心エコー(心臓超音波検査)は、プローブを胸壁に当て、超音波を利用して心臓の形態や動き、弁の状態、血液の流れなどをリアルタイムで観察する検査です。正確な画像を得るには、プローブを置く位置だけでなく、プローブマーカーの向き、超音波ビームの角度、患者の体位を組み合わせて調整する必要があります。特に、傍胸骨長軸像・傍胸骨短軸像・心尖部四腔像・心尖部二腔像・心窩部アプローチは、基本となる描出断面です。
2026年時点でも、米国心エコー図学会(ASE)の包括的経胸壁心エコー検査ガイドラインや、日本救急医学会のPOCUS診療指針などが、検査の標準化と教育の参考資料になっています。この記事では、基本断面ごとのプローブ位置と向きを整理し、実際の検査手順、画像が映らない原因、描出技術を身につけるためのポイントまで解説します。
【基本を理解】心エコーの当て方で最初に覚えるべきプローブ位置と操作方法

心エコーの描出技術を習得するうえで、最初に理解したいのがプローブの基本操作です。
同じ場所にプローブを当てていても、数度の回転や傾斜によって見える心臓の断面は変化します。そのため、単純に決められた位置へ当てるだけでは、目的とする画像を安定して得られません。
心エコーのプローブはどこに当てる?一般的な経胸壁心エコー(TTE)では、主に次の4つの観察窓を使用します。
- 傍胸骨窓:胸骨左縁の肋間から観察する。
- 心尖部窓:左室心尖部付近から観察する。
- 心窩部窓:剣状突起の下から観察する。
- 胸骨上窩:胸骨上部のくぼみから大動脈弓などを観察する。
それぞれ異なる方向から心臓に超音波を入射させるため、同じ心臓でも見える構造や断面が異なります。
プローブの位置を決める際は、骨や肺による超音波の遮断を避け、肋間などの音響窓を利用します。
プローブマーカーの向きとは?プローブマーカーとは、探触子の一部に設けられた突起や目印です。装置の画面に表示される方向マークと対応しており、画像の左右方向や断面の位置関係を把握するために使用します。
基本的な考え方は、次の3点です。
1. プローブのマーカーがどちらを向いているか確認する。
2. モニター上の方向表示と実際の身体の方向を対応させる。
3. 目的の断面に合わせて回転・傾斜を加える。
注意したいのは、マーカーの向きが装置の設定や表示方式によって異なる場合があることです。施設で採用している標準的な表示方向を確認してから操作します。
覚えておきたい4つの基本操作
① スライド(Slide)
プローブを皮膚に沿って平行移動させる操作です。肋間を変えたり、観察窓を探したりするときに使います。
② ローテーション(Rotation)
プローブの接触位置を大きく変えずに回転させる操作です。長軸像から短軸像への変更などに使用します。
③ チルト・アングル(Tilt / Angle)
接触位置を大きく変えず、超音波ビームの方向を変える操作です。弁や心室の見え方を調整するときに使います。
④ ロッキング(Rocking)
プローブの一方を支点にして傾ける操作です。心臓全体の長さを画面内に収めたり、断面の中心を調整したりします。
これらの操作は独立して使うだけでなく、組み合わせて使用します。特に、心臓の長軸が短く見える場合や、心尖部が欠けてしまう場合には、プローブの位置と角度の両方を見直すことが大切です。
【断面別に解説】心エコーの基本断面とプローブの当て方・向き
心エコーの基本断面を覚えるときは、プローブ位置・マーカーの向き・体位・描出する構造をセットで整理すると理解しやすくなります。
ここでは、代表的な断面の描出方法を順番に説明します。
① 傍胸骨長軸像(PLAX)の描出方法傍胸骨長軸像(PLAX)は、心臓の基本断面の中でも最初に習得したい画像です。
左室、左房、大動脈基部、僧帽弁、大動脈弁などを一つの断面で観察できます。
プローブの位置と向き
- 位置:胸骨左縁の第3〜第4肋間付近。
- マーカー:患者の右肩方向。
- 体位:基本的に左側臥位。
- 角度:左室長軸ができるだけ長く表示されるように調整する。
描出の手順
1. 患者を可能な範囲で左側臥位にする。
2. 胸骨左縁の第3〜第4肋間付近にプローブを当てる。
3. マーカーを患者の右肩方向に向ける。
4. 左室長軸が画面内に十分収まるよう、位置と傾斜を微調整する。
5. 僧帽弁、大動脈弁、大動脈基部、左房の描出を確認する。
観察する主な構造
- 左室(LV)
- 左房(LA)
- 僧帽弁(MV)
- 大動脈弁(AV)
- 大動脈基部(Ao)
- 心室中隔(IVS)
- 左室後壁
画像を確認するときは、左室が短く切れていないかを確認します。心尖部が通常の傍胸骨長軸像に見えないこと自体は、必ずしも異常ではありません。
② 傍胸骨短軸像(PSAX)の描出方法傍胸骨短軸像(PSAX)は、傍胸骨長軸像からプローブを回転させて描出する断面です。
左室を輪切りにしたような画像が特徴で、心室の形態や収縮運動を観察する際に役立ちます。
プローブの位置と向き
- 位置:傍胸骨長軸像と同じ胸骨左縁付近。
- マーカー:患者の左肩方向。
- 体位:基本的に左側臥位。
- 操作:長軸像から約90度回転させ、目的の高さに合わせて傾斜させる。
描出の手順
1. まず傍胸骨長軸像を描出する。
2. プローブの位置を保ちながら約90度回転させる。
3. 大動脈弁レベルを描出する。
4. プローブを尾側方向へ傾け、僧帽弁レベルを確認する。
5. さらに尾側へ傾け、乳頭筋レベルを描出する。
6. 必要に応じて心尖部レベルまで観察する。
短軸像で覚えたい3つのレベル
- 大動脈弁レベル: 大動脈弁の3つの弁尖、右室流出路、肺動脈などを確認する。
- 僧帽弁レベル: 僧帽弁の前尖と後尖、左室の形態を確認する。
- 乳頭筋レベル: 左室を円形に近い断面として描出し、乳頭筋や壁運動を確認する。
短軸像では、プローブの回転だけでなく、頭側・尾側への傾斜が重要です。大動脈弁レベルから乳頭筋レベルまで順番に観察することで、心臓の立体的な構造を理解しやすくなります。
③ 心尖部四腔像(A4C)の当て方心尖部四腔像(A4C)は、左右の心房・心室を同時に観察できる重要な断面です。
左室・右室の大きさ、心房の形態、房室弁の動き、心室中隔などを確認できます。
プローブの位置と向き
- 位置:左室心尖部付近。
- 目安:左第5肋間付近から探し、心尖拍動を参考に調整する。
- マーカー:基本的にベッド方向。一般的な時計方向の表現では4〜5時方向が目安。
- 体位:左側臥位。
描出の手順
1. 患者を左側臥位にする。
2. 左室心尖部付近にプローブを当てる。
3. マーカーをベッド方向へ向ける。
4. 心臓の長軸に沿うようにビームの方向を調整する。
5. 左右の心房と心室が同時に映る位置を探す。
6. 心尖部から房室弁までが十分に描出されているか確認する。
観察する主な構造
- 右房(RA)
- 右室(RV)
- 左房(LA)
- 左室(LV)
- 三尖弁(TV)
- 僧帽弁(MV)
- 心房中隔
- 心室中隔
ここで特に注意したいのが、心尖部の短縮(Foreshortening)です。
プローブの位置や角度が適切でないと、左室が実際より短く、丸みを帯びた形に見えることがあります。心尖部から心基部までの長軸が十分に描出されているかを確認し、必要に応じてプローブを移動させます。
④ 心尖部二腔像(A2C)の描出方法心尖部二腔像(A2C)は、左房と左室を中心に観察する断面です。
心尖部四腔像からプローブを回転させることで描出できます。
プローブの位置と向き
- 位置:心尖部四腔像と同じ心尖部付近。
- マーカー:A4Cから約60度反時計回りに回転させるのがASEガイドラインに示された基本操作。
- 体位:左側臥位。
描出の手順
1. 心尖部四腔像を描出する。
2. プローブの接触位置を大きく変えずに約60度回転させる。
3. 左房と左室が2つの腔として描出されるよう調整する。
4. 僧帽弁の動きと左室壁の形態を確認する。
5. 心尖部が短縮していないか確認する。
A2Cでは、四腔像で観察する心室中隔・側壁とは異なる方向から左室壁を評価できます。
A4CとA2Cを組み合わせることは、左室容積や左室駆出率を評価する際にも重要です。
⑤ 心窩部アプローチ(Subcostal View)心窩部アプローチは、剣状突起の下からプローブを当てて心臓を観察する方法です。
傍胸骨窓や心尖部窓で画像が得にくい場合にも利用でき、心房中隔・心室中隔・右室壁などの観察に役立ちます。
プローブの位置と向き
- 位置:剣状突起の直下付近。
- マーカー:患者の左側方向。
- 体位:仰臥位。
- ビーム方向:患者の左肩方向へ向ける。
描出の手順
1. 患者を仰臥位にする。
2. 腹部の筋肉をリラックスさせる。
3. 剣状突起の下にプローブを当てる。
4. マーカーを患者の左側方向に向ける。
5. プローブを左肩方向へ傾け、四腔像を描出する。
6. 必要に応じてプローブを回転させ、下大静脈の長軸像を描出する。
膝を軽く曲げると腹壁の緊張が和らぎ、画像が得やすくなる場合があります。また、呼吸を調整することも有効です。
心窩部からは、心臓だけでなく、肝臓を音響窓として利用した下大静脈(IVC)の観察も行います。
【比較表】心エコーの基本断面・プローブ位置・マーカー方向の一覧
ここまで説明した基本断面を一覧にまとめます。
実際の検査では、断面名だけを暗記するのではなく、どこから超音波を入射させ、何を観察するための画像なのかを関連づけて覚えることが大切です。
| 基本断面 | プローブ位置 | マーカーの基本方向 | 主な観察対象 |
|---|---|---|---|
| 傍胸骨長軸像(PLAX) | 胸骨左縁・第3〜4肋間 | 患者の右肩 | 左室、左房、僧帽弁、大動脈弁 |
| 傍胸骨短軸像(PSAX) | 胸骨左縁・PLAXと同じ付近 | 患者の左肩 | 大動脈弁、僧帽弁、乳頭筋、左室 |
| 心尖部四腔像(A4C) | 左室心尖部付近 | ベッド方向 | 左右心房、左右心室、房室弁 |
| 心尖部二腔像(A2C) | 心尖部・A4Cと同じ付近 | A4Cから約60度回転 | 左房、左室、僧帽弁 |
| 心窩部四腔像 | 剣状突起の下 | 患者の左側 | 左右心房、左右心室、中隔 |
| 下大静脈長軸像 | 心窩部から肝臓を介した位置 | 身体の長軸に合わせて調整 | 下大静脈、右房との接合部 |
出典:米国心エコー図学会(ASE)の経胸壁心エコー検査ガイドライン、日本救急医学会POCUS診療指針などを参考に整理。マーカー方向は標準的な表示方式を前提とした目安です。
この表で特に覚えておきたいのは、傍胸骨長軸像と短軸像の関係です。
PLAXは患者の右肩方向、PSAXは患者の左肩方向を基本とし、同じ傍胸骨窓から異なる断面を描出します。
一方、A4CとA2Cは同じ心尖部窓を利用し、プローブの回転によって観察する断面を変えます。
米国心エコー図学会のガイドラインでは、こうした基本断面に加えて、右室流入路、右室フォーカス像、心尖部五腔像、胸骨上窩像なども含む包括的な検査手順が整理されています。日本救急医学会の2022年のPOCUS診療指針では、救急領域の基本的な心臓観察として、傍胸骨長軸・短軸、心尖部四腔、心窩部四腔、下大静脈長軸という3部位5断面が示されています。
【実践編】心臓超音波検査の手順と左側臥位・画像調整のポイント
心エコーは、基本断面を一つずつ描出するだけでは十分ではありません。
患者の体位を整え、目的の断面を順番に取得し、画像の質を確認しながら検査を進める必要があります。
心エコー検査の基本的な流れ一般的な経胸壁心エコー検査では、次のような順序で観察を進めます。
検査前の準備
患者の本人確認、検査目的の確認、検査内容の説明、同意の確認を行います。心電図などの必要な準備も整えます。
装置の設定
心臓用のプローブを選択し、心臓用プリセット、周波数、深度、ゲインなどを調整します。
傍胸骨窓から観察
左側臥位を基本としてPLAXを描出し、続いてPSAXの各レベルを観察します。
心尖部窓から観察
A4C、A5C、A2C、A3Cなどを描出し、各心腔や弁の状態を確認します。
心窩部・胸骨上窩から観察
心窩部四腔像、下大静脈長軸像、大動脈弓など、検査目的に応じた断面を取得します。
ドプラ検査・計測・記録
必要なカラードプラ、パルスドプラ、連続波ドプラ、組織ドプラなどを実施し、必要な計測値と動画を保存します。
画像の確認と検査終了
必要な断面がそろっているか、計測に適した画質かを確認し、記録を整理します。
なお、救急領域のPOCUSと、循環器専門領域などで実施する包括的な心エコー検査では、目的や取得する断面の範囲が異なります。限定的な観察で得られた情報だけで、包括的な心機能評価を代替することはできません。
心エコーで左側臥位にする理由心エコーで左側臥位を使用するのは、心臓を胸壁に近づけ、超音波が届きやすい状態をつくるためです。
仰臥位では、肺や胸壁の状態によって心臓とプローブの間に空気が入り、画像が得にくくなる場合があります。
左側臥位にすると、心臓の位置関係が変化し、傍胸骨窓や心尖部窓から観察しやすくなることがあります。
ただし、患者の状態によっては左側臥位が難しい場合もあります。呼吸状態や身体の痛み、運動制限などを考慮し、無理のない体位で検査を行います。
東京大学医学部附属病院や国立循環器病研究センターの検査案内でも、通常の経胸壁心エコーでは左側臥位を基本とし、必要に応じて体位や呼吸を調整する方法が紹介されています。
画像を見やすくするための装置設定プローブの位置が正しくても、装置の設定が適切でなければ画像の質は低下します。
特に確認したい項目は次のとおりです。
- ゲイン(Gain): 画像全体の明るさを調整する。
- TGC: 深さごとの明るさを調整する。
- 深度(Depth): 観察する心臓の構造が画面に適切に収まるようにする。
- フォーカス(Focus): 観察対象の深さに焦点を合わせる。
- 周波数(Frequency): 画像の分解能と到達深度のバランスを調整する。
- セクター幅: 観察範囲を必要な部分に絞る。
ゲインを上げすぎると、血液の部分まで明るくなり、心内膜の境界が分かりにくくなることがあります。逆に下げすぎると、心筋や弁の境界が見えにくくなります。
また、深度を必要以上に大きくすると心臓が小さく表示され、時間分解能にも影響する場合があります。
ASEのガイドラインでも、深度、セクター幅、フォーカス、ゲインなどを適切に調整することが、良好な画像取得の基本として示されています。
【原因と対処】心エコーの画像が映らない・きれいに描出できない理由
心エコーを練習していると、プローブを当てても心臓が映らない、画像がぼやける、左室の全体像が見えないといった問題が起こります。
こうした場合は、単純にプローブを強く押し当てるのではなく、画像が得られない原因を分けて考えることが大切です。
画像が映らない主な原因
① 肋骨や肺による遮断
肋骨は超音波を反射し、肺の空気も超音波の伝搬を妨げます。肋間を少し変更することで改善する場合があります。
② 体格や胸壁の影響
皮下脂肪、筋肉量、胸郭の形状などによって心臓までの距離や音響窓が変わり、画像が不鮮明になることがあります。
③ プローブの位置・角度のずれ
肋間や心尖部の位置が適切でないと、目的の断面から外れてしまいます。回転・傾斜・移動を見直します。
④ 装置設定の不適切さ
ゲイン、深度、フォーカス、周波数などが適切でないと、心筋や弁の境界が見えにくくなります。
⑤ 呼吸や肺の状態
肺の過膨張、呼吸による心臓の位置変化、人工呼吸管理などによって、通常の観察窓が使いにくくなることがあります。
特に肺気腫などで肺が過膨張している場合、傍胸骨窓が十分に確保できないことがあります。その際には心窩部窓など、別の観察窓を利用する方法が検討されます。
画像が映らないときに確認したいポイント臨床現場で画像が得にくいときは、次のような順序で確認します。
| 確認項目 | 見直すポイント |
|---|---|
| プローブ位置 | 肋間や心尖部の位置を再確認する |
| マーカー方向 | 目的断面に合った方向か確認する |
| プローブ角度 | 回転・傾斜・ロッキングを調整する |
| 患者の体位 | 左側臥位・仰臥位などを検討する |
| 呼吸 | 必要に応じて呼吸のタイミングを調整する |
| 装置設定 | ゲイン・深度・フォーカスなどを見直す |
| 観察窓 | 傍胸骨窓から心尖部窓・心窩部窓への変更を検討する |
ただし、画像が出ない原因がすべて操作技術にあるわけではありません。体格、肺の状態、術後の創部、ドレッシング材、胸郭の形態など、患者側の条件によっても描出は難しくなります。
無理な圧迫や長時間の操作を避け、必要に応じて別の観察窓や専門的な画像検査を検討が必要です。
心尖部が短く見える場合の対処心尖部四腔像や二腔像でよく問題になるのが、左室の短縮です。
心尖部が画面内に十分に収まっていないと、左室が本来より短く、丸みを帯びた形に見える場合があります。
このときは、次の点を確認します。
- 心尖拍動の位置を参考にプローブ位置を見直す。
- 肋間を変更して適切な音響窓を探す。
- プローブを少し外側・下側へ移動させる。
- 左室の長軸方向に沿うよう角度を調整する。
- 心尖部から僧帽弁までの構造が十分に映っているか確認する。
心尖部の短縮は、画像の見た目だけでなく、左室容積や駆出率などの計測結果にも影響する可能性があります。測定値を評価する前に、画像の適切性を確認する必要があります。
【プロの結論】心エコーの当て方を上達させる練習方法と安全な習得ポイント
心エコーの技術を身につけるためには、プローブを当てる場所だけを暗記するのではなく、断面の構造とプローブ操作の関係を理解する必要があります。
最初は傍胸骨長軸像と心尖部四腔像を優先する初心者が基本を学ぶ場合は、次の順序で練習すると整理しやすくなります。
1. 傍胸骨長軸像を安定して描出する。
2. 傍胸骨短軸像へ切り替え、大動脈弁・僧帽弁・乳頭筋レベルを確認する。
3. 心尖部四腔像を描出する。
4. 心尖部二腔像へ回転させる。
5. 心窩部四腔像と下大静脈長軸像を練習する。
特にPLAXからPSAXへの変更、A4CからA2Cへの変更は、プローブ操作と断面の関係を理解するうえで重要です。
断面ごとに正常な解剖を理解する画像を取得できても、何が映っているのか理解できなければ、検査技術として十分とはいえません。
例えば、傍胸骨長軸像では左室・左房・大動脈基部・僧帽弁の位置関係を理解する必要があります。
心尖部四腔像では、右心系と左心系の配置や、三尖弁と僧帽弁の位置関係を把握します。
画像を取得する練習と同時に、解剖学的な構造を対応させて覚えることが、安定した描出につながります。
初心者が避けたい3つの誤解誤解①:プローブの位置さえ正しければ画像は映る
実際には、同じ肋間でもプローブの角度や患者の体格によって描出画像は異なります。位置だけでなく、回転・傾斜・ロッキングを組み合わせる必要があります。
誤解②:マーカーの向きはすべての断面で同じ
断面によってマーカーの向きは変わります。PLAXとPSAXでは基本方向が異なり、心尖部や心窩部でも別の方向を使用します。
誤解③:画像が映らないのは技術不足
肺の過膨張、体格、胸郭の形、手術後の状態などによって、画像が得にくい患者もいます。画像の質は検者の技術だけで決まるものではありません。
2026年時点で押さえておきたい標準化の動向心エコーの教育では、基本断面の取得だけでなく、検査全体の標準化や画像の再現性も重視されています。
2025年1月に公表された経胸壁心エコー検査の専門家コンセンサスでは、傍胸骨長軸像、短軸像、心尖部四腔像、五腔像、二腔像、三腔像、心窩部像、下大静脈像、胸骨上窩像などを含む体系的な検査手順が整理されています。これは台湾の専門家によるコンセンサスであり、日本の施設における検査手順そのものを定めるものではありませんが、包括的な検査を学ぶうえで参考になります。
また、2020年に公表された英国心エコー学会(BSE)の成人経胸壁心エコー検査に関する実践ガイドラインでも、標準断面と計測項目を体系化した最低限のデータセットが提示されています。
今後も画像取得の標準化、3D心エコー、スペックルトラッキングなどの技術と組み合わせながら、より詳細な心機能評価が進んでいくと考えられます。
【プロの結論】上達の決め手は位置・方向・解剖の3つを結びつけること心エコーの当て方を習得するうえで、最も大切なのは、プローブの位置・マーカーの方向・描出される解剖構造を一体として理解することです。
単純な手順の暗記だけでは、体格や胸郭の形が異なる患者に対応できません。
特に重要なのは次の3点です。
- 位置を理解する: どの肋間や観察窓から心臓を見るのかを覚える。
- 方向を理解する: マーカーと超音波ビームの向きを意識する。
- 画像を理解する: 描出された心腔や弁が、解剖学的にどの位置にあるのか確認する。
学習段階では、指導者の監督下で正常例の画像取得を繰り返し、保存した画像と実際のプローブ操作を照合する方法が有効です。
患者の状態や画像の質によって描出方法は変わるため、自己判断だけで診断や治療方針を決めず、施設の検査プロトコルと専門家の指導に従うことも欠かせません。
【心エコーの当て方】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:心エコーのプローブは最初にどこへ当てればよいですか?
A1:一般的には、傍胸骨長軸像を描出するため、胸骨左縁の第3〜第4肋間付近から始めます。マーカーを患者の右肩方向に向け、左室長軸が十分に見える位置へ調整します。
Q2:傍胸骨長軸像と短軸像の違いは何ですか?
A2:長軸像は心臓を長い方向から観察する断面で、短軸像は心臓を輪切りにしたように観察する断面です。基本的には同じ傍胸骨窓からプローブを約90度回転させて切り替えます。
Q3:心尖部四腔像と二腔像はどうやって切り替えますか?
A3:まず心尖部四腔像を描出し、プローブの接触位置を大きく変えずに約60度回転させます。左房と左室が中心となる断面が心尖部二腔像です。
Q4:心エコーで左側臥位にするのはなぜですか?
A4:心臓を胸壁に近づけ、肺や胸壁による超音波の遮断を避けやすくするためです。特に傍胸骨窓と心尖部窓からの画像取得に役立ちます。
Q5:心エコーの画像が映らないときはどうすればよいですか?
A5:プローブの位置、角度、マーカー方向、患者の体位、ゲイン、深度などを順番に確認します。必要に応じて別の肋間や心窩部窓などへ変更します。患者側の条件で描出が難しい場合もあります。
Q6:初心者はどの断面から練習すればよいですか?
A6:傍胸骨長軸像から始め、傍胸骨短軸像、心尖部四腔像、心尖部二腔像、心窩部アプローチへ進むと、基本操作と心臓の解剖を関連づけて学習できます。
心エコーの当て方を習得するには、傍胸骨長軸像・短軸像、心尖部四腔像・二腔像、心窩部アプローチという基本断面を理解することが出発点です。
それぞれの断面には決まったプローブ位置とマーカー方向がありますが、実際の検査では患者の体格、胸郭、肺の状態などによって微調整が必要になります。
特に覚えておきたい要点は次のとおりです。
- 傍胸骨長軸像は胸骨左縁から右肩方向へマーカーを向ける。
- 傍胸骨短軸像は長軸像から約90度回転させる。
- 心尖部四腔像は心尖部からベッド方向へマーカーを向ける。
- 心尖部二腔像は四腔像から約60度回転させる。
- 心窩部アプローチは剣状突起の下から観察する。
- 画像が得にくい場合は体位・呼吸・プローブ角度・装置設定を見直す。
心エコーは、単にプローブを当てる技術ではありません。画像と心臓の解剖を結びつけ、目的に応じた断面を安定して取得する技術です。
基本断面を一つずつ確実に習得し、指導者のもとで実際の画像と操作を照合しながら練習することが、安全で正確な検査技術につながります。
主な参考資料
- 米国心エコー図学会(ASE)「Guidelines for Performing a Comprehensive Transthoracic Echocardiographic Examination in Adults」
- 日本救急医学会Point-of-Care超音波推進委員会「救急point-of-care超音波診療指針」(2022年)
- British Society of Echocardiography「A practical guideline for performing a comprehensive transthoracic echocardiogram in adults」(2020年)
- 「2025 Expert Consensus Recommendations for the Diagnostic Requirements in Routine Practices of Transthoracic Echocardiography」(2025年)