していると報じました。
しかし、北海道猟友会は同日、従来から行っている自治体の駆除要請には誠実に対応しており、現時点で方針に変更はないとするコメントを発表しています。
その後、2025年1月24日には、市街地に出没したヒグマの駆除について、警察や自治体との連携体制が確立されていることを出動の条件とする考え方をまとめました。
具体的には、ハンターの安全確保、警察や自治体との連携、日頃からの訓練などを重視する内容です。全71支部への通知も伝えられました。
したがって、北海道猟友会が全国的に、あるいは道内一律でクマ駆除を全面拒否したという理解は正確ではありません。
実態は、自治体や警察との協力体制が不十分な場合に、各支部が出動を慎重に判断するというものです。
【2026年3月27日最高裁判決】砂川市ヒグマ駆除と猟銃所持許可取消しの真相
2026年の猟友会問題を考えるうえで、最も重要な出来事が、北海道砂川市のヒグマ駆除をめぐる裁判です。
この裁判は、自治体の要請を受けて駆除に参加したハンターが、発砲を理由に猟銃所持許可を取り消されたことの妥当性を争ったものです。
2018年:砂川市の要請でヒグマを駆除原告は北海道猟友会砂川支部長の池上治男氏です。
2018年8月21日、鳥獣被害対策実施隊員でもあった池上氏は、砂川市からの要請を受けてヒグマの駆除に出動しました。
当初、池上氏はクマを逃がすことを提案しました。しかし、市職員から住民の強い駆除要望などを理由に対応を依頼され、最終的にライフル銃を発射して駆除しました。
発砲前には、市職員や警察官による周辺住民への避難誘導が行われていました。
一方、発射された弾丸はクマを貫通し、別の関係者が持っていた猟銃の銃床に当たって貫通しました。人的な死傷結果は確認されていません。
2019年:北海道公安委員会が猟銃所持許可を取消し北海道公安委員会は、発砲が銃刀法や鳥獣保護管理法の規定に違反するとして、池上氏の猟銃所持許可を取り消しました。
問題になったのは、弾丸が到達するおそれのある建物に向かって銃猟をしてはならないという規制です。
自治体からの駆除要請を受けて活動したハンターに対し、猟銃所持許可の取消処分が行われたことで、現場のハンターからも不安の声が上がるようになりました。
2021年・2024年:札幌地裁と札幌高裁で判断が分かれる池上氏は処分の取消しを求めて訴訟を起こしました。
2021年の札幌地方裁判所は、北海道公安委員会の処分について裁量権の逸脱があるとして、池上氏側の請求を認めました。
ところが、2024年10月18日の札幌高等裁判所は一審判決を取り消し、処分を適法と判断。池上氏側は再び不服を申し立て、最高裁で争うことになりました。
2026年3月27日:最高裁がハンター側の逆転勝訴を確定2026年3月27日、最高裁判所第三小法廷は北海道公安委員会による猟銃所持許可取消処分を違法と判断しました。
二審の札幌高裁判決を破棄し、北海道側の控訴を棄却。池上氏側の勝訴が確定しました。
判決で重視された事情は、主に次のとおりです。
- 市の鳥獣被害対策実施隊員に対する出動要請をきっかけとした発砲だったこと。
- ハンターは当初、ヒグマを逃がすことを提案していたこと。
- 市職員や警察官が周辺住民の避難誘導を実施していたこと。
- 発砲地点からヒグマまでの距離が約18メートルだったこと。
- 弾丸が別の関係者の猟銃の銃床に当たったものの、具体的な人的死傷結果が生じていなかったこと。
最高裁は、こうした事情を総合的に考慮すると、猟銃所持許可を取り消す処分は重きに失し、裁量権の範囲を逸脱・濫用した違法なものだと判断しました。
また、行政処分が有害鳥獣の捕獲活動をためらわせ、周辺住民の利益を守る活動に萎縮的な影響を与える可能性も問題視されました。
最高裁判決で何が変わったのか今回の判決の大きな意味は、自治体の要請による公益性の高い駆除活動について、発砲に至る具体的な経緯や現場の状況を考慮せず、猟銃所持許可を取り消すことは許されない場合があると示した点です。
ただし、ここで誤解してはいけないことがあります。
最高裁は、危険な発砲がすべて合法になると判断したわけではありません。
また、自治体から依頼されれば、どのような状況でもハンターの責任が免除されるという判決でもありません。
あくまで今回の具体的な事情を踏まえ、北海道公安委員会の猟銃所持許可取消処分が違法だったと判断したものです。
今後は、駆除を依頼する自治体側にも、出動の経緯、住民避難、安全管理、ハンターとの役割分担などを適切に整理することが大切です。
【自治体との関係】鳥獣被害対策実施隊と2025年9月開始の緊急銃猟制度
猟友会と自治体の関係を理解するには、鳥獣被害対策実施隊という制度を知る必要があります。
また、2025年9月に始まった緊急銃猟制度は、市街地に出没するクマへの対応を変える重要な仕組みです。
鳥獣被害対策実施隊とは何か鳥獣被害対策実施隊は、「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律」に基づき、市町村が設置する組織です。
自治体が中心となって、農作物や住民の生活に被害を及ぼす野生鳥獣への対策を実施します。
主な活動は次のとおりです。
- 有害鳥獣の捕獲活動。
- 農地や集落への侵入防止柵の設置。
- 野生鳥獣の追い払い。
- 緩衝帯の整備。
- 農業者への被害対策の指導や助言。
- 野生鳥獣の生息状況調査。
隊員は、市町村職員から指名される人と、対策に積極的に取り組むことが期待される民間人から任命される人で構成されます。
民間から任命された隊員は、非常勤の地方公務員として公務に従事します。報酬や災害補償は各自治体の条例で定められています。
農林水産省が2025年12月に公表した調査結果によると、2025年4月末時点で、鳥獣被害対策実施隊は全国1,266市町村に設置され、隊員数は43,160人となっています。
ただし、この人数には捕獲以外の業務を担当する隊員も含まれます。43,160人全員が銃猟やクマの駆除に従事できるハンターという意味ではありません。
猟友会と鳥獣被害対策実施隊は同じ組織ではないここは混同されやすいポイントです。
猟友会は、狩猟者などで構成される団体です。一方、鳥獣被害対策実施隊は、法律に基づいて市町村が設置する組織です。
猟友会の会員が実施隊員として任命されるケースはありますが、両者は制度上、同一の組織ではありません。
また、実施隊員として活動する場合には、公務としての位置付けや公務災害補償などの制度上のメリットがあります。
緊急銃猟制度は2025年9月1日に運用開始2025年9月1日には、改正鳥獣保護管理法に基づく緊急銃猟制度が始まりました。
この制度は、クマやイノシシが人の日常生活圏に侵入した場合などに、一定の条件を満たせば、市町村長の判断で銃器を使った捕獲を実施できる仕組みです。
従来、市街地での銃猟には厳しい制約がありましたが、人身被害を防ぐため、自治体が主体となって緊急対応できる制度が整備されました。
緊急銃猟を実施するためには、次の4つの条件を満たす必要があります。
- クマやイノシシが人の日常生活圏に侵入している、または侵入するおそれが大きいこと。
- 人命や身体への危害を防ぐため、緊急に対応する必要があること。
- 銃猟以外の方法では、的確かつ迅速な捕獲が難しいこと。
- 住民や第三者に銃猟による危害を及ぼすおそれがないこと。
制度の主体は市町村であり、市町村長は職員に実施を指示するほか、条件を満たす外部の捕獲者に委託することもできます。
ハンターの責任はどこまで軽減されるのか環境省が2025年11月に公表した「緊急銃猟への協力のお願いについて」では、制度上の責任分担について説明しています。
環境省の資料では、緊急銃猟は市町村が行うものであり、最終的な責任は市町村が負う一方、実際の銃猟行為に関する専門的な判断は捕獲者に委ねられると整理されています。
民事上の責任についても、同資料では物損事故の補償や人身事故に関する自治体側の賠償について説明しています。
ただし、ハンターの注意義務がなくなるわけではありません。制度の条件を満たしていることや、捕獲者自身が安全確認などの注意義務を果たしていることが前提です。
また、環境省は、自治体から協力を求められたハンターに応諾義務はないことも明確にしています。
「市町村から協力を求められた場合、応諾義務はないため、ハンターの皆様は断ることができます。」
出典:環境省「緊急銃猟への協力のお願いについて」(2025年11月)
これは、ハンターの出動拒否が単純な職務放棄ではないことを理解するうえで要点です。
2026年4月には緊急銃猟ガイドラインも改訂制度開始後、環境省は実際の運用状況を踏まえ、2026年4月6日に緊急銃猟ガイドラインを改訂しました。
環境省の発表によると、2025年9月の制度開始から2026年4月の改訂時点までに、緊急銃猟は50件以上実施されていました。
改訂では実際の7事例を追加し、各工程に関する16件の事例情報や運用上のポイントも盛り込まれています。
2026年現在、緊急銃猟制度は単に法律ができた段階から、実際の現場で得られた経験を蓄積し、運用方法を改善する段階に進んでいます。
【現場の実態】ハンターの高齢化・担い手不足・報酬と安全管理の課題
猟友会トラブルが繰り返される背景には、個別の自治体との対立だけでは解決できない、人材と制度の問題があります。
ハンターの高齢化は現在も大きな課題環境省の2025年版環境白書によると、狩猟者は1970年度の約53万人から2012年度には約18万人まで減少しました。
その後、2016年度以降は20万人を超える水準に戻り、狩猟者数全体は微増傾向にあります。
しかし、人数が回復しているからといって、担い手不足が解消したわけではありません。
特に問題となっているのが年齢構成です。環境省によると、2008年度以降、60歳以上の狩猟者が全体の6割を超える状況が続いています。
若い世代の狩猟免許所持者は増加傾向にあるものの、銃猟の経験や大型獣の捕獲に必要な技能を身につけるには、一定の時間と訓練が必要です。
クマの駆除を担える経験豊富なハンターが地域から減少すれば、自治体は緊急時の対応に苦労することになります。
有害鳥獣駆除の報酬は全国一律ではない有害鳥獣駆除の報酬については、全国で統一された一律の金額が設定されているわけではありません。
自治体によって、出動報酬、捕獲報奨金、活動費、交通費、処理費用などの取り扱いが異なります。
鳥獣被害対策実施隊の民間隊員は非常勤の地方公務員として活動し、自治体条例に基づく報酬と災害補償の対象になります。
また、主として捕獲に従事する実施隊員には、狩猟税の非課税措置などの優遇制度もあります。
しかし、制度上の優遇措置があることと、現場の負担が十分に補償されていることは別問題です。
特にクマの駆除では、通常の捕獲活動とは異なる危険性があるため、次のような項目を自治体とハンターが事前に確認する必要があります。
- 出動した場合の報酬と待機費用。
- 交通費や装備維持に必要な経費。
- 事故や負傷が発生した場合の保険・補償。
- 物損や人身事故に関する責任分担。
- 捕獲後の運搬や処理に必要な費用。
積丹町の事例が示したように、駆除現場の安全管理をハンター個人の注意だけに任せることには限界があります。
自治体には、住民や土地所有者への事前説明、現場への第三者の立ち入り制限、警察との連携、必要な避難措置など、現場全体を管理する役割があります。
一方、ハンターには、専門家として銃猟を行う際の注意義務があります。
この二つの役割が明確に分担されていなければ、事故が発生した際に責任の所在をめぐって対立する可能性があります。
緊急銃猟制度や環境省のガイドラインは、この問題を改善するための重要な仕組みですが、制度を作っただけで現場の課題がすべて解消するわけではありません。
【プロの結論】猟友会トラブルを防ぐために必要な5つの判断基準これまでの事件や制度改革を踏まえると、自治体がハンターに駆除を依頼する際には、次の5点を明確にする必要があります。
1. 出動要請の根拠と責任者が明確か。
誰が駆除を判断し、誰が現場全体を統括するのかを事前に決める必要があります。
2. 警察と自治体の連携が確保されているか。
ハンターだけに現場対応を任せず、行政側が住民への対応や安全管理を担うことが重要です。
3. 第三者の安全を確保できるか。
土地所有者や見物人などが駆除作業に影響しないよう、自治体が立ち入り管理を徹底する必要があります。
4. 事故に対する補償と法的責任が整理されているか。
猟銃所持許可への影響、保険、損害賠償、活動中の補償について、依頼前に関係者間で確認しておくことが欠かせません。
5. 報酬と活動負担が釣り合っているか。
単発の捕獲報奨金だけでなく、待機、訓練、移動、装備維持なども含めて活動を支える仕組みが必要です。
これらが整って初めて、自治体と猟友会は長期的に協力できる関係を築けます。
【よくある誤解を検証】猟友会トラブルに関するよくある質問(FAQ)
Q1:猟友会は自治体からのクマ駆除要請を拒否できる?
A1:はい。少なくとも緊急銃猟制度については、環境省がハンターに応諾義務はないと明示しています。安全管理や責任分担に不安がある場合など、具体的な状況を踏まえて出動を判断できます。
Q2:積丹町の猟友会は現在も出動を拒否している?
A2:2025年11月13日に活動を再開したと報じられています。再開のきっかけは、副議長による謝罪と、町と猟友会が策定したヒグマ捕獲対応マニュアルです。
Q3:2026年3月27日の最高裁判決でハンターの責任はなくなった?
A3:いいえ。最高裁が違法と判断したのは、砂川市の事件における猟銃所持許可取消処分です。危険な発砲がすべて認められたり、ハンターの法的責任が全面的に免除されたりするわけではありません。
Q4:北海道猟友会はクマ駆除を全面拒否する方針なの?
A4:全面拒否と理解するのは正確ではありません。2024年11月には報道と猟友会側の公式コメントに食い違いがあり、その後は安全確保や警察・自治体との連携を重視する考え方が示されています。各支部や現場の状況によって出動判断は異なります。
Q5:緊急銃猟制度があれば市街地のクマを自由に駆除できる?
A5:いいえ。2025年9月1日に始まった制度には4つの実施条件があり、住民や第三者への危害を防ぐことなどが必要です。市町村長の判断と安全確保が前提になります。
Q6:鳥獣被害対策実施隊と猟友会は同じ組織?
A6:異なる組織です。猟友会は狩猟者などで構成される団体で、鳥獣被害対策実施隊は市町村が法律に基づいて設置する組織です。猟友会の会員が実施隊員を兼ねることはあります。
猟友会トラブルの真相は、クマの駆除をめぐる個人同士の対立だけではありません。ハンターの安全、猟銃所持許可に関する法的リスク、自治体の責任、報酬、担い手不足など、複数の課題が重なって発生しています。
2025年の積丹町では、副議長の謝罪とヒグマ捕獲対応マニュアルの策定によって活動が再開しました。この出来事は、現場の安全管理を個人の善意や経験だけに依存することの限界を示しています。
また、2026年3月27日の最高裁判決は、自治体の要請を受けた公益性の高い駆除活動について、行政処分の妥当性を具体的な事情に基づいて判断する必要性を示しました。
加えて、2025年9月の緊急銃猟制度開始と2026年4月のガイドライン改訂によって、自治体が主体となって対応する仕組みも整備されつつあります。
今後の最大の課題は、ハンターに駆除を依頼するだけでなく、自治体が責任を持って安全な活動環境を整えられるかどうかです。
住民の生命を守ることと、ハンターの安全や権利を守ることは対立するものではありません。行政、警察、猟友会がそれぞれの役割を果たし、適切な報酬と補償、明確な責任分担、実効性のある安全管理を整えることが、猟友会トラブルを繰り返さないための鍵となります。
2026年以降は、緊急銃猟制度の運用実績や最高裁判決を受けた自治体の対応、そして次世代のハンター育成が重要な焦点になるでしょう。
主な根拠資料(編集確認用)
- 最高裁判所第三小法廷・2026年3月27日判決。
- 北海道放送・テレビ朝日による積丹町の活動休止と再開の報道。
- 環境省「緊急銃猟制度」「緊急銃猟ガイドライン」および2026年4月6日改訂発表。
- 農林水産省「鳥獣被害対策実施隊の設置状況に関する調査結果」。
- 環境省「令和7年版環境白書」。