「前広に」は「まえびろに」と読み、「あらかじめ」「前もって」という意味を持つ日本語です。一般的な日常会話ではあまり見かけませんが、官公庁や政治家の発言、国会答弁などで使われることがあります。
特に注目されたのは、2020年4月29日の衆議院予算委員会で、当時の安倍晋三首相が学校の9月入学制について「前広にさまざまな選択肢を検討していきたい」と発言したことです。この発言をきっかけに、読み方や意味を疑問に感じる人が増えました。
辞書上の意味は「あらかじめ」ですが、官庁用語としては「時間に余裕を持って」「早い段階から」というニュアンスを含む場合があります。また、「前向きに」とは意味が異なるため、ビジネスメールで使う際にも注意が必要です。
【前広にとは?】読み方・意味を辞書から正しく理解する

「前広に」の読み方は「まえびろに」!基本的な意味を解説
「前広に」の正しい読み方は、まえびろにです。
「前」は「まえ」、「広」は「ひろ」ですが、熟語として読む場合は「まえびろ」と濁ります。「まえひろ」ではありません。
辞書に掲載されている意味小学館の『デジタル大辞泉』では、「前広」について「以前。前々」と説明しています。また、「に」を伴って副詞的に用いることが多いとされています。
一方、『精選版 日本国語大辞典』では、次のような意味が掲載されています。
- 以前
- 前もって
- あらかじめ
- かねてより
つまり、ある出来事や行動が起こる時点よりも前に、物事を行うことを表す言葉です。
「前広」と「前広に」の違い「前広」は単独では名詞として扱われますが、「前広に」とすると、動作や行動の時期を修飾する副詞的な表現になります。
例えば、次のような違いがあります。
- 前広:以前、前々からという時間的な意味を持つ言葉
- 前広に:あらかじめ、前もってという意味で動作を修飾する表現
実際のビジネスや行政の文章では、「前広に検討する」「前広に調整する」のような使い方が代表的です。
「前広」は一般的な日本語?方言なの?「前広」は特定地域の方言ではありません。
江戸時代の浄瑠璃作品にも登場する歴史のある言葉です。ただし、日常会話で広く使われる表現ではなく、現代では行政関係者や政治家の発言などで耳にする機会が比較的多い言葉です。
そのため、一般の読者がニュースで初めて見て、意味を理解できないことも珍しくありません。
【語源・由来を検証】前広にの「広」にはどんな意味がある?
前広にの語源・由来は?江戸時代から存在する古い表現
「前広」という言葉を理解するうえで興味深いのが、時間的な意味だけでなく、空間的な意味も持っていることです。
『精選版 日本国語大辞典』には、大きく分けて2つの意味が掲載されています。
① 前方を広く開いた状態古い用法では、「前広」は前方を広く開いた状態を表す言葉として使われていました。
辞書には、1658年の『舞正語磨』における用例が掲載されています。
ここでの「前広」は、時間ではなく空間的な広がりを表しています。
② ある時点より前の時間的な広がりもう一つは、時間に関係する意味です。
辞書では、ある時点より前の時間の広がりを表すものとして説明されています。
「まえびろに」「まえびろから」という形で、「以前」「あらかじめ」「前もって」という意味で使われます。
『精選版 日本国語大辞典』には、1712年頃の浄瑠璃『長町女腹切』の用例も掲載されています。
語源を理解するときのポイント「前」と「広」という漢字を見ると、単純に「前の範囲を広くする」という意味を想像する可能性があります。
ただし、現代の「前広に」がどのような経緯で行政用語として定着したのかについて、辞書の語義だけから一つの由来を断定することはできません。
押さえておきたいのは、もともと空間的な意味を持つ言葉であり、古くから時間的な意味でも使用されてきたという点です。
【官庁用語としての前広に】時間に余裕を持ってという意味が広まった背景
前広には官庁用語?国会答弁での使用例と意味の変化
「前広に」が一般の人にも知られるようになった背景には、行政や政治の世界での使用があります。
官庁では、単に「前もって」というだけでなく、十分な時間的余裕を確保しながら検討や調整を進めるという趣旨で使われることがあります。
この使い方が、一般的な辞書の意味と少し異なって感じられる理由です。
官庁用語としての特徴行政の仕事では、制度変更や政策の検討に際して、関係部署との調整、専門家への意見聴取、必要な手続きなど、さまざまな準備が必要になります。
そのため、早い段階から検討を始めることや、一定の時間的余裕を確保することが重要になります。
「前広に検討する」という表現には、こうした行政実務上の感覚が反映されている場合があります。
ただし、「前広に」は法律で定義された専門用語ではありません。官庁で慣習的に使われる表現と理解するのが適切です。
国会答弁で注目された2020年の使用例特に大きな話題となったのが、2020年4月29日の安倍晋三首相による国会答弁です。
新型コロナウイルスの感染拡大によって全国の学校が休校となり、学校の9月入学・新学期制度への移行が議論されていた時期でした。
安倍首相は衆議院予算委員会で、9月入学について次のように述べました。
「これぐらい大きな変化がある中においては、前広にさまざまな選択肢を検討していきたい」
この発言は、衆議院調査局が2020年12月に発行した調査資料『RESEARCH BUREAU 論究』第17号にも記録されています。
当時のニュースでは「前広に」という表現に読み仮名を付けたり、意味を補足したりする対応も見られました。
2020年2月にも国会で使用されていた実は、安倍首相の4月の発言より前にも、国会で「前広に」は使用されていました。
2020年2月3日の衆議院予算委員会では、新型コロナウイルスへの感染防止対策について、当時の加藤勝信厚生労働大臣が次のように答弁しています。
「前広に前広に感染の防止をしなきゃいけない」
同じ答弁の中では、感染症への慎重な対応と、感染防止のための対策を早い段階から講じることのバランスについても説明されていました。
この例からも、行政の現場では「前広に」が政策対応や事前の準備に関係する言葉として使われていたことが分かります。
前広にをめぐる意味の解釈は一つではない毎日新聞の校閲関連メディア「毎日ことばplus」は、2020年5月に「前広に」の解釈についてアンケートを実施しました。
その結果は次のとおりです。
| 解釈 | 回答割合 |
|---|---|
| 視野を広く | 53.6% |
| あらかじめ | 20.9% |
| 前向きに | 19.2% |
| できるだけゆっくりと | 6.4% |
この調査では「視野を広く」という解釈が最も多くなりました。
しかし、辞書に掲載されている意味は「あらかじめ」「前もって」です。
つまり、実際の使用場面では、辞書的な意味と話し手・聞き手が受け取るニュアンスに差が生じていたのです。
ここが「前広に」という言葉の興味深い点です。
辞書では時間的な意味が中心ですが、行政や政治の文脈では、検討する時間や対象範囲についての含みが加わることがあります。
ただし、どれほど早く始めるのか、どの程度の時間的余裕を確保するのかまでは、この言葉だけでは判断できません。
【徹底比較】前広に・前もって・前向きにの違いと類語・言い換え
前広にと前もって、前向きにの違いは?間違えやすい表現を比較
「前広に」を理解するうえで、特に注意したいのが「前もって」と「前向きに」の違いです。
漢字に「前」が共通しているため、似た意味に感じられますが、それぞれ表す内容は異なります。
前広にと前もっての違いこの2つは、比較的近い意味を持っています。
「前もって」は、ある出来事が起こる前に準備や行動を済ませることを意味します。
一方、「前広に」は辞書的には「あらかじめ」「前もって」とほぼ同じ意味ですが、行政的な文脈では時間的な余裕を確保するニュアンスが加わることがあります。
例えば、次のような違いです。
- 前もって資料を準備する:必要な時期より前に準備する。
- 前広に資料を準備する:早い段階から余裕を持って準備する、というニュアンスで使う。
ただし、この違いは必ずしも辞書で厳密に区分されているものではありません。
前広にと前向きにの違いこちらは明確に意味が異なります。
「前向きに」は、物事に対して積極的に取り組もうとする姿勢を表します。
一方、「前広に」は時間的な先取りを表す言葉です。
例えば、次の2つを比較してください。
- 前広に検討する:早い段階から、時間的な余裕を持って検討する。
- 前向きに検討する:実現する方向で積極的に検討する。
「前広に検討する」と言ったからといって、必ずしも賛成しているわけではありません。
また、「前向きに検討する」と言ったからといって、事前に十分な時間を確保するという意味にはなりません。
この違いを理解しておくと、政治家の発言やビジネス上の返答を誤解しにくくなります。
前広にの類語・言い換え表現一覧| 類語・言い換え | 意味・ニュアンス | 使用場面 |
|---|---|---|
| あらかじめ | 事前に準備する | 日常・ビジネス |
| 前もって | 物事が起こる前に行う | 日常・ビジネス |
| 事前に | 実施前に行う | ビジネス・行政 |
| 早めに | 通常より早い時期に行う | 日常・ビジネス |
| 余裕をもって | 時間的なゆとりを確保する | ビジネス・行政 |
| 先んじて | 他より先に行動する | ビジネス・文章 |
| かねてより | 以前から継続している | 書き言葉・ビジネス |
| 早い段階から | できるだけ早期に着手する | ビジネス・行政 |
特におすすめなのは「余裕をもって」と「事前に」です。
どちらも意味が伝わりやすく、相手の年齢や職業を問わず使用できます。
【実践編】前広にの使い方とビジネスメール・例文集
前広にの使い方は?ビジネスで自然に使える例文を紹介
「前広に」は、事前の準備や調整、検討などを表す文章で使用できます。
特に、行政機関や大規模な組織など、複数の関係者との調整が必要な場面では、意味が通じることがあります。
ここでは具体的な例文を紹介します。
① 仕事の準備やスケジュール調整で使う例文「来月のプロジェクトに向けて、必要な資料を前広に準備しておきます。」
この文章では、プロジェクト開始直前ではなく、早い段階から資料を準備しておくという意味になります。
別の例として、次のような使い方もできます。
- 「繁忙期に備えて、関係部署と前広に調整を進めます。」
- 「制度変更の影響について、前広に確認しておく必要があります。」
- 「次年度の予算について、前広に検討を開始します。」
いずれも、早期の準備や検討を意識した表現です。
② 取引先や社外関係者との連絡で使う例文社外とのやり取りでは、意味の伝わりやすさを優先することが大切です。
例えば、次のような文章が考えられます。
「今後のスケジュールにつきましては、関係各所と前広に調整を進めてまいります。」
ただし、相手が「前広に」という言葉に慣れていない場合、具体的に何をいつまでに行うのかが伝わりにくくなります。
そのため、一般的な取引先には次の表現がおすすめです。
「今後のスケジュールにつきましては、十分な時間的余裕を確保したうえで、関係各所と調整を進めてまいります。」
③ ビジネスメールで使う場合の例文実際のメールでは、次のような使い方ができます。
社内向けのメール例
関係者各位
お疲れさまです。
次年度のプロジェクトについて、今後の進行を円滑に進めるため、関係部署との調整を前広に開始したいと考えております。
つきましては、各部署で想定される課題や必要な準備事項について、事前に情報共有をお願いいたします。
今後のスケジュールについては、取りまとめのうえ、改めてご連絡いたします。
どうぞよろしくお願いいたします。
この例文では、組織内で「前広に」という表現が共有されていることを想定しています。
一般的な取引先に送る場合は、次のように言い換えると、より分かりやすくなります。
関係者各位
いつもお世話になっております。
次年度のプロジェクトを円滑に進めるため、早い段階から関係部署との調整を開始したいと考えております。
つきましては、各部署で想定される課題や必要な準備事項について、事前に情報共有いただけますと幸いです。
今後のスケジュールにつきましては、取りまとめ次第、改めてご案内いたします。
何卒よろしくお願いいたします。
④ 日常生活で使う場合の例文日常生活でも意味としては使用できますが、少し硬い印象になります。
例えば、次のような表現です。
- 「旅行の予定は前広に決めておこう。」
- 「引っ越しの準備は前広に進めておきたい。」
- 「必要な手続きについて前広に確認しておく。」
ただし、家族や友人との会話では「早めに」「前もって」と言ったほうが自然です。
【誤用・注意点】前広にを使ってはいけない場面とは?
前広にの誤用・注意点!ビジネスで失敗しない判断基準
「前広に」は辞書に掲載されている正しい日本語ですが、どのような場面でも自然に使えるわけではありません。
特に注意したいのは、意味が曖昧になりやすいことと、一般的な認知度が高くないことです。
注意点①「前向きに」と同じ意味で使わない最も多い誤解の一つです。
「前広に検討します」と「前向きに検討します」は、意味が違います。
前者は時間的な先取り、後者は積極的な姿勢を表します。
相手の提案を肯定的に受け止めていることを伝えたいなら、「前向きに検討します」を使用してください。
注意点② 具体的な期限を示す言葉ではない「前広に対応します」と伝えても、いつまでに対応するのかは分かりません。
例えば、取引先から納期を確認されたときに「前広に対応します」とだけ返答すると、相手は具体的なスケジュールを把握できません。
その場合は、次のように伝えるほうが明確です。
- 「3営業日前までに対応いたします。」
- 「今週中に準備を完了いたします。」
- 「十分な時間を確保し、来月初旬から作業を開始いたします。」
行政関係者や官庁用語に慣れている人には伝わっても、一般企業の社員や日常的に使わない人には分かりにくい可能性があります。
特に初めて取引する相手には、一般的な表現を選ぶのが無難です。
注意点④「前広に幅広く」と重ねる場合は注意する「前広に」は、文脈によって「広い範囲で」「視野を広く」という意味に受け取られることもあります。
しかし、辞書に掲載されている基本的な意味は時間的なものです。
「幅広く検討する」という意味を明確に伝えたいなら、「幅広い選択肢を検討する」と表現するほうが適切です。
前広にを使うべき人・避けたほうがよい人| 使用する人・場面 | 判断 | 理由 |
|---|---|---|
| 官公庁・行政関係者 | 適している場合がある | 業務上の慣用表現として通じやすい |
| 社内のプロジェクト管理 | 条件付きで適している | 共通認識があれば簡潔に伝えられる |
| 一般的な取引先へのメール | 言い換えがおすすめ | 意味が伝わらない可能性がある |
| 家族や友人との会話 | あまりおすすめしない | 硬く、日常的ではない |
| 明確な納期を伝える場面 | 避けたほうがよい | 具体的な期限を示せない |
プロの文章作成という観点では、言葉の正しさだけでなく、相手が一度読んだだけで意味を理解できるかどうかが判断基準になります。
【よくある質問】前広にの読み方・意味・使い方に関するFAQ
前広にに関するよくある質問(FAQ)
Q1:「前広に」は「まえひろに」と読んでも正しいですか?
A1:一般的な辞書に掲載されている読み方は「まえびろに」です。「ひろ」ではなく「びろ」と濁って読みます。
Q2:「前広に」は官庁用語ですか?
A2:官庁や行政関係者の間で使われる慣用的な表現です。ただし、官庁だけで使われる言葉ではなく、江戸時代から存在する日本語です。
Q3:「前広に」と「前もって」は同じ意味ですか?
A3:辞書的には非常に近い意味です。どちらも「あらかじめ」「以前から」を表します。ただし、官庁での使用では「前広に」に時間的な余裕を持たせるニュアンスが加わることがあります。
Q4:「前広に」と「前向きに」の違いは何ですか?
A4:「前広に」は時間的な意味、「前向きに」は積極的な姿勢を意味します。「前広に検討する」は早い段階から検討すること、「前向きに検討する」は実現に向けて積極的に検討することです。
Q5:「前広に」はビジネスメールで使用しても問題ありませんか?
A5:使用自体に問題はありません。ただし、一般的には「事前に」「早めに」「余裕をもって」などの表現のほうが伝わりやすくなります。
Q6:「前広に」の類語や言い換えには何がありますか?
A6:「あらかじめ」「前もって」「事前に」「早めに」「余裕をもって」「先んじて」「かねてより」などがあります。文章の目的に合わせて選ぶことが大切です。
Q7:「前広に検討します」は、検討することが決定したという意味ですか?
A7:必ずしもそうではありません。検討を早い段階から進めるという意味であり、提案を採用することや実現することを約束する表現ではありません。
「前広に」は「まえびろに」と読み、「あらかじめ」「前もって」「以前から」という意味を持つ日本語です。
辞書に掲載されている古い表現であり、現代では官庁用語としても使われています。
特に押さえておきたいのは、次の3点です。
1. 辞書的な意味は「あらかじめ」「前もって」である。
2. 官庁では「時間に余裕を持って」というニュアンスで使われる場合がある。
3. 「前向きに」とは意味が異なり、積極性や賛成の意思を示す言葉ではない。
2020年の安倍首相による9月入学をめぐる国会答弁は、この言葉の意味や使い方が広く注目されるきっかけになりました。
2026年現在、ビジネス文章や行政関係の発言を正しく理解するためにも、言葉の基本的な意味と使用場面を区別しておくことが大切です。
【プロの結論】
「前広に」は、単に難しい言葉を使っているというだけではありません。時間的な余裕を持って物事を進めるという行政実務の感覚を表現できる一方、具体的な期限や行動を曖昧にしてしまう側面もあります。
自分で使う場合は、相手が意味を理解できるかを考え、必要に応じて「事前に」「余裕をもって」「〇日までに」と言い換えるのが賢明です。
言葉の意味を知るだけでなく、相手に誤解なく伝えること。それが「前広に」を正しく理解し、使いこなすための最も大切なポイントです。