非常戒厳の解除後、尹錫悦氏の政治的立場は急速に悪化しました。
問題となったのは、戒厳令を宣布したことだけではありません。軍や警察を国会に投入し、国会議員の活動や憲法機関の機能を妨げようとしたことが、弾劾審判の中心的な争点になりました。
2024年12月14日、国会が2度目の弾劾訴追案を可決最初の弾劾訴追案は2024年12月7日に採決されましたが、与党議員の多くが投票に参加せず、必要な賛成数に達しませんでした。
しかし、2度目の採決となった12月14日には、弾劾訴追案が可決されました。
これによって尹氏は大統領としての職務を停止され、憲法裁判所が弾劾の妥当性を審理することになりました。
2025年4月4日、憲法裁判所が全員一致で罷免韓国憲法裁判所は2025年4月4日、尹錫悦大統領を罷免する決定を下しました。
裁判官8人全員が罷免に賛成し、決定の効力は直ちに発生しました。
憲法裁判所が重視した主な問題は次のとおりです。
- 国家非常事態と認められる状況ではなかったのに非常戒厳を宣布したこと。
- 憲法や戒厳法が定める宣布手続きを守らなかったこと。
- 軍や警察を動員して国会の権限行使を妨害したこと。
- 国会議員や政治関係者の逮捕・拘束を試みたこと。
- 国民の基本的人権と憲法秩序を侵害したこと。
聯合ニュースが伝えた憲法裁判所の判断では、尹氏による行為は国家緊急権の乱用に当たり、憲法守護義務に違反する重大な行為と評価されました。
また、罷免によって守られる憲法秩序の利益は、罷免による国家的損失を上回ると判断されました。
弾劾と刑事裁判は別の手続きここで押さえておきたいのが、尹氏の罷免と内乱首謀罪の刑事裁判は、法的に別の手続きだという点です。
| 比較項目 | 弾劾審判 | 刑事裁判 |
|---|---|---|
| 審理機関 | 憲法裁判所 | 一般の裁判所 |
| 主な目的 | 大統領の職務継続の可否 | 犯罪の成立と刑罰の判断 |
| 判断内容 | 2025年4月4日に罷免 | 2026年2月に無期懲役 |
| 法的な意味 | 大統領職を失う | 刑事責任を負う |
したがって、罷免されたから自動的に内乱罪が成立したわけではありません。刑事裁判では、犯罪の構成要件や具体的な行為、証拠に基づく独立した判断が必要になります。
【2026年最新】尹錫悦の内乱首謀罪と無期懲役判決、韓悳洙の裁判

尹錫悦氏の罷免後も、非常戒厳をめぐる司法手続きは続きました。
焦点となったのは、非常戒厳の宣布や軍の動員が、韓国刑法上の内乱罪に該当するかどうかです。
2026年2月19日、尹錫悦氏に無期懲役判決2026年2月19日、ソウル中央地裁は尹錫悦氏に対し、内乱首謀罪で無期懲役を言い渡しました。
特別検察官側は死刑を求刑していましたが、裁判所が選択したのは無期懲役でした。
判決では、尹氏が国会に軍を投入し、国会の機能を麻痺させようとした行為などについて、内乱罪の成立が認められました。
一方、量刑に関しては、次のような事情が考慮されました。
- 犯行に綿密な計画性が認められなかったこと。
- 現場での物理的な力の行使ができるだけ抑えられたこと。
- 犯罪歴がなかったこと。
このため、死刑ではなく無期懲役が相当と判断されました。
内乱首謀罪の法定刑は死刑・無期懲役など韓国刑法上、内乱首謀罪は極めて重大な犯罪として扱われています。
その法定刑は、死刑、無期懲役、無期禁錮の3種類です。
つまり、今回の裁判で検察側が死刑を求刑したのは、法定刑の中で最も重い刑罰を求めたことを意味します。
ただし、求刑は検察側の意見であり、裁判所が必ずその刑を言い渡すわけではありません。
韓悳洙前首相にも懲役15年の控訴審判決今回の戒厳事件では、尹氏だけでなく、当時の政府関係者の刑事責任も問われています。
その中でも注目される人物が、韓悳洙(ハン・ドクス)前国務総理です。
韓氏は戒厳宣布当時の首相で、内乱重要任務従事罪などに問われました。
2026年1月21日、ソウル中央地裁は韓氏に懲役23年を言い渡しました。検察側の求刑は懲役15年だったため、求刑を上回る判決でした。
裁判所が問題視した行為には、次のようなものがあります。
- 非常戒厳宣布に先立ち、閣議を開催するよう提案したこと。
- 戒厳宣布が閣議で正式に審議されたように見せることに関与したこと。
- 戒厳宣布後、閣僚らに関連文書への署名を求めたこと。
- 主要機関の封鎖や報道機関への停電・断水をめぐる協議に関与したこと。
- 戒厳解除後に作成された宣言文書の署名や廃棄に関与したこと。
加えて、憲法裁判所の弾劾審判での偽証についても有罪と判断されました。
2026年5月7日には、ソウル高裁が控訴審で懲役15年を言い渡しました。
一審から8年の減刑となりましたが、主な容疑の多くは有罪と認定されています。韓氏側は5月11日に上告しました。
この裁判は、非常戒厳事件が尹氏個人の責任だけでなく、政府中枢にいた関係者の責任にも広がっていることを示しています。
【2026年11月最新】尹錫悦の控訴審で再び死刑求刑!判決はどうなる?
2026年10月29日、ソウル高裁で尹錫悦氏の内乱首謀罪をめぐる控訴審が開かれました。
ここで特別検察官側は、一審に続いて死刑を求刑しました。
つまり、検察側は一審の無期懲役では刑が軽すぎるとして、控訴審でも最も重い刑罰を求めたことになります。
なぜ特別検察官は再び死刑を求めたのか特別検察官側の主張は、今回の非常戒厳が単なる政治的な対立や大統領の権限行使ではなく、韓国の憲法秩序と民主主義を破壊しようとした重大な犯罪だったというものです。
特に問題視したのは、憲法を守る責任を負う大統領が軍を動員し、国会の機能を妨害しようとした点でした。
また、一審判決については、内乱の準備期間や目的を狭く評価し、犯罪の重大性に見合わない刑罰を選択したと批判しました。
韓国では1997年を最後に死刑が執行されていませんが、特別検察官側は死刑が長期間執行されていないことを理由に、死刑判決を避けるべきではないとも主張しています。
尹錫悦氏側は無罪を主張これに対し、尹氏側は非常戒厳の宣布は大統領に認められた権限の行使であり、内乱には該当しないとの立場を示しています。
この対立の中心にあるのは、非常戒厳を宣布する権限が存在することと、その権限をどのような目的・方法で行使してよいのかという問題です。
一審判決では、非常戒厳の宣布という形式的な行為だけではなく、国会に軍を投入してその機能を妨害しようとした具体的な行為が内乱罪成立の重要な根拠となりました。
この区別は、今後の控訴審の判断を理解するうえでも重要です。
2026年11月5日に最終弁論・最終陳述の予定2026年11月3日時点で、控訴審の判決はまだ出ていません。
10月29日に特別検察官側の求刑が行われ、11月5日には尹氏側の最終弁論と本人による最終陳述が予定されています。
その後、裁判所が判決日を指定する見通しです。
現時点で整理すると、次のようになります。
| 項目 | 2026年11月3日時点の状況 |
|---|---|
| 一審判決 | 無期懲役 |
| 一審の求刑 | 死刑 |
| 控訴した側 | 特別検察官側・尹氏側の双方 |
| 控訴審の求刑 | 2026年10月29日に死刑 |
| 尹氏側の主張 | 内乱罪は成立しないとして無罪を主張 |
| 次の予定 | 11月5日に最終弁論・最終陳述 |
| 控訴審判決 | 11月3日時点では未確定 |
聯合ニュースとKBS WORLDの報道によると、控訴審では11月5日に最終手続きが行われた後、判決期日が指定される予定です。年内に判決が言い渡される可能性も報じられています。
ここで注意したいのは、死刑求刑と死刑判決はまったく異なるということです。
2026年10月29日に死刑が決まったわけではありません。現段階では、特別検察官が死刑を求めており、裁判所が控訴審でどのような結論を出すかが焦点となっています。
【韓国の戒厳令】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:韓国の戒厳令はいつ発令されましたか?
2024年12月3日夜です。尹錫悦大統領が午後10時25分ごろに非常戒厳を宣布し、翌4日午前4時27分ごろに解除しました。
Q2:韓国の戒厳令はなぜ6時間で解除されたのですか?
韓国国会が憲法第77条に基づいて解除要求案を可決したためです。2024年12月4日午前1時ごろ、190人の出席議員全員が賛成しました。国会の解除要求には大統領が従う義務があります。
Q3:尹錫悦前大統領は死刑になったのですか?
2026年11月3日時点では死刑判決は出ていません。2026年2月の一審では無期懲役となり、10月29日の控訴審でも特別検察官側が死刑を求刑しています。11月5日に最終弁論と最終陳述が予定されています。
Q4:韓悳洙前首相も有罪になったのですか?
はい。2026年1月の一審では懲役23年、5月の控訴審では懲役15年となりました。韓氏側は控訴審判決を不服として上告しています。
Q5:韓国で戒厳令が再び発令される可能性はありますか?
憲法上、大統領には一定の条件下で戒厳を宣布する権限があります。ただし、国家非常事態などの要件や法定手続きを満たす必要があり、国会には解除を要求する権限があります。今回の事件を受け、非常権限の運用と民主的統制のあり方が重要な政治・法的課題になっています。
2024年12月3日に尹錫悦大統領が宣布した非常戒厳は、韓国の民主主義と憲法制度の根幹を揺るがす出来事となりました。
事件の流れを振り返ると、重要な転換点は次の3つです。
1. 2024年12月3日〜4日:尹錫悦氏が非常戒厳を宣布したものの、国会が190人全員の賛成で解除要求を可決し、約6時間で解除されました。
2. 2025年4月4日:韓国憲法裁判所が裁判官全員一致で尹氏を罷免しました。
3. 2026年:尹氏は内乱首謀罪で無期懲役の一審判決を受け、控訴審では特別検察官が再び死刑を求刑しました。
今回の事件を理解するうえで、特に押さえておきたい判断基準があります。
- 非常戒厳を宣布する大統領の権限と、その権限を適法に行使する義務は別問題であること。
- 大統領の弾劾・罷免と刑事責任の判断は、それぞれ独立した手続きであること。
- 検察官による死刑求刑は、裁判所による死刑判決を意味しないこと。
2026年11月3日現在、最大の注目点は11月5日の控訴審最終陳述と、その後に指定される判決期日です。
韓国の戒厳令事件は、単に一人の大統領が政治的に失脚した事件ではありません。国家緊急権をどこまで認めるのか、軍を誰がどのように統制するのか、そして民主的に選ばれた大統領であっても憲法に違反した場合にはどのような責任を負うのかという、民主主義国家に共通する課題を浮き彫りにしました。
今後の控訴審判決は、尹錫悦氏個人の刑事責任だけでなく、韓国の憲政秩序と非常権限のあり方を考えるうえでも重要な司法判断となります。
主な参考資料:韓国憲法裁判所の弾劾決定、韓国政府公式広報、聯合ニュース、KBS WORLD、JETRO、韓国主要報道機関。情報基準日:2026年11月3日。