高齢者の肺炎では、どの段階で医療機関へ連絡するかが、その後の治療に関わります。
特に、呼吸状態の悪化、意識障害、血圧低下は、単なる風邪や疲労として扱ってはいけない症状です。
日本呼吸器学会のA-DROPによる重症度評価日本呼吸器学会の「成人肺炎診療ガイドライン2024」では、市中肺炎の重症度を判断する指標としてA-DROPスコアが取り上げられています。
A-DROPは、以下の5項目から肺炎の重症度を評価する方法です。
- A(Age・年齢): 男性70歳以上、女性75歳以上
- D(Dehydration・脱水): 尿素窒素(BUN)21mg/dL以上、または脱水がある
- R(Respiration・呼吸): SpO₂ 90%以下、または動脈血酸素分圧60Torr以下
- O(Orientation・意識): 意識状態の変化がある
- P(Pressure・血圧): 収縮期血圧90mmHg以下
該当する項目数による分類は次のとおりです。
- 0項目:軽症
- 1~2項目:中等症
- 3項目:重症
- 4~5項目:超重症
敗血症性ショックがある場合は、1項目のみでも超重症に分類されます。
ただし、このスコアは医療者が診察や検査結果をもとに評価するものです。家族が自宅で点数を計算して、受診するかどうかを決めるためのものではありません。
また、ガイドラインではA-DROPだけで肺炎の進行を予測することは難しいとされ、血圧低下、意識障害、呼吸状態の変化なども重要視されています。
特に危険な重症化のサイン7つ次の症状が見られた場合は、緊急性を考えて対応してください。
1. 安静時にも呼吸が苦しい
2. 呼び掛けても反応が鈍い、意識がはっきりしない
3. 唇や顔色が青白い、紫色になっている
4. 急に立てなくなった、支えなしで歩けない
5. 急激にぐったりして動けなくなった
6. 血圧が著しく低下している
7. 呼吸が弱い、または正常に呼吸していない
特に、意識障害と呼吸困難は見逃してはいけない症状です。
なお、急な意識障害や片側の手足の麻痺などは脳卒中でも起こります。肺炎だと決め付けず、救急対応を優先してください。
【受診の目安と119番】高齢者の肺炎で救急車を呼ぶべき状況

厚生労働省の「こんな時は迷わず119へ」では、高齢者について、急な息切れや呼吸困難、急なふらつき、立っていられない状態、意識障害などを救急車を呼ぶべき症状として案内しています。
すぐに119番を呼ぶべき症状次のような状態では、通常の外来受診を待たずに119番へ連絡してください。
- 呼吸困難が急に現れた
- 意識がない、呼び掛けても反応しない
- 急に会話が成立しなくなった
- 呼吸が弱い、正常に呼吸していない
- 顔色や唇の色が明らかに悪い
- 急に立ち上がれなくなった
- 急激な状態悪化が見られる
肺炎が原因かどうかを自宅で確定する必要はありません。救急車を呼ぶか迷うほどの異変があれば、119番の指令員に症状を伝え、指示に従ってください。
早めに医療機関へ相談したい症状一方、直ちに救急車を呼ぶほどではなくても、次の変化があれば、当日中の受診やかかりつけ医への相談を検討してください。
- 食欲が急に落ちた
- 咳や痰が数日続いている
- 微熱や倦怠感が続いている
- 普段より活動量が減った
- 食事中や食後に咳き込む
- 呼吸がいつもより速い
- 水分を十分に取れなくなった
- 何となく元気がなく、横になっている時間が増えた
特に、介護施設や自宅で生活する高齢者の場合、日常生活の変化を把握している家族や介護職員の観察が重要です。
受診を迷ったときに確認すること受診の判断では、体温だけでなく、次の5点を確認すると状況を伝えやすくなります。
- いつから症状が始まったか
- 食事と水分は普段どおり取れているか
- 呼吸の速さや息苦しさに変化があるか
- 呼び掛けへの反応や会話に変化があるか
- 尿量や歩行状態に変化があるか
SpO₂を測定できる場合は数値も記録します。ただし、測定値が正常に見えても肺炎や重症化を否定できません。
【急変時の対応】家族や介護者がすぐに取るべき行動
実際に高齢者が急変したときは、原因を特定しようとするよりも、緊急度を判断して必要な対応を始めることが先決です。
1.呼吸と意識の状態を確認する最初に、本人に声を掛け、反応があるかを確認します。
呼吸が苦しそうではないか、呼び掛けに反応するか、顔色が変わっていないかを観察してください。
反応がない、正常に呼吸していない場合は直ちに119番へ通報し、通信指令員の指示に従ってください。
2.呼吸困難がある場合は無理に動かさない本人が楽に呼吸できる姿勢を保ち、衣服などで胸や首が締め付けられていれば緩めます。
意識がはっきりしない場合や飲み込む力が低下している場合は、誤嚥の危険があるため、無理に食べ物や飲み物を与えないでください。
3.119番では症状を簡潔に伝える救急車を要請した際には、次の情報を伝えます。
- 救急車が必要であること
- 現在地と住所
- 本人の年齢
- 呼吸状態と意識状態
- いつから急変したか
- 持病や服用中の薬
- かかりつけ医療機関
厚生労働省の案内では、119番通報後、指令員が順番に必要事項を確認し、緊急性が高い場合には聞き取りの途中でも救急車が出動するとされています。
4.救急車が来るまでに準備するもの可能な範囲で次のものを準備します。
- マイナ保険証または資格確認書
- 診察券
- お薬手帳
- 現在服用している薬
- 持病やアレルギーの情報
- 最近の体温やSpO₂の記録
- 急変する前後の様子を記録したメモ
本人を一人にせず、状態の変化を観察してください。応急手当が必要な場合は、指令員の指示に従います。
【2026年最新の予防対策】高齢者の肺炎を防ぐためにできること
肺炎の予防では、感染症対策だけでなく、誤嚥を防ぐ生活習慣や栄養管理も欠かせません。
1.2026年4月から肺炎球菌ワクチンの定期接種が変更2026年の重要な変更として、厚生労働省は高齢者の肺炎球菌ワクチンの定期接種に使用するワクチンを変更しました。
2026年4月から、定期接種で使用するワクチンは23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)から20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20)に変更されています。
主な内容は次のとおりです。
- 定期接種の対象:65歳の人
- 60~64歳:一定の心臓・腎臓・呼吸器機能障害、またはHIVによる免疫機能障害がある人も対象
- 接種回数:1回
- 接種方法:筋肉内注射
- 実施主体:市町村
PCV20は肺炎球菌の100種類以上ある血清型のうち20種類を対象とします。
厚生労働省によると、この20種類は成人の侵襲性肺炎球菌感染症の原因の約5~6割を占めるという研究結果があります。
ただし、肺炎球菌ワクチンはすべての肺炎を防ぐものではありません。誤嚥性肺炎や、ほかの細菌・ウイルスによる肺炎を完全に防げるわけではない点に注意が必要です。
過去に肺炎になった人も、定期接種の対象となる場合があります。過去の接種歴を確認し、接種間隔や適応については医師や自治体に相談してください。
2.毎日の口腔ケアを徹底する口の中にはさまざまな細菌が存在しています。
高齢者では、口腔内の細菌を含んだ唾液が気道に入り、誤嚥性肺炎の原因となることがあります。
具体的には次のようなケアが大切です。
- 毎食後の歯磨き
- 入れ歯の洗浄
- 舌や口腔粘膜の清掃
- 口の中の乾燥への配慮
- 定期的な歯科受診
日本呼吸器学会の成人肺炎診療ガイドライン2024でも、肺炎予防に対する口腔ケアが弱く推奨されています。
3.食事の姿勢と嚥下機能に気を配る誤嚥を防ぐには、食事中の姿勢も重要です。
介護する側が確認したい要点は次のとおりです。
- 食事中は十分に上体を起こす
- 急がせず、本人のペースで食べてもらう
- 一口の量を適切にする
- 食後すぐに横にならない
- むせや湿った声が続く場合は専門職に相談する
食事形態を変更する場合は、自己判断で一律に変更するのではなく、医師や言語聴覚士、管理栄養士などに相談することが望まれます。
4.栄養状態と水分摂取を維持する低栄養や脱水は、高齢者の全身状態を悪化させる要因になります。
食事量が減っている場合には、食べやすい形態や食事内容を工夫し、必要に応じて管理栄養士などの専門家に相談してください。
水分摂取についても、嚥下機能や心臓・腎臓の病気による水分制限の有無を考慮する必要があります。
5.インフルエンザや新型コロナなどの感染対策も続ける肺炎の原因は肺炎球菌だけではありません。
インフルエンザや新型コロナウイルスなどの感染症が、肺炎につながることもあります。
手洗い、換気、体調不良時の感染対策、必要なワクチン接種などを組み合わせ、感染するリスクを減らすことが大切です。
【高齢者の肺炎の急変】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:高齢者の肺炎は熱がなくても急変しますか?
発熱が目立たなくても肺炎を発症している可能性はあります。食欲不振、倦怠感、活動性の低下、意識状態の変化などが手掛かりになります。熱の有無だけで判断せず、普段との違いを確認してください。
Q2:高齢者の肺炎で意識障害が起きたらどうすればよいですか?
急な意識障害や呼び掛けへの反応低下がある場合は、直ちに119番へ通報してください。肺炎による重症化だけでなく、脳卒中など別の緊急疾患の可能性もあります。自己判断で様子を見続けないことが大切です。
Q3:むせない高齢者でも誤嚥性肺炎になりますか?
なります。嚥下反射や咳反射が低下すると、食べ物や唾液が気道に入っても、むせや咳が出ないことがあります。これを不顕性誤嚥と呼びます。食後の声の変化、発熱、食欲低下などにも注意してください。
Q4:食欲がなくなっただけでも肺炎を疑うべきですか?
食欲不振だけで肺炎と診断することはできません。しかし、高齢者では肺炎の初期症状として食欲低下や元気のなさが現れることがあります。咳、痰、倦怠感、呼吸の変化などが重なる場合は早めに受診してください。
Q5:肺炎で急変した場合、必ず救急車を呼ぶ必要がありますか?
すべての肺炎で救急車が必要になるわけではありません。ただし、急な呼吸困難、意識障害、正常な呼吸ができない状態、急激な全身状態の悪化などがある場合は119番を要請してください。軽い症状でも高齢者では早期受診が重要です。
高齢者の肺炎が急変する背景には、免疫機能や身体の予備力の低下、誤嚥、基礎疾患、初期症状の分かりにくさなど、複数の要因があります。
特に注意したいのは、発熱や咳だけに頼らないことです。
食欲が落ちた、元気がなくなった、会話への反応が鈍い、呼吸が速い、食後に声がガラガラする。こうした小さな変化が、肺炎や誤嚥性肺炎を疑うきっかけになります。
2026年の肺炎予防では、4月から変更されたPCV20の定期接種制度も押さえておきたいポイントです。ワクチンに加え、口腔ケア、嚥下機能への配慮、栄養管理、感染症対策を継続することが大切です。
【プロの結論】家族や介護者が覚えておきたい3つの判断基準1. 食欲・活気・会話の変化を見逃さない。 熱がなくても、普段と違う状態が続けば医療機関に相談する。
2. 呼吸と意識の異変を最優先する。 急な呼吸困難や意識障害があれば119番へ通報する。
3. 誤嚥を防ぐ生活環境を整える。 口腔ケア、食事姿勢、嚥下機能の評価を日常的に続ける。
高齢者の肺炎対策で最も大切なのは、病気が明らかになってから対応することだけではありません。毎日の生活の中で小さな変化に気付き、必要なタイミングで医療につなげることです。
家族や介護者が普段の状態を把握しておくことが、急変を早く察知するための大きな助けになります。
主な参考資料:日本呼吸器学会「成人肺炎診療ガイドライン2024」「ストップ!肺炎」、日本呼吸器学会「誤嚥性肺炎」、厚生労働省「高齢者の肺炎球菌ワクチン」「こんな時は迷わず119へ」。