バッタが空を覆うほどの大群をつくり、農作物を食い尽くす「蝗害(こうがい)」。その背景には、単純な繁殖数の増加だけでは説明できない、雨量や植生の変化、個体同士の接触によって引き起こされる「相変異」という特殊な生態があります。
2026年11月現在、海外ではサバクトビバッタの発生状況が引き続き監視されており、日本でも沖縄県伊平屋島でトノサマバッタなどの発生に関する注意報が出されました。一方、関西国際空港では過去に推定3,884万個体という大規模な発生が記録されています。
なぜ雨が降るとバッタが増えるのか。なぜ普段は単独で生活する個体が突然群れをつくるのか。2026年のFAO最新情報、国際農林水産業研究センター(JIRCAS)の研究、国内の発生事例をもとに、その仕組みと農作物被害、防除の現状を解説します。
【原因を徹底解剖】バッタ大量発生はなぜ雨・干ばつ・豪雨で起きるのか

バッタの大量発生は、気温が高いから、雨が多いからという単一の理由で起こるわけではありません。繁殖に適した土壌、餌となる植物、気象条件、個体密度が連鎖的に変化することで、通常は目立たない個体群が急激に拡大します。
大雨が繁殖に適した環境をつくるサバクトビバッタの通常の生息域は、西アフリカのモーリタニアから中東、インドにかけての半乾燥地域です。普段は個体数が少なく、孤独相として点在しています。
ところが、乾燥した地域にまとまった雨が降ると状況が変わります。土壌に水分が蓄えられ、草本植物が一斉に成長するため、餌と産卵場所の両方が確保されやすくなるのです。
FAOによると、サバクトビバッタの繁殖に適した条件には、次の3つがあります。
- 地表から10~15cm程度まで湿った砂質土壌、または砂と粘土が混じった土壌がある。
- 産卵できる裸地が存在する。
- 幼虫が成長するための緑色の植生が十分にある。
つまり、単に雨が降れば大量発生するわけではありません。水分を含んだ土壌と植物の成長が同時に成立し、バッタが実際にその場所に生息していることが必要です。
FAOの解説でも、好適な環境が整っていても、必ずしもバッタが存在するとは限らないと説明されています。
干ばつの後に豪雨が続くと危険性が高まる理由一見すると、干ばつと豪雨は正反対の現象です。しかし、サバクトビバッタの大量発生を考えるうえでは、両者が連続して起こることが重要な意味を持ちます。
その流れは次のとおりです。
- 干ばつが発生する:植物が減少し、バッタは限られた餌場に集中しやすくなる。
- まとまった雨が降る:土壌が湿り、草が成長して繁殖環境が改善する。
- 繁殖が活発になる:成虫が成熟し、交尾と産卵を行う。
- 個体数が増加する:複数世代にわたって繁殖が続き、個体密度が高まる。
- 群生相化が進む:餌場の縮小などで個体が集中し、接触刺激によって集団行動が強まる。
国際農研は、2020年に東アフリカなどで発生した大規模なサバクトビバッタ被害についても、干ばつの後にサイクロンによる大雨が発生し、繁殖に適した環境が生まれたことが原因の一つと説明しています。
この事例が示すのは、干ばつそのものが繁殖を促進するという単純な関係ではなく、乾燥と降雨による環境変化の組み合わせが大量発生の引き金になり得るということです。
雨の量だけでなく風と植生も関係するバッタの成虫は飛翔によって移動するほか、風向きや風速によって移動先が左右されます。餌となる植物が広範囲に分布している場合と、限られた場所に集中している場合では、個体の集まり方も変わります。
特に乾季に入り、植物が枯れ始めると、残された緑地に成虫が集まることがあります。そこで個体同士の接触が増えると、次に説明する相変異が進みやすくなります。
【相変異の仕組み】群生相と孤独相の違いは何?バッタが群れる科学的理由
バッタ大量発生を理解するうえで欠かせないのが「相変異」です。これは、同じ種類のバッタであっても、生息密度などの環境条件に応じて行動や形態、生理的特徴が変化する現象を指します。
重要なのは、群生相と孤独相が別々の種類の昆虫ではないという点です。同じ種の個体が、周囲の環境に応じて異なる性質を示します。
孤独相と群生相の決定的な違い孤独相は個体密度が低い環境で育ったバッタです。ほかの個体との接触を避け、比較的単独で生活します。
一方、群生相は個体密度が高い環境で育ち、ほかの個体に引き寄せられる性質が強くなります。集団で移動し、餌場を共有するような行動が目立つようになります。
| 比較項目 | 孤独相 | 群生相 |
|---|---|---|
| 生息密度 | 低い | 高い |
| 行動 | 単独行動が中心 | 集団行動が強まる |
| ほかの個体への反応 | 避ける傾向 | 引き寄せられる傾向 |
| 移動 | 比較的分散して生活 | 群れを形成して移動 |
| 体色・形態 | 種によって緑色や褐色など | 種によって黒色、オレンジ色、ピンク色など |
| 繁殖・生理 | 低密度環境に適応 | 繁殖能力などが変化する場合がある |
| 農業への影響 | 局所的な食害が中心 | 大群による広範囲の食害につながる |
なお、体色は種類や発育段階によって異なります。黒い個体を見つけたからといって、必ず群生相だと判断できるわけではありません。
個体同士の接触が群生相化のスイッチになるなぜバッタは周囲に仲間が増えると、集団で行動するようになるのでしょうか。
サバクトビバッタの研究では、個体同士の接触、とりわけ後脚への触覚刺激が行動変化の重要な引き金になることが分かっています。
2001年に発表された研究では、孤独相のサバクトビバッタの後脚に繰り返し接触刺激を与える実験が行われました。その結果、後脚の特定部分への刺激によって群生相に特徴的な行動への変化が確認されています。
加えて、神経伝達物質であるセロトニンが、この行動変化に関係することも研究で示されています。周囲の個体との接触が、単なる物理的な刺激にとどまらず、神経系を通じて行動を変えるのです。
ただし、相変異の仕組みはすべてのバッタで同一ではありません。種類によって重要な感覚刺激や神経機構が異なります。
行動は数時間、体の形は数日から数週間で変化する相変異には時間差があります。
国際農研の解説によると、サバクトビバッタでは行動の群生相化は数時間で起こる場合がある一方、体色や形態の変化には数日から数週間かかります。
つまり、外見がまだ孤独相に近い個体でも、すでに群生相的な行動を示している可能性があります。大群が形成される前の段階で個体の行動を観察することが、防除の観点から重要になる理由です。
【日本のバッタ大量発生】トノサマバッタの過去の事例と2026年の現状
日本でもバッタの大量発生は起こります。ただし、海外で大規模な蝗害を引き起こすサバクトビバッタと、日本に生息するトノサマバッタの発生は分けて考える必要があります。
関西国際空港で記録された推定3,884万個体日本国内の代表的な事例が、関西国際空港の一期島・二期島で発生したトノサマバッタの大発生です。
2015年に関西病虫害研究会報で発表された調査研究によると、一期島では1994~1997年、二期島では2007年に大発生が確認されました。
一期島では推定最大1,338万個体、二期島では推定最大3,884万個体に達しています。
特に2007年の事例では、6月9~11日の調査で3,884万個体と推定されていた生息数が、6月19日には14万個体まで減少しました。
研究では、埋め立てによって形成された環境に天敵が少なく、そこへ移入した成虫が複数世代にわたって増殖したことが、大発生の主な原因と考察されています。
また、群生相の集団が島の北西部に偏る傾向も確認されました。6~9月の南ないし南西の風による影響が考えられています。
これは、バッタの大量発生が単なる繁殖力だけでなく、人工的な環境の変化や風による移動とも深く結び付いていることを示す事例です。
天敵の糸状菌Entomophthora grylliが発生終息に関係関西国際空港の事例でもう一つ注目されるのが、天敵の存在です。
研究報告では、糸状菌の一種であるEntomophthora grylliの発生とともに、1997年と2007年の大発生が終息したことが記録されています。
この菌はバッタに感染する天敵として知られ、宿主の個体数を抑える自然界の生物的要因の一つです。
大発生が続く環境では、薬剤による防除だけでなく、天敵を含む生態系全体の働きも重要になります。
2026年の日本では沖縄県伊平屋島で注意報2026年の国内情報として注目されるのが、沖縄県病害虫防除技術センターが5月29日に発表した「令和8年度病害虫発生予察注意報第2号」です。
対象となったのは、伊平屋島のサトウキビに発生したバッタ・イナゴ類で、対象種はタイワンツチイナゴとトノサマバッタでした。
5月中旬の調査では、次の数値が確認されています。
- 成虫数:1平方メートル当たり0.35頭。
- 沖縄本島の同年の成虫数:1平方メートル当たり0.07頭。
- 20回のすくい取りによる幼虫数:11.4頭。
- 沖縄本島の同年の幼虫数:3.75頭。
- 沖縄本島の平年の幼虫数:1.45頭。
主な発生種はタイワンツチイナゴで、一部のイネ科雑草ではトノサマバッタの幼虫も確認されました。また、現地の防除員からは、4月までトノサマバッタの成虫が多く発生していたとの報告もありました。
沖縄県は、干ばつが続くと発生が多くなりやすいこと、多発時にはサトウキビの葉が中肋だけを残すほど食害されることを説明しています。
これは国内での局地的な農業害虫の発生事例であり、海外のサバクトビバッタによる大規模な群飛と同じ現象として扱うべきではありません。
【サバクトビバッタ2026年最新】FAO発生情報と海外の蝗害はどうなっている?
海外のバッタ大量発生を監視する中心的な機関が、国際連合食糧農業機関(FAO)です。
FAOは「Locust Watch」を通じて、各国の発生状況、気象条件、植生、繁殖状況、移動予測、防除活動を継続的に公表しています。
2026年11月2日時点で確認できる最新のFAO情報FAOの最新掲載月報は、2026年9月版の「Desert Locust Bulletin No.576」です。2026年10月13日に掲載されました。
同月報では、9月のサバクトビバッタの状況について、アフリカ西部・中央部・東部の3つの主要繁殖地域全体では、おおむね落ち着いた状況だったとされています。西部地域では孤立した成虫が確認されたものの、広域的な大発生が継続しているという状況ではありません。
ただし、ここで注意したいのが、広域的な月報の評価と個別の国の繁殖状況は必ずしも一致しないことです。
FAOが10月28日を基準日として公表したモーリタニアの農業・食料安全保障情報では、南部を中心にサバクトビバッタの繁殖が継続していると報告されています。
加えて、11月にはタガント、ブラクナ、トラルザの各地域で幼虫や成虫の集団が形成される可能性があり、農作物被害を防ぐために防除活動が必要になる場合があると予測されています。
したがって、2026年11月現在の状況は「世界中で蝗害が発生している」というものではなく、広域的には比較的落ち着いている一方、モーリタニアなど一部の繁殖地域では警戒が必要という状態です。
2026年の発生状況を時系列で確認2026年のサバクトビバッタについては、北西アフリカでの春季繁殖から、モーリタニアなどサヘル地域での夏季繁殖への移行が要点となりました。
- 2026年1月:モーリタニアや西サハラ周辺で発生が続き、成虫集団や小規模な群れが確認された。
- 2026年3月:西サハラとモロッコで成虫集団が北上し、繁殖が再開。アルジェリアにも一部が到達した。
- 2026年6月:モロッコで幼虫集団や成虫集団が広範囲に確認され、5月に41,946ヘクタールだった防除実施面積は6月に88,501ヘクタールに増加した。
- 2026年7月:モロッコで成虫集団の拡大が続き、モーリタニアやサヘル地域では夏季繁殖への移行が注目された。
- 2026年9月:FAOの月報では主要繁殖地域全体で状況が落ち着いたと評価された。
- 2026年10月28日:モーリタニアでは南部を中心に繁殖が継続し、11月の幼虫・成虫集団形成が予測された。
特に6月の防除面積の増加は、発生が拡大した地域で調査と防除を強化したことを示しています。防除面積は被害を受けた農地面積そのものではなく、対策が実施された面積である点にも注意が必要です。
2026年も続くJIRCASの現地研究日本の国立研究開発法人である国際農林水産業研究センター(JIRCAS)も、サバクトビバッタの生態解明と防除技術の研究を進めています。
2026年1月23日に公表された出張報告では、2025年9月から12月にかけてモーリタニアで野外調査を実施し、異例の大発生が発生していたことが記録されています。
調査では、ふ化直後の幼虫から成虫まで幅広い発育段階を対象に、集合性や気温・地温への反応、体温調節の仕組みなどを研究しました。
こうした研究は、単に現在の群れを減らすだけではなく、バッタがどこに集まり、いつ繁殖するのかを把握して、被害が大きくなる前に対処するための基礎になります。
【蝗害の農作物被害と防除】バッタの大群をどうやって食い止める?
蝗害の恐ろしさは、個体数の多さだけではありません。移動する大群が広範囲の農作物や牧草地を短期間で食べ尽くすことにあります。
農作物だけでなく牧草地にも被害が広がるサバクトビバッタはイネ科植物を含む多様な植物を食べます。農地に侵入すれば、穀物や野菜などの作物が食害され、家畜の餌となる牧草地にも影響が及びます。
FAOの資料では、サバクトビバッタの群れが1平方キロメートルの面積を占める場合、1日で約3万5,000人分に相当する食料を消費する可能性があるとされています。
これは実際の農作物被害額ではなく、群れの摂食量を人間の食料消費量に換算した指標です。それでも、巨大な群れが農業や食料供給に与える影響の大きさが分かります。
加えて、農作物の被害は収穫量の減少だけにとどまりません。家畜の飼料不足、農家の収入減少、食料価格の上昇、地域の食料安全保障への影響など、複数の問題が連鎖する可能性があります。
バッタ大量発生への基本的な防除対策大群が形成されてから対処するよりも、幼虫段階や繁殖初期に発生を把握して防除する方が効率的です。
具体的な対策は次のように整理できます。
- 発生状況の定期調査:幼虫の集団、産卵場所、成虫の分布を継続的に確認する。
- 気象と植生の監視:降雨量、土壌水分、草地の変化などから繁殖に適した地域を把握する。
- 幼虫段階での早期防除:飛翔能力を持つ成虫になる前に、発生密度の高い場所を重点的に管理する。
- 重点的な薬剤防除:必要な地域を見極め、適切な薬剤と散布方法で対応する。
- 天敵の保護:低密度地域への過剰な薬剤散布を避け、生態系による個体数抑制を考慮する。
関西国際空港の管理事例では、島全体の個体数を迅速に調査して地図化し、高密度地点から順に防除する方法が採用されました。加えて、低密度地点での薬剤散布を抑えることで天敵を保護する方針も取り入れられています。
2007年の事例で推定3,884万個体から14万個体へと生息数が急減したことは、発生密度を把握したうえで重点的に管理することの有効性を示しています。
JIRCASが解明した繁殖行動を利用する防除技術防除の効率を高めるうえで、国際農研が2021年に公表したサバクトビバッタの繁殖行動に関する研究も注目されます。
モーリタニアなどで行われた野外調査では、成熟したオスが集団をつくり、産卵直前のメスがそこに飛来して交尾する行動が明らかになりました。
加えて、交尾後のペアは夜間に集団で産卵することが確認されています。
この研究から、オスの集団を見つけた場合、すぐに防除するのではなく、その後の集団産卵場所を把握することで、より効率的な対策につながる可能性が示されました。
これは、バッタの生態を利用して薬剤の使用量を抑え、環境や人への影響にも配慮する防除技術です。
Entomophthora grylliなど自然界の天敵も重要薬剤だけに頼らない防除を考えるうえで、天敵の存在も見逃せません。
関西国際空港の事例で記録されたEntomophthora grylliは、バッタに感染する糸状菌です。1997年と2007年の大発生が、この菌の発生とともに終息したことは、自然界の生物が個体数の調節に関与することを示しています。
ただし、天敵が存在すれば必ず大発生を防げるわけではありません。気象条件や個体密度、天敵の分布などが異なるため、自然の抑制作用と人為的な防除を組み合わせる必要があります。
また、薬剤を使用する場合は、対象種に適用のある登録農薬を選び、使用基準を守ることが不可欠です。
【プロの結論】バッタ大量発生を見極めるために知っておきたい3つの判断基準
バッタの大群を見たとき、重要なのは単に個体数の多さだけで判断しないことです。種類、行動、発生環境の3つを組み合わせると、現象の実態をより正確に把握できます。
判断基準1:日本のトノサマバッタと海外のサバクトビバッタを区別するトノサマバッタは日本にも広く分布する種類です。造成地や草地などの環境条件によって、国内でも局地的な大発生が起こります。
一方、サバクトビバッタは西アフリカから中東、南西アジアを主な生息域とする別種です。2026年の海外発生情報を、そのまま日本国内の発生状況と結び付けることはできません。
国際農研の解説では、サバクトビバッタが日本へ飛来する可能性について、気象条件や飛翔能力など複数の条件が重なる必要があり、可能性は極めて低いと考えられています。ただし、絶対に起こらないと断言されているわけではありません。
判断基準2:色ではなく密度と行動を見る黒色や褐色のバッタが大量に見つかったからといって、直ちに群生相だと判断するのは適切ではありません。
重要なのは、幼虫が帯状の集団を形成しているか、成虫がまとまって移動しているか、個体同士の接触が増えているかといった行動面です。
単独で見つかった個体と、同じ場所に集中している幼虫集団では、防除上の意味も異なります。
判断基準3:雨量・土壌・植生の変化を継続して確認する大雨が降った後に草が急成長した地域や、乾季に入って餌場が限られてきた地域では、繁殖と個体の集中に注意する必要があります。
海外ではFAOのLocust Watch、日本国内では農林水産省の病害虫発生予察情報と都道府県の病害虫防除所が、実用的な情報源になります。
農林水産省は2026年10月9日時点で、全国の都道府県と連携した病害虫発生予察情報を公表しています。地域ごとの警報・注意報や発生予測を確認することで、実際の農業現場に近い情報を得られます。
【よくある質問】バッタ大量発生に関するFAQ
Q1:バッタ大量発生の主な原因は何ですか?
A1:主な原因は、雨による土壌水分の回復と植物の成長、繁殖環境の改善、個体数の増加、個体同士の接触による相変異などです。特にサバクトビバッタでは、干ばつの後に豪雨が発生することで、繁殖に適した環境が生まれる場合があります。
Q2:群生相と孤独相は何が違うのですか?
A2:孤独相は低密度環境で生活し、ほかの個体を避ける傾向があります。群生相は高密度環境で形成され、仲間に引き寄せられ、集団で移動する性質が強くなります。同じ種類のバッタが環境に応じて性質を変える現象が相変異です。
Q3:2026年現在、日本でもバッタの大群は発生していますか?
A3:2026年5月には沖縄県伊平屋島で、サトウキビを対象としたバッタ・イナゴ類の発生予察注意報が発表されました。主な対象はタイワンツチイナゴで、トノサマバッタも一部確認されています。ただし、これは局地的な農業害虫の発生であり、海外のサバクトビバッタによる大規模な蝗害とは異なります。
Q4:サバクトビバッタは日本に飛来する可能性がありますか?
A4:理論上、長距離飛翔による飛来の可能性を完全には否定できません。しかし、主な生息域はアフリカから中東、インドにかけてであり、日本への到達には大量発生、風向き、気温など複数の条件が重なる必要があります。国際農研は飛来の可能性を極めて低いと評価しています。
Q5:バッタの大量発生を自然に終わらせる天敵はいますか?
A5:鳥類などの捕食者のほか、バッタに感染する糸状菌などが個体数の抑制に関係します。関西国際空港ではEntomophthora grylliの発生とともに大発生が終息した事例が記録されています。ただし、天敵だけで常に被害を防げるわけではなく、早期調査と適切な防除を組み合わせる必要があります。
バッタ大量発生の背景には、雨や干ばつによる植生の変化、繁殖に適した土壌環境、個体密度の上昇、そして相変異という複雑な仕組みがあります。
特に重要なのは、雨が降って植物が増えるだけではなく、その後の環境変化によって個体が集中し、孤独相から群生相へと変化する過程です。この連鎖が、大群の形成と広範囲への移動につながります。
2026年11月現在、FAOの最新月報では主要繁殖地域全体の状況は比較的落ち着いているものの、モーリタニアでは繁殖が続いており、局地的な警戒が必要です。日本では沖縄県伊平屋島の注意報が、国内でも地域に応じた監視と対策が必要であることを示しました。
また、関西国際空港の推定3,884万個体という記録は、日本でも環境条件が重なれば大規模な発生が起こり得ることを示しています。
今後の防除で重要になるのは、発生後に大量の薬剤を散布することだけではありません。気象・植生・個体密度の変化を早期に捉え、幼虫段階で重点的に対処し、天敵を含む生態系への影響を抑えながら管理することです。
バッタ大量発生は、単なる昆虫の異常繁殖ではなく、気候と生態系、農業、国際的な食料安全保障が結び付いた問題です。FAOの発生情報やJIRCASの研究成果を継続的に確認することが、今後の被害を予測し、適切な対策を考えるうえで重要になります。
編集上の要点: 2026年の海外情報は、FAOの9月版月報と10月28日基準のモーリタニア情報を区別して反映しています。また、日本の伊平屋島の注意報は、トノサマバッタだけでなくタイワンツチイナゴも対象としているため、両者を混同しない構成にしています。