「どちらにしようかな」は、一般には数え歌や選び歌と呼ばれることがあります。しかし、わらべうた研究の分類では、より具体的に「となえうた」として扱われています。
この違いを理解すると、歌詞が自由に変化する理由も分かりやすくなります。
「となえうた」とは何か?となえうたとは、遊びの中で言葉を唱えること自体に意味があるわらべうたです。
森薫氏の2014年の研究では、となえうたには次のような種類があると整理されています。
- 数え歌:数字や数の順序を唱えるもの
- 悪口・からかい歌:言葉の繰り返しや掛け合いを楽しむもの
- まじない・約束歌:決まり事や約束を言葉にするもの
- 選択のための唱え歌:複数の候補から一つを決めるもの
「どれにしようかな」は、最後の選択のための唱え歌に当たります。
数を数えることそのものが目的ではなく、唱えた言葉に合わせて選択肢を決定する点が特徴です。
基本的な遊び方は3ステップ
STEP 1:選択肢を並べる
お菓子、遊び道具、遊ぶ順番など、決めたいものを複数用意します。
STEP 2:歌詞に合わせて指を動かす
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り」と唱えながら、言葉の音や拍に合わせて順番に指を差します。
STEP 3:最後に指したものを選ぶ
最後の音に当たった選択肢が、基本的なルールでの決定対象になります。
ここで登場するのが、「なのなのな」や「鉄砲撃ってバンバンバン」です。
最初のフレーズを唱え終わっても、指が自分の希望するものに当たらない場合があります。
そこで、さらに言葉を付け足して指さしを続けます。
例えば、次のような組み合わせです。
- どちらにしようかな
- 天の神様の言う通り
- なのなのな
- 鉄砲撃ってバンバンバン
- もひとつおまけにバンバンバン
- 柿の種
これは全国統一の歌詞ではなく、複数のフレーズを組み合わせた一例です。
森氏の研究でも、子どもたちが希望する選択肢に到達するまで、追加のフレーズを繰り返す実態が記録されています。
つまり、この歌には固定された終了地点があるとは限らず、遊びながら長くなることもあるのです。
【世代によっても違う?】昭和・平成・令和の歌詞を比較する

地域差と同じくらい気になるのが、世代による違いです。
親が覚えている歌詞と子どもが覚えている歌詞が違う場合、家庭内で話題になることもあります。
ただし、昭和生まれならこの歌詞、平成生まれならこの歌詞という全国共通の世代区分は確認されていません。
1999年から始まった歌詞収集調査世代差を考える際に参考になるのが、甲南女子大学の兼任講師だった田中千晶氏による収集活動です。
田中氏は1999年、神様の種類と地域分布を調べる目的で「どっちの神様」の歌詞収集を始めました。
アンケート用紙による実地調査とインターネット調査を行い、歌詞の全文、子どもの頃に住んでいた地域、投稿時の年齢などを記録しています。
2020年12月のまいどなニュースの取材では、2014年時点で投稿が557件を超えていたと紹介されました。
この収集資料の特徴は、歌詞だけでなく、投稿者の年齢と地域も記録している点です。世代や生活圏の違いを考えるための貴重な資料になっています。
世代によって歌詞が変わる仕組み世代差が生まれる背景には、子どもたちが日常的に触れる言葉の変化があります。
例えば、鳥取県南部町の例では「ゲゲゲの鬼太郎」という言葉が登場しています。
また、田中氏の収集資料には、投稿者の年代や居住地が異なるさまざまな歌詞が記録されています。
こうした例から考えられるのは、歌詞が家庭や学校で伝えられるだけでなく、その時代の子どもたちの生活や流行を取り込みながら変化していくということです。
ただし、これらの収集資料は全国の人口を代表する無作為調査ではありません。特定の歌詞が特定の年代に流行したと断定できる統計ではない点には注意が必要です。
親子で歌詞が違っても間違いではない親が「なのなのなすびの柿の種」と歌い、子どもが「鉄砲撃ってバンバンバン」と歌っても、どちらかが間違っているわけではありません。
むしろ、同じ遊びが異なる地域や世代に受け継がれてきたことを示しています。
親子で歌詞を比べる場合は、次の3点を聞いてみると違いが見つかりやすくなります。
1. 子どもの頃に住んでいた都道府県や市町村
2. 「天の神様」の後に何を付けていたか
3. 最後に「柿の種」や「鉄砲撃って」などを追加していたか
特に、出身地が違う家族同士では、予想外の歌詞が出てくることがあります。
【プロの結論】正しい歌詞よりも、地域と伝承の仕組みを知ることが大切
「どちらにしようかな」の歌詞を調べるとき、最初に整理しておきたいのは、正解を一つに決められる歌ではないということです。
インターネット上では、さまざまな歌詞が紹介されていますが、掲載されている回数が多いものが元歌とは限りません。
歌詞を見極めるときには、次の3つの基準が役立ちます。
判断基準1:地域の伝承例と全国共通の歌詞を混同しない「なのなのなすびの柿の種」は北海道の採集例として知られていますが、北海道全域の統一歌詞ではありません。
「鉄砲撃ってバンバンバン」も複数地域で確認されていますが、すべての地域で使われているわけではありません。
地域別の一覧は、その地域で採集された一例として読むことが大切です。
判断基準2:歌詞の長さではなく、遊びの目的を見る短い歌詞でも、長い歌詞でも、基本的な目的は同じです。
複数の候補から一つを選ぶことが目的であり、歌詞を長くすること自体が正しい遊び方というわけではありません。
一方、子どもたちが自分の希望に合わせてフレーズを付け足す行為も、この遊びの伝承に見られる特徴です。
判断基準3:元歌や発祥地を断定する情報に注意する「この県が発祥」「この歌詞が全国共通の原型」といった説明には、根拠となる歴史資料が必要です。
2005年の埼玉県立久喜図書館の調査でも、元歌やオリジナルの形は特定されませんでした。
一方、東京未来大学の研究では、地域や世代による変化だけでなく、指さしの動作やリズムが歌詞の構造に関係していることが分析されています。
この2つを合わせると、元歌探しだけでは見えてこない、わらべうたとしての本質が分かります。
この歌の価値は、正しい歌詞が一つあることではなく、子どもたちが自分たちの言葉で作り替えながら受け継いできたことにあります。
【よくある質問】どちらにしようかな天の神様の言う通りに関するFAQ
Q1:「どちらにしようかな天の神様の言う通り」の正しい歌詞は何ですか?
A1:全国共通の正しい歌詞はありません。「なのなのな」「柿の種」「鉄砲撃ってバンバンバン」「ぷっとこいて」など、地域や世代によって異なる伝承形があります。
Q2:「なのなのなすびの柿の種」は何県の歌詞ですか?
A2:北海道の歌詞例として紹介されています。ただし、北海道全域で共通して使われているわけではなく、地域や家庭による違いがあります。
Q3:「鉄砲撃ってバンバンバン」はどこの地域の歌ですか?
A3:愛知県、鳥取県、千葉県、静岡県など、複数の地域で採集・報告されています。全国に広がる代表的なフレーズの一つです。
Q4:「どちらにしようかな」は数え歌ですか?
A4:一般には数え歌や選び歌と呼ばれることがありますが、わらべうた研究では「となえうた」に分類されます。指さしと唱える言葉を組み合わせ、選択肢を決める遊びです。
Q5:「どちらにしようかな」の発祥地や元歌は判明していますか?
A5:特定されていません。国立国会図書館のレファレンス協同データベースでも、2005年の調査時点で元歌やオリジナルの形は確認できなかったと記録されています。
Q6:なぜ歌詞の最後に「柿の種」や「鉄砲撃って」が付くのですか?
A6:子どもたちが指さしを続けるために、リズムに合う言葉を追加してきたためです。自分の希望する選択肢に当たらなかったとき、さらにフレーズを付け足す遊び方も研究で確認されています。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り」の続きは、全国一律ではありません。
「なのなのなすびの柿の種」「鉄砲撃ってバンバンバン」「あべべのべ」「ぷっとこいてぷっぷっぷ」など、地域や生活圏によってさまざまな歌詞が受け継がれています。
今回確認した資料から分かる要点は、次のとおりです。
- 地域差: 同じ都道府県内でも市町村や学校によって歌詞が違う。
- 世代差: 世代によって覚えている言葉が異なる可能性があるが、全国共通の年代別分類はない。
- 歌の分類: わらべうたの「となえうた」に当たり、選択肢を指さして決める遊びである。
- 発祥と元歌: 作者や発祥地、唯一の正しい歌詞は特定されていない。
- 歌詞が変わる理由: 基本のリズムを保ちながら、地域の言葉や子どもたちの即興性が加わるため。
2026年現在も、この歌は昔の歌詞をそのまま保存するだけの存在ではありません。新しい世代が新しい言葉を取り入れ、遊びの中で変化させていく余地を持っています。
自分が覚えている歌詞を家族や友人と比べてみると、同じ日本語の遊び歌でも、育った地域や時代によって違う記憶が残っていることに気づくはずです。
元歌が一つに決まらないことこそ、このわらべうたが長く親しまれてきた理由の一つなの可能性があります。
参考にした主な資料- 森薫「わらべうたの多様性をうみだす諸要因についての一試論―となえた『どれにしようかな』を題材として―」東京未来大学、2014年。
- 国立国会図書館レファレンス協同データベース「選び歌の発祥と元になった歌」に関する調査事例、2005年。
- まいどなニュース「続きのフレーズ、全国から500超の投稿」、2020年12月5日。
- TBS NEWS DIG・山陰放送「この後に続くフレーズは?地域によって多くの種類が存在」、2022年12月13日。
- NST新潟総合テレビ「地域によって全然違う!続きのフレーズを街で聞いてみた」、2023年10月11日。